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第19回 ─ HIGH VOLTAGE

連載
SPOTLIGHT!
公開
2006/07/06   23:00
ソース
『bounce』 277号(2006/6/25)
テキスト
文/宮本 英夫

エモーショナル・ロックの新星がついにメジャーの舞台へ躍り出る!感情の赴くままに4人が巻き起こす、嵐のような爆音を体感しよう!!


 爆音で繰り広げられる激しいステージに目を奪われつつ、メンバーが着ているTシャツの文字を確認してニヤリとする。高橋大望(ヴォーカル/ギター)はピンク・フロイド、佐藤弘坪(ギター)はレッド・ツェッペリン、吉岡貴裕(ベース)はラモーンズ、そして菱谷昌弘(ドラムス)はTシャツじゃなくてお洒落なポロシャツ。実際出てくる音も、古典的ロックンロールのなかに、90年代以降リアルタイムで体験したであろうハードコア、メロコア、オルタナティヴ・ロックなどをブレンドした、ある意味非常にわかりやすいエモ・ロック。心の命ずるままに好きな音をぶつけあい、この手のバンドにありがちな重苦しさやマニアック感からギリギリのところで開放されているのがHIGH VOLTAGEの魅力だろう。高橋が、時折笑顔を浮かべてメンバーや観客に語りかけようとするのを見ると〈こいつら、悪い奴らじゃないよな〉という妙な親近感も湧いてくる。6月2日、東京・下北沢CLUB251で初めて観た彼らのライヴの印象は、大体そんなところだ。

 そもそもこのHIGH VOLTAGEは、2002年に札幌で結成され、現在のメンバーになったのは2005年。とにかくライヴの数が尋常ではなく、2005年には120本、そして〈RISING SUN〉への出演も果たしている。音源としては、2枚のミニ・アルバム『HIGH VOLTAGE』『此処にいる』を2004年に発表。さらに、その全曲を現在の4人編成で録り直し、新曲を加えたフル・アルバム『GEFUHL』もつい先日リリースしたばかりだ。荒削りで、生々しく、火傷しそうな熱気に包まれた手強いアルバムだが、ハッとするほど美しいメロディーがいくつもある。そしてCDパッケージの内側には〈BELIEVE THE GOD OF ROCK 'N' ROLL〉と書いてある。彼らの確信の源がどこにあるのかは、それだけで明白だろう。

 こうして過去の作品に一旦ケリをつけてから制作されたのが、6曲入りの最新ミニ・アルバム『CORE』である。これまでの、野放し一辺倒だった熱気をアレンジ力でコントロールし、スタイリッシュなスピード感とダンサブルな昂揚感を出すことに成功した1曲目“Nostalgy”のヌケの良い音を聴けば、彼らが音楽的に次のステージへと進んだということがよくわかる。まず音像が明るい。演奏がよりシンプルに、隙間を作れるようになった。ラストの“AM4:58”は4分足らずの曲だが、繰り返すリズムのなかで次第に体温が上がっていく様子がうまく閉じ込められていて、ライヴで10分ぐらいに伸ばしたヴァージョンをやっても気持ち良いだろうな、とか、そんな想像も膨らんでくる。

 まだバンドとしての可能性は未知数。だが、彼らは自分のやれることをかなり明確に把握しているし、音に迷いは感じられない。こういう無骨で、かつ正直なバンドが受け入れられるのなら、それは日本のロックにおいて良い兆候ではないかと思う。

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