こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第80回 ─ そろそろリアルなジャマイカに足を踏み入れてみませんか?

BURNING SPEAR 信じるもののために立ち上がれ!──彼のメッセージは今日も世界にこだまする

連載
360°
公開
2006/01/26   18:00
ソース
『bounce』 272号(2005/12/25)
テキスト
文/鈴木 智彦

「私にとって音楽とは人生なのだ。音楽とはインスピレーション、閃きのようなものだと思う」。

 ウィンストン・ロドニーa.k.a.バーニング・スピア(ケニアの燃える槍)。70年代レゲエ映画の名作「ロッカーズ」のワンシーンで、彼が傷ついた主人公にアカペラで歌って聴かせた“Jah No Dead”を聴いた瞬間から、レゲエという音楽の持つスピリチュアルな力に引き寄せられてしまった人も多いことだろう。70年代は遥か遠くに去っても、いまでも彼が人生という河のほとりに佇み、人々に力を与えてくれるようなあのスピリチュアルな歌を歌い続けてくれていることの証となる素晴らしいニュー・アルバム『Our Music』が届いた。

「このアルバムで音楽的に、詞的に僕が表現しようと試みたのは、レゲエの歴史や文化、ライフスタイルについてもっとも熱く歌っていた70年代にルーツ・バックすることだった。当時の僕の曲というのは、どれもずいぶんと政治的だった。みんなそういうふうに思っていただろう? でも僕にしてみれば、それはとてもナチュラルな、自然なことだったんだよ」。

 彼の代表作と呼ばれている名作『Marcus Garvey』の冒頭曲の歌詞〈お前は奴隷だった日々を覚えているかい〉はあまりに強烈すぎて、そういった過去や歴史を共有しているわけではない部外者にとっては、些かたじろぎを覚えたことも確かだ。

「誰も暴力なんて肯定してはいない。黒人たちが普通に暮らしていき、その声を聞いてもらえるような環境を作れるよう団結して闘っていこう、そう(マーカス・ガーヴェイは)説いているのさ。彼のおかげでどれだけ多くの人が開眼したことか。彼のサポートによってどれだけ多くの人が声を上げられるようになったことか。ひとつひとつの声が束ねられ、どれだけ大きな力となり、それが外の世界へと伝わっていったことか! いまこそ彼の名前や記録に新たなる光が投げかけられるべきだと、本当に心の底から思っているよ」。

 ボブ・マーリーが〈俺たちは小さな斧かも知れないが、いつかその小さな斧がバビロンという巨木を切り倒すのさ〉と歌ったように、スピアはガーヴェイというひとりの思想家を通じて、多くの人々に不当な抑圧や多くの欺瞞に対して、諦念ではなくひとりひとりが声を上げよう(!)と歌い続けてきた、ということなのだろう。その勇気とは、例えばいまの日本に暮らすわれわれだって必要とするものかも知れない。

「信じるもののために立ち上がる、そんな人々のことを強く信じているのさ。自分のためだけでなく、自分やそのまわりの人々のために立ち上がる勇気を持った人々のことをね。それこそジョモがやってきたことだから」。

 ケニアの初代首相、ジョモ・ケニヤッタのニックネームから名前を拝借したことについてのスピアの説明だ。これもまた、われわれがこの人生の旅路の中で、ごくごくあたりまえにキープし続けたい気概のようなものであると思う。家族のため、友人のため、恋人のため、立ち上がる勇気を必要とする時が一度や二度は必ずあるはずだから。

 トレードマークの髭はすっかり白くなっても、スピリチュアルな力が宿った歌声の素晴らしさと、サウンド(もちろん彼のバンド主体の生演奏だ)のしなやかな躍動感は、これまでに残してきた数々の名作と比べてもなんら遜色がない。今回のアルバムには映画「ロッカーズ」の主人公、かつてスピアのバンドの一員でもあったあのリロイ・ホースマウス・ウォレスのドラム演奏が何曲かでフィーチャーされている(!)という嬉しい話題性もある。人生という河のほとりで、信じる者の力強さと、それを守り抜くための勇気の大切さを教えてくれる導師に出会えたことを、素直に喜びたい。