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第3回 ─ 〈bounce.com4周年記念〉向井秀徳の妄想処方盤スペシャル テーマ:政界激変!? お正月の永田町で聴きたい盤

連載
bounce.com 4th Anniversary Special
公開
2005/12/28   17:00
更新
2006/01/05   19:33
テキスト
文/bounce.com編集部

向井秀徳(ZAZEN BOYS)の語り下ろし連載がコチラ。毎回編集部が設定したシチュエーションにもっとも適する(と思われる)ディスクを向井氏に勝手に処方いただく、実用性に溢れたコーナーです。アナタの生活の一場面を、向井秀徳のフェイヴァリット・アルバムとともに過ごしてみるのはいかがでしょう? 記念すべき第十回目のシチュエーションは、お正月……なんですが、なぜか妄想はポリティカルな方向に……では向井秀徳、かく語りき。

またbounce.com4周年を記念して、向井秀徳が最新アルバム『ZAZEN BOYS III』と、2005年のフェイヴァリット・ディスク3枚を語るポッドキャストも合わせてどうぞ!

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〈党派を越えた友情の会〉っていうのがある。それは、政党のイデオロギー関係なく代議士/議員たちが集まり、仕事終わりに新橋で飲みながら、情報交換したりカラオケを歌ったりする会。その会の人たちが〈2006年、今年もまた野党は政権交代を目指し、与党は構造改革を目指しやっていこう!〉といったようなことを言いながら、党派を越えて新年の抱負を語り合う〈友情の新年会〉という行事が元旦にある。国会議事堂のなかには〈フレンドルーム〉っていうのがあるの知ってます? ご存じじゃない? フレンドルームは2時間単位の完全予約制で、20名ぐらいが座れる掘りごたつが備えられた部屋なんですね。〈党派を越えた友情の会〉の議員先生方は、いつも新橋のガード下にある安い居酒屋に繰り出すぐらいだから、金銭的に余裕のある人たちではない。この日もフレンドルームにいいちこや菊正宗を持ち込んで、会長である与党議員、漆原先生の「今年も楽しく政っていこう!」っていうキャッチフレーズを合図に新年会を始める。〈党派を越えた友情の会〉は、なるべく気楽に政治をやりたいっていう人たちの集まりだから政党も関係ないし、楽しく飲めりゃあいいじゃんていうスタンス。国会で予算委員会とか行われてても、実はそんなに興味ない。〈早く終わって○○党のカジちゃんと新橋行きてーなー〉なんてことを考えてる。今年の抱負を誓いあって日本を良くしていこうっていう勢いもない。熱意をもってやっていないもんだから政治献金も集まらないし、そういうことに対してあんまり欲がない。〈汚れ〉を働いて自分の地位をのし上げていくエネルギーもない。メンドくさい。〈俺らはここらへんでいいや〉っていうスタンス。

赤坂の料亭ならぬ魚民から奮発して取り寄せたキムチジャン鍋8人前を肴に飲む。友情の会っていうぐらいだからみんなチャン付けで呼び合うぐらいすごく仲がいい。もちろん先輩後輩の図式もある。ある先輩の野党の議院が年下の与党の奴に「俺そっち(与党)行っちゃってもいいかな?」とか冗談でよく言ってる(笑)。で、「先輩、カンベンしてくださいよ」みたいな。ある与党の議員は「メジャーはメンドくせー。マイナーに降りるかな。ガッハッハッハ」みたいなギャグを言ってる。そんなふうに軽口を叩きながら飲んでいると、ずっとつけっぱなしにしてたテレビがニュース速報を伝える。「大変な事態が起きました。元旦に靖国神社の公的参拝を敢行した総理が死亡しました。参道に出店していた焼きそば屋のコテが頭部に突き刺さった模様で……」と。ただでさえ忙しい元日に総理が参拝に来て、隣の露店の林檎飴が紛れ込むぐらいもみくちゃになって商売にならねーと怒った焼そば屋の主人が鉄板のコテを投げ付け、それが総理の頭に突き刺さってしまったらしい。フレンドルームで〈友情の新年会〉を行っていた議員の先生たちは「ジュンイチがやられた! ジュンイチ死んじゃったよオイ!」て盛り上がってる。すぐに国会には新年の行事を行っていた他の議員や報道陣が集まる。ただ、官房長官は地元の種子島に帰って正月の行事を行ってるからすぐには来れない。与党の幹事長も〈今年は安泰だから正月は大丈夫だろう〉っていう理由で家族とパリに旅行に行ってる。その他閣僚の人たちもみんななぜか地元に戻っていたり私用だったりですぐに駆け付けられない。みんなが〈今年は安泰だから〉っていう気分になってる。ま、そんなふうに気が弛んだところで、総理が鉄板焼のコテでやられてしまったわけだ。

国会議事堂警備歴50年の丸河原さんていうハゲちゃびんの小柄なおっちゃんがいる。みんなから丸ちゃん、もしくは丸さんと呼ばれて愛されているその警備のおじさんがフレンドルームに「報道陣が詰め掛けてきて対応しきれません! どうにかしてください!」って駆け込んできた。会長の漆原先生は「晋次がいるだろ、官房の」て言うけど「いや、鍋晋次官房長官は種子島で行事に参加中だし、閣僚の人たちが一人もいない状況です」と。漆原先生は年配で任期は長いけど閣僚はやったことがない。予算委員会で質問さえしたことないし、いつも寝てばかりいる。それでなんでずっと議員をやれてこれたのか不思議でたまらんのだが……。とにかく警備の丸河原さんは「漆原先生、どうにかしてください」と必死だ。漆原先生は何をどうしたらいいのかわからなくて胸がドキドキしてる。他の〈友情の会〉の若い議員たちは「漆原先生、いってみよー!!」てみんなで盛り上がってる。「テレビカメラの前でしゃべればいいんですよ。あの、なんかブルーのバックのところで」てみんなに言われて酒も入ってる漆原先生は「それじゃいっちょいったるかー!」と顔を真っ赤っかにして、官房長官がいつも記者会見する会場に向かっていった。

テレビの全チャンネルで臨時報道特番が組まれてる。ウジテレビも総理暗殺ニュースの特番をやっていて、〈なぜ暗殺されたのか?〉っていう謎についてと、首相の参拝そのものについての是非論で政治的な議論を交わしながら、政府の公式会見が始まるのをみんなが待ってる状態。そしてようやく、ウジテレビの安藤ゆうアナウンサーが「ただいまから、政府の公式記者会見が行われる模様です。記者会見の会場に切り替えます」といって、パッと画面が会見場のカメラに切り替わる。するとそこには、いいちこを片手に持った漆原先生が真っ赤な顔をして立っている。先生に向かって凄まじい数の記者たちが「総理は!? 総理は!? 総理は!?」と連呼してる。安藤アナウンサーは「えーと? この方は確か与党の漆原正清議員だと思われるんですが……」と、なぜ官房長官が出てこないのか不思議に思いながら話している。会見場では「総理は!? 総理は!? 総理は!?」の声がだんだんと止んでいき、そして一瞬静まり返る。ある新聞記者が「あなたは誰ですか!?」と漆原先生に訊いた。漆原先生はそこでようやく口を開いた。

「私が新総理大臣の漆原です」。

その光景のバックではZAZEN BOYSの“SUGAR MAN”(『ZAZEN BOYS III』収録)が流れている。(完)
※インタビュー/久保田泰平

→ これまでの向井秀徳の妄想処方盤はこちら!



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