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第9回 ─ セレブなクリスマス・パーティーで聴きたい盤×3

連載
向 井 秀 徳 の 妄 想 処 方 盤
公開
2005/12/08   18:00
更新
2006/03/02   19:19
テキスト
文/bounce.com編集部

向井秀徳(ZAZEN BOYS)の語り下ろし連載がコチラ。毎回編集部が設定したシチュエーションにもっとも適する(と思われる)ディスクを向井氏に勝手に処方いただく、実用性に溢れたコーナーです。アナタの生活の一場面を、向井秀徳のフェイヴァリット・アルバムとともに過ごしてみるのはいかがでしょう? 第九回目のシチュエーションは、クリスマス・パーティー……なんですが、いつものように妄想はあらぬ方向に……では向井秀徳、かく語りき。


和田アキ子も推称の煮込みラーメン

 今年28歳になる新進気鋭のデザイナーで、桜木ケンジっていうのがいる。彼は、いま若者の間で大人気の〈SAKURAGISM〉っていうブランドをやっていて、フャッション雑誌を見れば〈SAKURAGISM〉の特集、原宿に行けば若者みんなが〈SAKURAGISM〉を着てるぐらいの超有名デザイナーだ。桜木は、十本木ビルズにある自宅で、友人を集めてはよくパーティーをしているのだが、今年のクリスマス・パーティーは友人知人関係者集めた豪華なイヴェントをすることになった。さすがに290平米ある自宅でもできない規模で、会場は2000~3000人を収容することができる大規模なクラブ、芝浦〈コールド〉を貸し切ることになった。このパーティーには、デザイナーをはじめアパレル・ショップの店員はもちろん、アーティスト、芸能人とすごいセレブがいっぱい集まってくる。安田美沙子とかも来てる。〈SAKURAGISM〉のパーティーに呼ばれるということは、ひとつのステイタスなわけだ。桜木は雨宮忍っていう美人女優と付き合っているのだが、女好きで有名。当日のDJは仲のいいアメリカ人、DJプリメーラ。音楽をあまり知らない桜木は、DJプリメーラから薦められたものばっかりを、〈それ聴いてりゃ間違いない〉と思っていつも聴いている。

パーティーが始まる。DJプリメーラは、ヒップホップDJとしてその界隈では知らない人はいないぐらいの大御所なんだけど、すごくベタベタな曲ばっかりかける。あまりにベタベタすぎてむしろスゴイって言われてる。クール&ザ・ギャングの“Celebration”がかかる。フロアがどっと盛り上がる。モノマネ芸人の万田我次郎は、TVでよくやってる自分のネタ〈ガジガジ・ダンス〉を“Celebration”に合わせて踊り、笑いをとっている。高森アンナという18歳のグラビア・アイドルも来ている。桜木は28歳にしていまだ「スーパー写真塾」を買ってる男なのだが、それを見て彼女を知り、友達のカメラマンを通じて誘った。アンナは〈桜木さんとお近づきになれる〉と、喜び勇んでやってきた。我次郎がガジガジ・ダンスを踊り続けてる横でさっそく桜木がアンナに「来てくれてありがとう」と声をかける。アンナもその気になって、〈もしかしたら桜木さんと付き合えるかも。そうすると私のアイドル人生も拓けるかも〉みたいなことを考えながら応える。安田美沙子は遠目にその光景を窺いながらずーっと嫉妬している。DJプリメーラがシェリル・リンの“Got To Be Real”と繋げてエモーションズの“Best Of My Love”をかける。ガジガジ・ダンスはまだずっと踊ってる。この日の料理は昔「料理の鉄人」にも出演したことのあるシェフが担当していて、〈SAKURAGISM〉のパーティーで名物になっている〈ターキー祭り〉というコーナーでは七面鳥の丸焼き100匹が登場する。俄然クリスマス気分も盛り上がり、みんなはしゃぐ。アンナもセレブのなかに囲まれ、桜木ケンジと仲良くなれて夢のようだと舞い上がる。クリスマス・パーティーにありがちな、全員が全員ハッピーというムードが会場に充満している。さらにはどこかイヤラしさも漂っていて、女性にしてみればロマンティックかつエロティックな気分にさせる雰囲気になっていった。DJの選曲に踊りはしゃぐ人たちもいる一方で、会場のあちこちでは男女がムーディーに話し込んでいたりもする。DJプリメーラがついに必殺技であるワム!の“Last Chirstmas”をかけると、みんな大喜びで諸手を挙げながら踊りはじめた。なにか取り決めでもあるかのように。お決まりのビンゴ大会もあって、1等商品は……ラッセンの絵。桜木もDJをやったりするのだが、かける曲は山下達郎の“クリスマス・イブ”やDJプリメーラがかけた一連の曲。さっきと同じ曲ばっかりを自信満々でかけている。

 クリスマス・パーティーも宴たけなわとなり、桜木がDJブースから「ハッピー・クリスマス!」と叫びながら、締めくくりとばかりにジョン・レノンの“Happy Chirstmas”をかける。桜木は、ずっと目をつけていたグラビア・アイドルの高森アンナがどこにいるのか会場を見渡すが、どこにもいない。実は、お笑い芸人の万田我次郎にお持ち帰りされていたのだった。「芸人仲間が飲んでるから、これから中目行って飲もうよ」と誘われたようで、3か月後には我次郎の自宅マンションから二人で出てくるところを写真週刊誌に撮られている。アンナを含め、パーティーに来ていた女優、アイドルなどの多くは、お笑い芸人たちに持ち帰られてしまったようである。桜木の彼女である雨宮忍もカメラマンとどこかに消えてしまった。朝まで過ごす相手を失った桜木は、ひとり悔しがった。が、ふとあたりを見ると、おカマ系タレントのGABAちゃんがポツンと立っていた。桜木は、そいつといっしょに帰った。まあ、誰でもよかったんだろう。(完)

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