NEWS & COLUMN ニュース/記事

第7回 ─ 小学校(?)の秋の大運動会で聴きたいアルバム×3

連載
向 井 秀 徳 の 妄 想 処 方 盤
公開
2005/10/06   18:00
更新
2006/03/02   19:19
テキスト
文/bounce.com編集部

向井秀徳(ZAZEN BOYS)の語り下ろし連載がコチラ。毎回編集部が設定したシチュエーションにもっとも適する(と思われる)ディスクを向井氏に勝手に処方いただく、実用性に溢れたコーナーです。アナタの生活の一場面を、向井秀徳のフェイヴァリット・アルバムとともに過ごしてみるのはいかがでしょう? 第七回目のシチュエーションは、小学校(?)の大運動会……なんですが、いつものように妄想はスゴイ方向に……では向井秀徳、かく語りき。

(いつもように妄想世界に突入~シーン1)
  これは2014年の話です。
  長野県の深い山のなかに、国立セイント・ジョン・フリン・スクールという、小等部と中等部が設けられた非常に教育の厳しい全寮制スクールがある。校長の名前はジョン・フリン。かつてはアメリカの国務長官を務め、若い頃は海兵隊の元帥だった人物だ。そんな人物が日本の全寮制の校長をやっている理由は、いろいろと国絡みの政策が関係してのことなのだけれど、それはまあいい。セイント・ジョン・フリン・スクールはエリートを養成する学校であって、学力の面はもちろんのことだが、体力の面には特別に重きを置いて、厳しい教育をおこなっている。


秋はやっぱりそうめんだね!

(シーン2~体育)
  一週間の時間割のなかで、体育の授業はものすごく多い。ほとんど体育と言ってもよく、水曜日は1時間目から8時間目までが体育。そして、このスクールでは〈体育〉という呼び方をせず、〈超体育〉と言っている。体力の増強を目的として、小学校低学年から始めさせられる〈タイヤ式カリキュラム〉では、4トン車のタイヤを転がしたり持ち上げたりひきずったりして、タイヤと慣れ親しむことを叩き込まれる。高学年になると、校庭にズラーっと並べられたタイヤを拳でドンドンドンドン打っていく〈タイヤ打ち〉という攻撃的な訓練もおこなわれる。そんなスクールを、世間では〈将来の軍人教育をしてるんじゃないか?〉と指摘しはじめていたのだが、国は「そんなことはしていない。あくまで山の自然のなかで伸び伸びとスポーツ全般の運動神経を養う学校である」と談話していた。しかし、まさにセイント・ジョン・フリン・スクールの暗の目的は、日本の国防とものすごく結びついてる部分が、正直かなりあった。

(シーン3~訓練)
  夏には小等部で〈林間レンジャー学校〉というものが実施される。これは非常に辛い訓練で、長野のさらに山奥に行き、一週間かけて一人でふた山を越えなければいけない、というものだ。児童たちに持たされるのはロープだけ。小学生にそんなことをさせて重大な事故でも起こしたら大きな問題になりそうだが、これがまたしっかりと教育されている児童たちなのでいままでまったく事故はない。林間レンジャー学校に参加できるのは先生から選ばれた児童だけで、全学年350人中20名たらずの人数。選ばれた児童たちは、山のなかで毒を持った動物や草花を見分ける術も知っている。〈八草結び〉というオールマイティーな結び方も習得していて、ロープ一本でなんでもやれてしまう。そして、林間レンジャー学校から戻ってきた児童たちが、その締めくくりとしてやる行事が〈レンジャー飛び〉。学校の近くの崖から、使いこんだ自分のロープを木の枝に結び付けて、〈レンジャーー!!!〉と叫びながら谷に飛び降りるというもの。

(シーン4~大運動会)
  そういった訓練をおこなっているセイント・ジョン・フリン・スクールの大運動会が開かれようとしている。入り口には今年のテーマである〈前進〉という文字を書いたパネルが飾ってある。去年のテーマは〈飛翔〉だった。白いテントのなかの来賓席には、芹沢防衛庁長官が座っている。このスクールで学んでいる児童/生徒は、警察や自衛隊の幹部の人たちの子供が多いのだけれど、運動会には一般の親御さんもやって来るんで、ハードな訓練の成果を試す競技などをやったりするわけじゃない。いたって普通の小中学校とあまり変わらないようなプログラムでおこなわれる。競技種目はバーベル上げ、腕相撲大会、タイヤ競争など。タイヤ競争は、いつも使っている4トン車のタイヤのなかに入って転がりながら順位を競うもの。その競技中に流れているのは、クラフトワークの『Autobahn』。というか、開会中は基本的にクラフトワークがずーっとかかっている。

(シーン5~借り物競争)
  借り物競争もある。セイント・ジョン・フリン・スクールの借り物競争は、競技を通して礼儀を養うというのがテーマ。〈ボールペン〉と紙に書かれていたら、それをいろんな親御さんのところに行って借りてくる。借りるときに態度が悪かったら叱られるわけです。借りる前にちゃんと一礼をして「○年○組の○○○○と申します。ただいまボールペンが必要であります。つきましてはお借り受けをさせていただきたいと思いまして、こちらにやってまいりましたのであります」と言わなければいけない。この競技のときに流れているBGMは、JAGATARA(暗黒大陸じゃがたら)の『南蛮渡来』。借り物競争が終わると昼休み。大抵の子供たちは、親御さんたちとレジャーシートを広げて昼食を食べる。それも、みんなウナギを食べている。力をつけるために。給食にも週4回はウナギが出ているので、このスクールではさほど珍しいものではない。


向井秀徳直筆Sケン図面

(シーン6~Sケン)
  昼休みが終わると、運動会のなかでいちばん盛り上がる〈Sケン〉という競技がおこなわれる。昔から運動会でいちばん盛り上がる競技は騎馬戦だったりしたのだけれど、騎馬戦は暴力的すぎるという昨今の風潮があるので、それはやらない。Sケンというのは地面にSの字を書いて(下図面参照)、S字のなかのあるふたつの囲みのなかにAチーム、Bチームで分かれて何人かずつが入る。S字の真ん中の線を境に手で引っ張りあい、敵方を自分の陣地に引きずり込んだら、引きずり込まれた奴は捕虜になる。であるからして、真ん中の線付近は常に緊張状態になっている。Sの囲みの開いている部分を玄関口として外周に出ることもできるのだけれど、そのときはみんなケンケン飛びをして移動しなければダメ。で、同じようにS字から出てきた敵と鉢合わせになったらケンケン飛びしながらこかし合う。こけたらそいつは死亡。S字の外周ではそういった空中戦が展開されている。ちなみに捕虜になった奴は、ケンケン飛びをして近づいてきた味方にタッチしてもらえれば生き返れるんだけれど、味方がそこまで辿り着くまでに大体こかされてしまう。来賓の芹沢防衛庁長官も目を細めながら競技を眺めている。Sケンのときは鼓舞するようなBGMを流すとヒートアップしすぎて事故が起きやすくなる、という配慮もありつつ、競技中はエンヤの“Orinoco Flow”(『Watermark』収録)がずーっと流れている。

(シーン7~赤き虎の尾党)
  エンヤをバックにSケンをやっていた最中、山の向こうからバリバリバリバリバリ!!というすさまじい音をたてながら真っ黒なヘリコプターがやって来た。ブルー・サンダーと呼ばれている機体のヘリだ。そして、そのヘリから垂らされたロープをつたってズラズラズラーとライフルを持って武装した何人もの人たちが降りてくる。なんだなんだ!?と校庭が緊張に包まれるなか、Sケンに参加していた一人の子供が捕らえられた。来賓席にいた芹沢防衛庁長官が立ち上がって「小太郎!」と叫ぶ。捕らえられた子供は芹沢長官の息子だったのだ。そしてヘリコプターのなかからスピーカーを通して「芹沢防衛庁長官の子供はここに預かった。動けば殺す。我々は〈赤き虎の尾党〉である。軍国主義教育を粉砕するために決起した。ここにこれを表明する」と言い出しやがった。〈赤き虎の尾党〉と名乗る彼らは、いわゆるテロリスト集団だった。「日本という国は、このように小学生にまで軍事教育をおこなうような極右軍国国家になっている。我々はこれを粉砕し、平和主義国家を取り戻す。そこで、日本国に択捉(えとろふ)、台湾、南アフリカからの自衛隊撤退、軍事予算ゼロを要求する。この要求を受理しない限り、子供は解放しない」。2014年当時、各地に軍事衝突が勃発し、国は択捉などに自衛隊を派遣していた。芹沢防衛庁長官は固唾を飲んでその演説を聞きながら握り拳を作っていた。Sケンをしていた児童/生徒たちは茫然と演説を聞いていたのだが、そのなかで何人かの生徒たちだけは、ヘリコプターが出現したと同時に速やかに集合し、ひとかたまりになって番号の点呼を始めていた。彼らがまさに林間レンジャー学校の参加者として選抜され、それを見事修了した20名の精鋭集団だった。彼らは、体操着の下に八草結びで巻き付けていたロープを静かに、静かに握りしめていた。つづく……!?(インタビュー/久保田泰平)

▼向井秀徳の近作品