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第6回 ─ 作曲家菅野よう子という不思議な世界 part3

連載
ミ ュ ー ジ カ ル・ジ ャ ー ニ ー
公開
2005/06/30   15:00
更新
2005/08/11   20:52
テキスト
文/馬場敏裕(タワーレコード渋谷店サウンドトラック担当) 

我が国におけるサントラ界の最重要クリエイター、菅野よう子。『cowboy bebop』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』といったアニメーション作品から、『tokyo.sora』『下妻物語』といった実写映画まで手掛け、印象的かつ幅広い音楽的素養を持つ彼女だが、その実像はいまだ謎に包まれている。『阿修羅城の瞳』を手始めに、立続けに公開になる関連映画のタイミングで話を訊く貴重なマンスリー証言特集も第3回目。徐々にその実像を露にしてきた菅野よう子の素顔は果たして? 彼女が手掛けた主要サントラ盤をガイドする下記@TOWER特設ページも合わせてチェック!


 スペシャル企画シリーズ、いま、日本が世界に誇る才能、〈菅野よう子〉のインタビューと(勝手な)解説、その第3回です。自由奔放に、映像音楽の中で自らを表現し続ける作曲家のさらなる深い??部分のお話。

『カウボーイ・ビバップ』や『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』などについて「(「得意なジャンルの音楽を担当したことはありますか?」の問いに)実は苦手なものばかり話が来るのよ。〈攻殻〉でも社会のこと全く興味ない人間(笑)に社会派アニメだものね」。自分で得意だと思っているジャンル(でも話が来ない)は、動物とラブ、そして子供向けのアニメ。「作品をリスペクトしすぎると作るのがむずかしい。手塚先生の、例えば〈ジャングル大帝〉のリメイクの話なんてもしきたら、絶対(話は)受けるけれど、すごく困ると思う。好きすぎて」。苦手なジャンルのものばかりだからこそ、冷静に作品のことを考えられるのだ、という。

で、好きな映画監督はというと、デヴィッド・リンチなのだそうである。「〈ツイン・ピークス〉を見てから好きになって。でも新作を争って見るほどの熱いファンではありませんが」。リンチの話で出てきたのが、微妙なおバカ。「リンチっておバカでしょう? 真面目に見てるとこっちがバカらしくなってくる。そういう持って行かれ方がくすぐったくて好き」。


創聖のアクエリオン

ここから菅野よう子 loves おバカという話である。「ちょっとねじくれてるおバカがいいな。香港映画? 〈アチョーっ!〉って感じのヤツ?……スポーティな、まっすぐなおバカは苦手かな。歌舞伎も設定や内容は相当おバカ。アニメとかのいわゆる通俗きわまるものって、爆発的に〈普遍〉に昇華する瞬間があることに最近気がついたの。嫉妬深い人間の物語が神話として残るみたいに、くだらないもの、汚いもの、俗っぽいもの、小さなものの中にある神聖さや普遍、そのバランスがとれてる作品が好き。敷居は低いほどよくて、クダラねーなーと思って見ていると、ふと大きな真理に触れたような気になるもの。逆に今からとても大事なことを言います、と最初から大きくかまえてるようなものは面倒くさくてあまり好きじゃない」。

  最新作『創聖のアクエリオン』でも、まずオープニング・テーマ、いつになく、元気なおバカ炸裂してますね。「いい大人が集まって、すっごいおバカやってるの、いいよね」。与えられる題材の中で作られる菅野サウンドをいくつか聴いているリスナーには理解できると思うが、その題材からインスパイアされるのか、意外なほどの美しいロマンティック/センチメンタル性がある。永遠の少女趣味なイメージがするのですが、と言うと「えーっ、真面目な男の人がカーッと作っているのかと思ってました、みたいなことしか言われないよ」。おバカと少女趣味。菅野サウンドを読み解く(べつに読み解かなくていいけれど)キーワードか。

  そんな菅野よう子、最近のマイ・ブーム(陳腐すぎる質問ですみません!! しかもこれは4月1日現在のお話)はと聞くと。「セイタイ」。!?!?「整体。この仕事やってると人の役に立ってるのかどうかわからないんですよ。なのでこれだったら役に立ってるのがはっきりわかる。整体、勉強してます。この間も犬の前立腺がはれているのを直しました、ハイ。(本当に直したってどこでわかる?)私が見た限りでは元気になっていたので、直ってます」。

さまざまな話を聞いていくうち、見たくて仕方がないのは菅野よう子音楽による子供用アニメだろうか。菅野サウンドによって有名になってしまった作品がその後のオファーに影響を及ぼしてしまったのか、まだある意味画一的なジャンルのイメージがあるが、菅野よう子はもっともっといろんなジャンルの作品を待ち構えているのである。「前の、何とかみたいな感じで、といわれるのが一番自分にとっては……ね」という答えも、そんなまだまだの物足りなさを表現している。しかし、聴けば聴くほど、聞けば聞くほど、すごく自然体で、与えられた作品と向き合って楽しんでいる、まさしく天才(自分ではそう思わないでしょうが、そういうところがまた真の天才なのである)なのだな、と感じるのであった。次回は、ラスト!! まだ書いてないことあります!! そして7月21日には待望の『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』サントラ第3集も発売!!

※菅野よう子が手掛けた主要サウンドトラックをガイド付きで紹介する@TOWER特設ページはコチラ!