サントラ界のもっとも有名なクリエイターといえば、まず挙がる名前は菅野よう子だろう。『cowboy bebop』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』といったアニメーション作品から、『tokyo.sora』『下妻物語』といった実写映画まで手掛け、印象的かつ幅広い音楽的素養を持つ彼女。『阿修羅城の瞳』を手始めに、立続けに公開になる関連映画のタイミングで貴重な話を訊くマンスリー企画の第2弾です。気になった方は、彼女が手掛けた主要サントラ盤をガイドする@TOWER特設ページも合わせてチェック! 菅野よう子という不思議な世界へようこそ。
菅野よう子
スペシャル企画シリーズ、いま日本が世界に誇る才能、〈菅野よう子〉のインタビューと(勝手な)解説、その第2回です。菅野サウンドといえば、多くのファンが代表作として『カウボーイ・ビバップ』や『攻殻機動隊STANDALONE COMPLEX』を挙げるだろうが、本人が期待しているジャンルは実は違っている。ずっと待っているのに来なかった話は〈ラブ・ストーリーの音楽〉の話だったのである。そしてラブストーリー時代劇『阿修羅城の瞳』の依頼が来た。
その前おきに興味深い菅野流スタンスのお話を。それは自分のオリジナル・アルバムを作るということには興味がない、ということだ。つい「『Song to fly』ぐらいですよね」と聞いてしまったのだが、「あれもゲーム音楽だからね」。そうだった。一見オリジナル・アルバムの体裁をとっているが、ベースとなっているのは「アースウィンズ」というゲームのサントラである。全くのオリジナル・コンセプト・アルバムではない。「テーマから自分で作るのもいいけれど、与えられたテーマの中で、どこまで自分の色を出しつつ、作品の力になれるか、というギリギリのせめぎあいが好き」。……かくしてファン待望のオリジナル・アルバム構想も崩れ去る。しかし、これぞプロの〈職業作曲家〉の姿勢のかがみじゃないかという思いもチラとよぎる。しかし売れっ子〈職業作曲家〉の状況はそんなことを考える時間も(おそらく)なく、とにかく時間との勝負が先である。特にCM音楽の依頼などは、明日お願いね、という話を前日に急にされることは日常茶飯事だというから。
実写作品の話は今まで少なかった。なのでなかなか比較ということもできないのかもしれないが、実写とアニメで音楽のつけ方は異なるのか、という問いに、こちらは「同じ」という答えを予想していたら違った。「実写は役者さんが演じる人間のドラマに音をつけるけれど、例えば〈阿修羅城の瞳〉だと市川染五郎さんのなんともいえない、いろんな感情がこもった複雑な表情がある。でもアニメには基本的に表情はないから、感情の説明的な部分も含めての曲作りになるので、そこで実写とアニメは曲の作り方は大きく変ってくる」。そして「歌舞伎ってそれまで一度も見たことなかったんだけど、今回の話で見るようになって……すっかりはまっちゃって、何度も観にいってるのよね」。
「阿修羅城の瞳」より
そこから、脱線なのか何なのか歌舞伎の決まりごとなどの話になる。「決まりごとはいくつかわかってくると、それで余計に面白くなってくるのね」。この話を聞いて、アニメも多くの細かいところの決まりごと、お約束事を見つけてはファンの間で楽しみあっている状況を思い起こす。「そうそう、そうなのよ。歌舞伎ってオタク文化のハシリなのよね」。一見意外な趣味を見出したかのように思えたが、その2つに共通点があってしまった。「歌舞伎を見てアニメが海外で評価されている意味や、日本人のエンタテインメントのすばらしさ大らかさ、お客さんへのクスグリの妙を知った。自分に日本人の血が流れていて、歌舞伎からアニメまで通じるエンタテインメントに関わっていることをすごく誇りに思ってしまった」。
COWBOY BEBOP(C)サンライズ
オフの日は、音楽は聴くのか? 「考えたら、私にオフの日があったかというと、むこう15年くらい一日もなかった」(!!!!!!!!)。尊敬しているミュージシャンはいるのか? 「その人の音楽で、という人はいないんだけど、武満徹って偉い人がいるでしょ。あの方って、難しい難しい音楽ばかり作っているイメージがあるんだけど、そうじゃないのよね。普通の歌謡曲とかも作ってる。そんなスタンスをとっている人は尊敬する」。つまりそれは、本人の『水の女』の詩的な音楽も書くけれど、『下妻物語』や『カウボーイ・ビバップ』といったアッパーな音も作るし、というスタンスにつながってくるのである。
次回は「菅野よう子は、(おそらく)香港コメディは苦手」というあたりからお話します。(次回に続く)
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