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第22回 ─ SINGER SONGER、Dragon Ash、松任谷由実の3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2005/05/26   12:00
更新
2005/05/31   16:40
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

→6月9日(木)開催〈Koolhaus of Jazz II〉にて、菊地成孔の新ユニット〈菊地成孔とpepe tormento azucarar〉がお披露目ライヴを決行(カヒミ・カリィもゲスト出演!)。詳細はこちらまで。

 えー。読者の皆様。当連載をご贔屓にして頂き、誠に有り難う御座います。わたくし〈年間J-POPを36曲だけ聴く男〉改め〈毎週トップ10を某FM番組で聴く男〉(そして、アニメファンから罵倒や嘲笑のメールが何故か番組ではなく、個人メールボックスに殺到する男でもある)、菊地成孔です。

 さーて2003年10月より僕と選曲係のヤング係長Hくんとで開始した当連載ですが、この度連載1年と8ヶ月目にして、何とまあ驚くべき事に、単行本化が決まりました! しかも出版社の名前はまだ言えぬが、最初は中野の名画座に関する手書きの地図を書店に置くことからスタートし幾星霜、今やその分厚さたるや「女性自身」に匹敵するという、文化情報の代名詞である、アルファベットで書くと〈ぱ〉、もしくは「パブリック・アドレスシステム」つまり広い会場などで演奏や声を電気的に拡声し、大音量化するシステム名の略称にも似た

まあ、○○社ですね。

  うっわーーーー!!「出版社名、書いちゃって良いかな?どうしようかな?怒られるかな?」と思いながらドキドキして書いてたから、すげえビックリしたあっ!だめだよHくん、入ってくるとき挨拶しないと!心臓に悪いじゃないか!

 お世話になります。Hです。

 お。珍しく営業マン風の挨拶じゃないか、とうとう長髪を止め、リクルート・ヘアにすることで社会への順応を。大人になんか成りたくないというヒッピー仲間には社会の歯車に落ちぶれたと非難され、終始雇用制の会社内では〈フレッシュマン〉などという、まるでフィッシュマンズみたいなあだ名で呼ばれ・・・

渋谷の女子たちがどんどん肌を露出し、夏が近づいたことを知らせてくれている昨今でありますが、いかがお過ごしでありましょうか。

 全然嬉しいじゃないか。今年の夏は流行りますよ。シャラポワのつけ乳首。全身にビッシリ貼り付けるもよし、左3個、右7個。みたいに、敢えて崩して着けるもよし。

私は、当コーナーが単行本化することがだいたい決まったことに小躍りしつつ、この勢いでCDが株券になることも夢ではないと確信し日々を暮らしております。

 そうだね!まだ発表できないけど、当連載からの抜粋だけでなく、様々な人との対談、CD工場の見学、果てや兜町に株取引に行くという、途中からウソの企画も目白押し!の楽しい本だからね! Hくんだけでなく、僕も小躍りしてしまいますよ!「小躍り」の意味が良く分からないけどね! 「うっひょー」とかいってちょっとだけ空中に跳ねる感じかな。上手く球が入ったゴルフオヤジみたいな!

では、早速ですが前々回の答え合わせに入らせていただきます。

 はーい!もう単行本でも炭坑本(どれほど大正期の炭坑が危険で過酷な労働を強いていたのか。といった話題をびっしり書き込んだポケットサイズの書籍。手に取ると手が真っ黒になる)でも何でも来いってんだ!はっきり言ってまったく当たってないと思うけどねっ!!!

■加藤ミリヤ “ロンリー・ガール”
予想枚数 15,000枚 → 売り上げ枚数 28,451枚(発売4週目)

■鈴木亜美 “Delightful”
予想枚数 18,000枚 → 売り上げ枚数 84,012枚(発売4週目)

■木村カエラ “リルラ リルハ”
予想枚数 45,000枚 → 売り上げ枚数 92,265枚(発売4週目)
  ※オリコン調べ

今回も全てハズレでした。しかも珍しいことに、全て数字が下回っているという予想であります。予想時の精神状態によって売り上げ枚数と予想枚数が上下している……ということはないと思いますが、どちらかに偏っていたほうが予想師としての安定感が出ると思われますので、今後はその辺に気をつけて予想していただけますと幸いであります。

 しまったー(笑)。でもさあ、たまには真っ当な言い訳するけど、僕、新宿歌舞伎町の職安通りに住んでるのですが、俗称〈韓国ドンキ〉で知られるドンキホーテ新宿二号店ね。毎晩行くんですけど、テレビ売り場に様々なモニターがぎっしり並んで、一斉に同じ映像流してるのね(モニターの性能を比較するために)。そっれが昔の電気屋の店先にそっくりなのよ!

 それで、大体流れてるのが〈日本人アーティストのPV〉なんだな。つまり、昔の電気屋の店先さながらの空間に、老若男女の韓国人の皆様がびっしり集まって、浜崎とかアミーゴのPVを凝視してるわけよ。この映像には痺れる物があるんだけど……って、話が長すぎるけどね。要するに、また「PV見ないと読めない時代」になったんだよ。浜崎のPVなんか、すんげカッチョいんだから!ところがアナタ、試聴盤を○フ○クに売っちゃうわりー評論家がいるもんだから、メーカーさんがこぞって試聴盤をカセットテープにしてるんだよ!もともと当たらねえ予想が、倍当たらねえよっ!(笑)

それでは、今回のアーティスト紹介です。

 ういーっすっすっすっすっすっす!!

・SINGER SONGER
 Coccoとくるりのメンバー2人がメインとなって組まれたユニットでありす。Coccoの復帰作としての注目度はもちろん、くるりが参加したユニットとしても大きな話題を集めております。これまでに公開されている写真では、復帰したCoccoが楽しそうにしているのが印象的で、引退前の彼女のある種病的な感じは皆無であります。その辺りの変遷がどのように曲に反映されているのかが売り上げに関わってくるのではないでしょうか。

・Dragon Ash
 Dragon Ashであります。90年代後半に一時代を築いた彼らですが、02年から連続してのリリースは減り、活動が途絶えておりました。昨年のリリースは、リミックスが1枚とシングルが1枚のみ。今回は本格的な再始動となる模様で、7月にも1枚シングルをリリースすることが決まっております。彼らの〈90年代感〉がどういった方向に成熟しているのか、という点が興味深いところであります。

・松任谷由実
 今年で苗場のコンサートも25年目を迎え、現在でもアルバムをリリースすると10万枚は超える邦楽界の女王、ユーミンであります。年末のインタビューでは、『サザンとユーミンのファンは永遠にいなくならない』と仰っておりましたが、彼女がその固定ファン層を惹きつけ続ける理由や、その固定ファンがもし離れるとすればどういった状況なのか。が個人的にではありますが非常に興味深い点であります。ちなみに、こちらの曲は、4月スタートの矢田亜希子主演ドラマ『夢で逢いましょう』主題歌として起用されております。

それでは、今月もよろしくおねがいいたします。

 ういーっすっすっすっすっすっす!!!

■SINGER SONGER “初花凛々”

  〈とっても素敵なニューバンド。ドキドキのデビュー!!〉というコピーの下には満天下の沖縄の砂浜。並びしは肩も露わにニッコリ笑うCocco、くるりからは岸田、佐藤の両氏、ちなみに僕の個人的な友人。でもありまするところのNEIL AND IRAIZA堀江くん。そして七尾旅人のサポート・ドラマーでもある臺太郎氏。と、いちいち書くまでもなく、この夏最大の衝撃を放つプロジェクト・バンドでありますが、さあこれ何とコメントするのがよろしかろう。非常に難しいですが、敢えて手書きのボードを目の前にえいやとかざせばドン!

 〈沖縄と京都と渋谷の融合!!〉

 でしょうか。こっれっは難しい! こっれっは新しい! いっそのこと渋谷は抜いちゃって〈沖縄と京都の融合!!〉書いてるだけで、このバンドのコンセプト・メーカー(誰なのかは解りませんが、バンドの統括者は岸田氏だと思われます)の武者震いに転移してしまいそうな達成感。単なる偶然かも知れないけど、すげえ事考えたな(笑)。〈アラスカとローマの融合〉、〈ハワイとルーマニアの融合〉、〈鎌倉とルワンダの融合〉……だめだ、全然追いつきません!

 というわけで、沖縄の本音と京都の建前が今、爽やかすぎるほど爽やかなフォーキー・サウンド、そしてこう書いて各方面クレーム大丈夫だろうかしかしこう書くしかない〈憑き物が取れたように〉軽く爽やかなCoccoさんの声(この、爽やかで柔らかいCoccoさんの声は、既に沖縄限定の〈ゴミゼロ作戦〉などで披露されている物ですが)に乗って。しかも、昨今もう廃れ始めている「沖縄=女性ヴォーカル=トランス=変な、適当にエスニックな節回し=巫女じゃない=アニミズムのね」といった風情はまったくゼロ!何か軽井沢のペンションでギター片手に“てんとう虫のサンバ”でも歌っているかの如き声と歌い回し(そして顔)!

 この「沖縄?住んでるだけすよ。音階も蛇皮線も触ったことないから。あなた東京に住んでて雅楽と歌舞伎つかいます?」的な、沖縄産最先端のノリを、くるり岸田氏がフォーク方面に定着させる。というのは安易なのかウルトラCなのか判断つかないぐらい新しいですね。普通にちゃんと、エンディングに一瞬残る男性コーラスがかるうくビートルズ風だったりと、余裕綽々の小技も効いており、Coccoさんのナチュラルと綺麗すぎるほどのコントラストでまとめ上げています。とはいえ売り上げまったく解りません(笑)。爽やか風だけどよく読むと歌詞に〈地団駄を踏んで だだを捏ねた 謝り方は 知ってる だけど知らない ステップも何も (歌詞冒頭サビ前まで)〉といった、ほんとミクロン単位微妙に被害妄想的なエッセンスが入っていたりして、ダークサイドの一滴まで、皮肉と天然とコントロールとやりっ放しと意地悪と優しさともう本当にまったくぜんぜん適当にキーを打って、そもそも〈シンガー・ソンガー〉って……カチャ8万5千枚

■Dragon Ash “crush the window”

  去年、僕がUAのバンドメンバーとして参加したRISNG SUN ROCK FESTIVALで彼等のパフォーマンス観ましたが、一時期のナチス的(スケボーの競技台がブランデンブルク門に見えるという、有名なPVに象徴される)なまでの高揚は影を潜め、何か淡々としていまして、鮭の切り身や昆布をバターと一緒にバゲットに挟んだもの(北海道なので、ミュージシャンズ・ケータリングがオール北海物産で、鮭が美味しかったのです)を齧りながら「あら渋いなあ。これからどっち方面に行くのかしら」などと見つめていた物ですが、〈活動再始動〉と謳っても問題なかろう本作は何と〈ドランベ哀愁歌謡(昭和)〉という、一見〈オルタナかつ完全インファイトのボッコボコ打ち合い〉に見えて、その実かなーり渋い、CKBなどにも隣接しそうな、ある種の成熟を感じさせます。

 特にバックトラック。4小節回しのベースラインに乗せるギターのコードが曲の進行ごとに複雑化するのですが、それまでの彼等の顔つきであった〈コードとかよく知らないけどセンスで付けましたヒップホップ魂+青臭い感じ〉な物ではなく、非常に論理的で緻密な、しかしさりげないという、気の利いた物です。日英語混合のヴァースも、何というかこう書くと悪口みたいだがそんな事ないんだが、驚くべき事に〈特に何もない(ホント何もないすよ)感じ〉で、ある意味〈歌謡ヒップホップ〉というスタイルの王道(大人道)を見せつけている感すら有ります。〈歌詞が何も言っていない〉というのは、歌謡界から続くJ-POP界に於いて、欠損ではなく熟達を意味する伝統があります。とはいえここで〈熟達〉や〈成熟〉は、かなり本来的な意味で〈大人〉なんですけどね(イメージ的に45歳っぽい感じ)。

 とはいえ、まったく読めないですね数字(いつ読めた事があるんだよ・笑)。僕個人はかなり好きな感じですが、往年(と言うのもはばかられる近過去ですが)のファンは100%総て抑え、伝説力、90年代ウエルカム力(その意味で〈ドランベ哀愁歌謡〉は非常にはまっています。実際これ、91~3年ぐらいに小流行したんですね)、テレビでB-BOYがドランベに乗って踊ってる絵の喚起力。総合しましてチーン7万枚

■松任谷由実 “ついてゆくわ”

  何はともあれドラムスにヴィニー・カリウタ、ベースにニール・ステューベンハウス、キーボードに松任谷正隆。結構すごいですねこれ(笑)。20年前の「ジャズライフ」みたいな(笑)。松任谷さんは〈キャラメル・ママ〉同人というか、日本で最初のフュージョンブーム(T-スクエアとか、あんな新しい、カッコいい人々じゃないですよ。70年代の話です)に触れている人ですから、ついついドン・グルーシン~鈴木茂、とか細野晴臣~レニー・ホワイトとか思い出しちゃいますけどね。松任谷正隆が蛭子能収に顔だけじゃなく人格も似ている事が藤原紀香の眼前で発覚したのも90年代の事件でしたね。

 さて〈ノドチンコが無い、特殊な声帯である(なのでヴィブラートがかからないのである)〉という都市伝説もすっかり忘れられて幾星霜。の松任谷由実さんですが、特殊とはいえ声帯は声帯、年齢的には同じか上に見える中島みゆきさんが〈ヴィブラート過多〉を〈老人の声帯〉(老人の声帯が弾性を失って緩み、声が震えることは皆様御存知ですね)経由で〈シャンソン/フォーク〉とアジャストさせて、見事に中年以降の歌唱スタイルを盤石に築いた事とあらゆる意味で対照的な苦難が待ちかまえているのでしょうか。

 ユーミンが老け始めたら日本はどうなるのでしょう。終末感さえ漂よわせる悲劇的大事件なのでしょうか?吉永小百合が老け始め、明石家さんまが老け初めても、別段何も起こらなかったように、何も起こらないのでしょうか?はっきりしていることは、コラーゲンやらフェイスリフトやらの所謂〈施術〉を、ユーミンはパブリックイメージほどは(「と逆に」と言っても良いですね)施さない。つまり〈人工的な若作りなどしない、ナチュラルに齢を重ねる方向〉に進んでいるらしい。ということです。

 一昨年のアルバムで、僕はユーミンの〈初めて波形編集によって音程を修正している声〉を聴きましたが、これが実にもう、全然ダメなのでした。ユーミンは初期エアブラシ・ペインティングがCGに憧れた手書きであったように、最初の生肉段階から既に人工美を讃えているが故に、実際の機材による人工美の添加を受け付けません。最初から出来上がっているアンドロイド的なルックスと声は、今やレトロスペクティブと言っても良いでしょう。そういえばユーミンは「メトロポリス」のアンドロイドに似ています。

 楽曲はユーミン・アーカイブの中の〈和風・感動系フォルダ〉からつかみ取りしたような、良い意味のルーティンワークが決まった安定的な曲ですが(オーディナリーな詞に見せかけて、曲の最後の最後に〈ついてゆくわ〉というのが、愛する人に。ではなく〈自分の夢〉に〈ついてゆくわ〉というやや鋭い切り返しになっている。という、完全ユーミン・マナー)、特記すべきは〈老い始めた〉そして〈それを軽やかに晒している〉ユーミンの声による、ひとつの(かなり無意識的だと思いますが)〈老いかた〉の提示でしょう。僕の予想では、ファッションやライフスタイルを始めとした全方向に〈ユーミンの老いかた〉がモデルケースとして重宝されるときが来るんじゃないかと思います。全然一生商品価値あるわけですねこの人。 いろんな人が〈ついてゆくわ〉てなもんでしょう。うっわベッタベッター9万枚

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