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第4回 ─ 作曲家菅野よう子という不思議な世界 Part 1

連載
ミ ュ ー ジ カ ル・ジ ャ ー ニ ー
公開
2005/04/27   17:00
更新
2005/08/11   20:52
テキスト
文/馬場敏裕(タワーレコード渋谷店サウンドトラック担当) 

サントラ界のもっとも有名なクリエイターといえば、まず挙がる名前は菅野よう子だろう。『cowboy bebop』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』といったアニメーション作品から、『tokyo.sora』『下妻物語』といった実写映画まで手掛け、印象的かつ幅広い音楽的素養を持つ彼女だが、その実像はいまだ謎に包まれている。『阿修羅城の瞳』を手始めに、立続けに公開になる関連映画のタイミングで話を訊く機会に恵まれた今回、その貴重な証言をマンスリーでたっぷりとお送りしたい。気になった方は、彼女が手掛けた主要サントラ盤をガイドする@TOWER特設ページも合わせてチェックしてほしい。菅野よう子という不思議な世界へようこそ。


菅野よう子

 ここのところの、世界の七不思議のひとつにかぞえてもいいぐらいになっていた疑問らしきものがある。サウンドトラックという世界の中で、「菅野よう子」によって作られる音楽は、なぜ、こうも破天荒で、ひきつけるのか、ということである。そんな中、なんとご本人から話を聞く!という機会を得ることができた。タイミングとしては4月から公開になる音楽担当映画『阿修羅城の瞳』の公開およびサウンドトラック発売がその要因だが、もちろんその話だけで終わるわけではなかった。

今回スペシャル企画として、菅野よう子の全て??(の氷山の一角)をインタビューをもとに(勝手に)解説していきたい。なお、質問はかなりアトランダムに実はおこなった。あまりにも聞きたいことだらけで聞けば聞くほど新たな質問も沸いてくる状態だったため。

おそらくアニメーション音楽にファンが最も多いであろう、作曲家、菅野よう子。『cowboy bebop』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』そして『ウルフズレイン』といったアニメーション作品、いわゆる実写映画では『tokyo.sora』『下妻物語』で映画ファンには知られ、今回、実写新作『阿修羅城の瞳』があり、4月に放映が始まっているアニメーション『創聖のアクエリオン』も担当している。

名前が轟いたのは『cowboy bebop』だろう。この伝説的傑作のサウンドトラックが作られていく過程は、アニメ・ファンは何度か耳にしているかもしれない。しかしほぼ全てのファンが驚き、かつ不思議に納得する答えなのである。

「はじめに、ジャズで、っていうのが決まっていたので、ジャズなんだけれど。ジャズなんて、嫌い。だーっと長いだけで」。そして「話、聞いたとき、そんなアニメ誰も見ないよ~、とか思って。だから、余計、面白くしなきゃって、がんばる」

多くのアーティストが、自分の中で特別ではなかった作品が代表作になっていく、という。代表作になってしまった作品とフラットに向き合いたい、リスナーにも向き合ってほしい、そんな意味合いともとれる。


映画「阿修羅城の瞳」より

  つまり、この発言は、半分真面目に、半分斜めに聞いたほうがいいと思う。これはあくまで超プロフェッショナルな見解である。ものすごく第三者的に題材を見つめ、さもなくば、最もファンの対極の位置にいる人間の立場で感じてみる。もともとがジャズ畑の人間でもないのに、信じられないほどの短期間で、菅野よう子が考えるジャズ、を結果作ってしまったわけである。そんなテイストのサウンドによって『cowboy bebop』はクールに決められていくわけだが、それがそのまま〈ジャズが別に好きではない〉〈アニメがべつに好きでない〉人間をも引き込んでいく結果を導いたわけである。ジャズのエッセンス、初めてジャズに触れる人間にでさえわかる、ジャズの特徴で、もっとも華やかにかっこいい要素、そこだけを取り出しているのである。

そのスタンスはもうひとつの代表作『攻殻機動隊 stand alone complex』にしても同じで、「社会派アニメ、難しいよ」という。ウラにはまるで〈ダメ彼氏を裏でうまく操縦する彼女〉のような構図が見える。この人には、(そんなこと、本人は肯定しないかもしれないが)自分の前に提示された作品が自身的に興味のなかった世界でも、それは〈しょうがないなぁ〉ぐらいの器と、強力な技量でこなしてしまうのである。本当は〈「菅野よう子的世界」とは相容れるはずがなかった物語〉が、その世界を強引に自身に引き込んだことで、新しい世界観をプラスして、大きくその視野を拡大する。そして、大衆性をも大きく獲得していくのではないか、と思う。菅野サウンドによって、多くの作品が大衆性を勝ち得たかというと、全くもってイエスである。

また、これは多くのアーティストに共通することかもしれないが、過去は振り返ることがない。菅野よう子ベストの企画が出てこない理由は、そこにある。「大体、作っちゃったら、あとは、楽譜にしてもなんにしても、どこにいったか、わからなくなっちゃうし。あとで聞かれてもわからない」、もちろんインタビュー時にはすでに仕事を終えている『阿修羅城の瞳』も、菅野よう子本人にしては過去なわけである。「自分にとってのピークは、録音しているとき。それが終わると、あとは過去のものになる」といいつつも、「でも、ライブは別で、過去に作った曲を、ライブで演奏しなおすのは、OK」。と発言するも、その肝心のライブは、ほとんど敢行されることがない。やる、としたら、あまりに懲りすぎてお金がかかるから、と聞きましたが、と聞くと「まさに、そう」。

多くの人が、私を誤解している、という。実は、菅野よう子という人は……。(次回に続く)

※菅野よう子が手掛けた主要サウンドトラックをガイド付きで紹介する@TOWER特設ページはコチラ!