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第21回 ─ HIGH and MIGHTY COLOR、一青窈、nobody knows+の3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2005/04/27   22:00
更新
2005/05/26   14:02
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

→6月9日(木)開催〈Koolhaus of Jazz II〉にて、菊地成孔の新ユニット〈菊地成孔とpepe tormento azucarar〉がお披露目ライヴを決行(カヒミ・カリィもゲスト出演!)。詳細はこちらまで。

 「花粉」 きくちなるよし

 花粉。それは悪夢の粉。大体白い粉がみんなほらそんな感じであるのと同じように。

 花粉。それはお花によるお鼻への。うららかな春の拷問。

 直訳するとフラワー・パウダー。でも。そんな英語はないの。ないの。

 ポレン。って言うんだよ。うふふふふ。ぽれーん。ぽれーん。

 気にくわない後輩には洗面器いっぱいのポレンに。キャンディーを埋めて。

 顔突っ込んで飴ちゃん喰えや。喰えなかったら俺たち全員に1万ずつな。

 そんな先輩。イジメのやり方が古いっすよ。90年代ぺーっす。

 え?

 実直、渋谷系ぺーっす。「お水のお代わり大丈夫ですか?」っぺーっす。

 だって……。

 だって俺……。

 いつまでもCDが株券になんないから。

 永遠になんない気がしてた

 (先輩)
 輝くぜ裏面 囁くぜ格言 くるくる回る 俺とオマエの日々のように

 (後輩)
 書き込むぜ額面 巻き込むぜ楽園 上がったり下がったりする 俺のハートのように

 CDは俺の株券になんないのかな

 花粉はあの子のスイート・パウダー・ブルーになりそう

 CDは日本の株券になんないのかな

 花粉はコロンビアのクレージー・パウダー・ホワイトになり

菊地さま

 うっわー!!

何をされていたのですか

 リ……リリックを……

リリック?

 あのいや・・・何でもない

花見の季節も終え、やたらと地震づいている昨今でありますが、いかがお過ごしでしょうか?

 いかがお過ごしも何もないよ。花粉症で何ヶ月も頭部全体が炎症おこしっぱなし。辛さをとうに越えて、詩人の心さえ芽生えてきた所だよ。人生の辛さは人を詩人にするね。

私は地震に対する強烈な不安とわずかな期待を胸に、CDが株券になる日を待ち望んで暮らしております。

 おお。Hくんにもデストローイな衝動があるんだねえ。捨てたモンじゃないな。でももうCDが株券になる日なんて来な……

では、早速ですが前々回の答え合わせに入らせていただきます。

 はっきり言ってしまったらどうだ?もう夢は失ったと。セカンドサマーオヴラブは終わったと。

■C-C-B “Romanticが止まらない”
予想枚数 9,000枚 → 売り上げ枚数 チャート100位圏内に入らず測定不能

■森山直太朗 “時の行方~序・春の空~”
予想枚数 150,000枚 → 売り上げ枚数 26,657枚

■松浦亜弥 “ずっと 好きでいいですか”
予想枚数 55,000枚 → 売り上げ枚数 40,317枚
    ※オリコン調べ

今月もまたハズしてしまいました。あややは1万5千枚、森山直太朗は12万5千枚多く予想しております。あややは惜しかったのですが、森山直太朗は約6倍付けであります。C-C-Bはオリコンチャート100位内に一度も登場しなかったため、測定不能という結果になってしまいました。大変申し訳ございません。完全にこちらの選盤ミスであります。本人出演のCM効果もあるだろうということで、一度は100位圏内に入ってくると思っていたのですが、まさかここまで売れないとは……。ちなみに、現在のオリコンシングルチャートは、一週間に1,100~1,400枚売れると100位圏内に入る模様ですので、9,000枚にはやはり届いていなかったのではないかと思われます。

 うーん。CCBは無理だと思ったよねえ。何か最近は80年代バックはよっぽど丁寧にしないと一番ダメな感じになってきたな。森山直太朗は〈はんあんあ~ん〉がやっぱ引かれちゃったのかねえ。あのまま貫き通せば、玉置浩二や井上陽水みたいに成れると思うが。松浦亜弥は、もうこれ、この連載のアベレージから言ったらニアピンでしょこれ。

それでは、今回のアーティスト紹介です。

・HIGH and MIGHTY COLOR
 ORANGE RANGEが所属する事務所が放った第二の刺客とでも言うべきミクスチャー・ロック・バンドです。元々〈アンチノブナガ〉という名前のバンドで活動していたそうなのですが、ヴォーカルの女の子とバンドが(事務所で)運命的に出会い、現在のスタイルとなったとのことです。今年1月にリリースされたデビュー・シングルは、初登場2位を記録。早くもチャート・ゲッターとしての地位を築きつつある様子です。

・一青窈
 台湾と日本のハーフで、3ヶ国語を話す才女として知られる02年デビューのシンガーであります。独特のこぶしが利いた歌唱法と言葉遣いが人気で、特にバラードが年配層からも支持を得ている模様です。昨年は、映画主演を果たし、さらにリリースしたアルバムは初登場3位。と、多方面から着実な支持を集めているように思えます。本作はJRAのイメージソングとなっております。

・nobody knows+
 名古屋出身、5MC+1DJのラップグループであります。エンターテイメント性の高い楽曲と、メンバーのキャラクターが受け、昨年のデビュー・アルバムは38万枚を記録しました。一時期のリップ・スライムのような受け入れられ方をしているのではないでしょうか。ちなみに昨年の年間シングル・チャートでは、リップ・スライムが最高93位、nobody knows+は最高37位と、早くも世代交代が起こっている感じすら見受けられます。

 全員知らないよ。どうしようもう。花粉症でずっと頭痛いし、リリックは上手く書けないし・・・

リリック?

 いや何でもない。

以上であります。今月もよろしくおねがいいたします!!

 はーい。あー。憂鬱だなー。今回は。何か、普通に普通に行こう。どうせ当たらないんだし。リリックは上手く書けないし……

リリック?

 何でもない何でもない(笑)やりますよやりますよー(笑)。

■HIGH and MIGHTY COLOR “OVER”

  このバンドのデビューによって、ORANGE RANGEを擁する〈SPICE MUSIC〉が、全国的に独立したキャラクターを持った事は間違いないでしょう。僕は当連載で、ORANGE RANGEをデビューからブレイクまでレビューしてきましたが、一貫していたことは〈旧来的な沖縄という記号の消去〉ということでした。僕はこれがSPICE MUSICの作為によるものか、ORANGE RANGEの天然によるものか(まあ、大体、何となく双方のノリで決まるのでしょうが)漠然と考えていましたが、何にせよ“島歌”だの“涙そうそう”だの〈泣きなさい笑いなさい〉だの元ちとせ(注:元ちとせは奄美大島出身です)だのいった、最後のアニミズム、シャーマニズムの聖域。みたいな馬鹿げた(僕個人は、あれほど醜悪なコロニアリズムは無いと思うのですが、本稿とは取りあえず関係有りません)イメージが極大値になるまで堪え、一挙にひっくり返したセンスのスマートさは痛快です。HIGH and MIGHTY COLOR は、メタリカのコピーバンドから始まった、というプロフィールを見ずしても、ミクスチャーのベーシック・マテリアルがヘヴィメタルであることは、ロック音痴の僕でさえ開始10秒でヘッドバンキングです。

 7弦のツインギター、まだ高校生の少女ヴォーカル等、ギミックも山盛りですけれども、音だけ聴く限りは、至極真っ当なミクスチャー・ロックで、このバンドがブレイクすれば、SPICE MUSICの影響力は〈沖縄のロックは米軍との関係性がある〉という、振りかざされず、ブラインドされた特権性を悠々と獲得し、場合によっては〈日本でアメリカ的なロックが作れる場所は沖縄だけ〉といったコモンセンスさえ形成しかねない勢いです。先日僕は那覇市の「インターリュード」という、帰還の年から営業している那覇市の古いジャズ喫茶で、その店のママである女性ジャズ・ヴォーカリストさんのレコーディングに参加してきましたが、この国に於けるジャズの在り方がアメリカ兵の私生児(文化的な、ですよ)という出生の過去を背負っている事を痛感し、痺れながら帰ってきました。

 〈アクターズ・スクール〉の屈折したアメリカ感などと併せ、沖縄が本土から搾取されたコロニアリズムのレッテルを引きちぎることで始まる積極的な快進撃は僕が兼ねてから音楽化したいなと狙っている〈ハワイのダークサイド(ポリネシアン・デイヴィッド・リンチイズム)〉とリンクする所あり、誠に嬉しい限りです。ロックのことは本当に全然解らないので、実数なんて読めやしないのですが、沖縄があらゆる〈アメリカ音楽〉に於ける凄味をお茶の間に見せるのはこれからです。彼等には11万枚は売れて欲しい物です。

■一青窈 “影踏み”

  僕はこの方のことを全く知らず、正直に書けば、歌を聴いたのはこれが初めてです。端的に言って、台湾訛りが作為的すぎると思いました。レコーディングの現場では、「この〈じぐざく〉は〈ジグジャグ〉でいいよね」とか「前髪。は〈マエカミ〉で行こう」といった、細かい打ち合わせがあると思われます。ナチュラルなカタコトを明らかに越えていると思われます。〈カタコトの日本語〉が売りの外人もしくは半外人というのは日本芸能界の古い古いルーチンですから、今更どうこう言うまでも有りませんが、レコーディングというのは今や母音の一つ、子音の一つまで修正できる時代ですから、ここまでエゲツなくやらなくとも、もし〈訛り〉を採り入れるので有れば、かなり意識的に(範囲を極めて)構築しないと成立しない筈です。

 ちょっと前の女子十二楽坊とか、もっと前のビビアン・スーとか、我が国のお茶の間は、やっと香港と台湾のキャラの違い、韓国と中国のキャラの違い、等を咀嚼できるようになったと思いますが、インドとパキスタンのキャラの違い、オランダとベルギーのキャラの違いなど、まだまだ宿題は山積しています。日本には〈外国と言えば全部アメリカ〉というような時代さえあったのですから。

 そして、咀嚼してから味わう物と、余り意味も分からず味わう物には当然差があります。台湾の血を引き、やや大袈裟風な訛りを武器にピーク時は80万枚を売ったらしい(プレスキットより)一青さんは、それでも純粋なフリも、シャーマニズムも、癒しすら標榜しない演歌~ニューミュージック的なオヤジ転がしの味の濃さによって〈台湾かどうかは結構どうでも良い〉という存在に成りつつあるのではないでしょうか?とはいえこの方、プレスキットのプロフィール欄に

好きな音楽→ミッシー・エリオット、面影ラッキーホール
好きな映画→橋の上の娘、夢二
好きなアート→ジェームス・タレル
好きな詩人→穂村弘

などと書く立派なサブカルチャー・ユーザーで、ホウ・シャオシェンの映画に主演したりする人でもあるのです。残る問題はステージで今でも裸足かどうか。なのですが、残念ながら解りません。嫌な予感がするのですが(彼女に。ではなく、今回の予想に)これも11万枚(次も11万に思えたらどうしよう)。

■nobody knows+ “メバエ”

  日本のタウンミュージックも一気に定着してきました。〈名古屋在住〉という、ある意味沖縄とは全く違う理由で東京に住まないのだろう5MC+1DJという、ヒップホップのSMAPとも言うべき、とうとう出た存在です。日本の〈フォーク~シティ・ミュージック系歌謡ヒップホップ〉も含めた、総てのヒップホップ文化を僕は支持しますし、実際チャートゲッティングには今や無くてはならないセクトになっています。彼等は〈ケツメの世代を追い落とした〉と言われ、歌謡ヒップホップの世界でも〈オッサンは売れない。フレッシュな青年が売れる〉という、アイドル構造が発生しているのは非常に健全ではありますが、かなり気合いが入ったこのニューシングルはプレスキットの煽り(「珠玉のメローチューン、感動曲線急上昇、名曲指数200%の温もり伝わる超名曲の誕生」──実売数を上げている彼等が、誇大なカマシをしなければいけない理由はないので、この煽りは、スタッフサイドも何もかも本気で感動している。という感じが伝わってきます)ほどにはリリックが感動しない、バックトラックがミドル・スクーラー的というか、MPC3000(注:AKAI社のサンプラー/シーケンサー)のキックが大きく、サンプリングのビット数が低く、奇妙にマニアックである、そもそも5MCというスタイルにどうしても違和感がある。

 といった、お茶の間にとっては違和に当たるのではないかなぁという印象が多く含まれましたが、そんなものは秒速でソフィスティケーションされてゆくでしょう。ただ、ケツメ、キックを追い落とした、その原動力が内容のクオリティよりもジャニーズ性(未成熟な集団が、実は結構やる)であること、こうしたヒップホップが与える情感が、お茶の間的には既に飽きられ始めているのではないかという危惧(HALCALIやKREVAが出したメローチューンが軒並み僕の予想の10%ほどしか売れていない。という事実もあり)、そもそも名古屋のタウン・ミュージックとしては70~80年代にセンチメンテル・シティ・ロマンス(俗称〈センチ〉)が居て、一次的に全国区になったものの、あっという間に地方区に縮小してしまったという歴史などを踏まえるに、嫌な予感はとうとう当たってこれまた11万枚

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