〈Gallery〉を主宰し、DJ/ライター/プロデューサーとして多方面からクラブ・カルチャーを支える長谷川賢司。このたびリリースされる彼の最新ミックスCD『colors of time 02 non-stop mixed by Kenji Hasegawa~perfume of the earth~』は、非常にコンセプチュアルな作品なのだが、その裏には、究極のパーティー・ピープルである〈あの人〉との出会いがあった!?との裏話も交えながら訊いてみよう。まずはコンセプトになった〈地球の香り〉について。
「夜露が太陽を浴びて自然の香りを放ちながら蒸発していく感じだったり、すべての生き物が活発に動き出す、そんな独特の空気感が〈地球の香り〉のイメージ、そして〈春〉でもあるんだよね」。
同作のライナーノーツを執筆したのは、映画「地球交響曲」などの監督として知られる龍村仁。それについては「楽曲云々よりもコンセプトに合った文章が欲しかったから」との理由があるようで、なるほど、音/ジャケット/解説の三位一体で〈地球の香り〉を表現しているのだ。
普段はDJとして活躍する彼に、限られた時間内でミックスの流れを作るCD制作の難しさを尋ねてみたところ、やはりかなりの試行錯誤があったようだ。特に悩んだのは、作品の核心へ入っていくダニエル・ウォン“All Flowers Must Fade”から島田奈美“Sunshower(Instrumental)”への流れだったという。「曲のタイトルやリリックの流れにまでこだわった」だけに、このミックスCDを聴く時は、サウンドの流れだけではなく、楽曲のテーマやタイトルにまで注意すると、また新たな仕掛けが見えてくるかも。そして、それこそがここに込められたメッセージでもある。「〈なんとなく良いもの〉って実はとっても練られたものなんだよね」とはまさしくその通り。
そして、このように彼が以前にも増して楽曲の持つメッセージにこだわるようになったのは、〈Gallery〉を通じてデヴィッド・マンキューソを招いていくなかで受けた影響が大きいそう。サウンドシステムからパーティーの雰囲気、もちろんプレイする曲も、〈すべてはその場にいる音楽ファンのためにある〉という、当然のようでつい忘れてしまわれがちな精神を大事にするデヴィッドに接しているうちに、いままで以上に〈良いもの〉へのこだわりが生まれてきたのだという。それが今回のミックスCDにも現れているのだ。
また、映画「マエストロ」の日本公開も大きな出来事だったそうで、なかでも重要なのは、そこで描かれていた〈究極のパーティー・スピリット〉だという。
「好きな音楽をみんなで分かち合う楽しさや、音楽がなぜ大事なのかってことを感じて欲しいな。そして、どうやってパーティーが生まれてきたのかもね。〈The Loft〉も〈Paradise Garage〉も、ただの音楽好きが自然に集まってきてた場所なんだよね。その場のみんながファミリー。それが本当の意味でのパーティーだと思う。いまみたいにコマーシャルなものじゃなくってさ。〈Gallery〉はこれからもっともっと〈パーティー〉を突き詰めていくよ。めざすは〈お客さんゼロ〉。〈Gallery〉に来る人は、みんな友達ってこと!」。
そう、かつてNYでパーティーを始めた〈マエストロ〉たちの精神は、遠く離れたここ日本にも確実に受け継がれているのだ。
最後に余談を。〈Gallery〉といえばかのニッキー・シアーノのパーティーと同名なのだが、意識して名付けたのかと思いきや、日本の〈Gallery〉クルーは当初まったく知らなかったそう。その凄い偶然を知ったのは開始から2年ほど経った頃だとか……トリヴィアでした。
▼長谷川賢司の関連作
主宰イヴェントの5周年記念コンピ『Gallery : SUNDAY AFTERNOON SESSION』(flower)