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第18回 ─ トラジ・ハイジ、ROSSO、倉木麻衣の3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2005/01/27   14:00
更新
2005/01/27   18:04
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

 ア・ハッピー・ニュー・イヤー! 当連載も読者の皆様の御愛顧に支えられましてとうとう三年目に突入いたしました。石の上にも三年。今年こそCDが株券になりますようにという願掛けの意を込めまして、わたくし現在、新宿は花園神社に初詣に来ております(中継)。この凛々しい羽織袴姿がお見せできないテキスト連載の限界が憎い。働けど働けど税金ばかりが高く付く。そんな確定申告の用紙が憎い。アタシを捨てたアナタが憎い。そんな。そんな菊地成孔です。今、足下の草履に犬がおしっこをかけてゆきました(中継)。

 さて、でわ。さっそく今年の願い事を絵馬に書いてみましょう! さとう珠緒似の巫女さーん。その絵馬一枚下さーい。はい有り難う。お! 酉の絵が描いてありまーす。新年の大空にCDの売り上げが羽ばたくようでーす!(中継)

 はい。それでは懐中より取り出しましたる筆ペンの墨痕鮮やかに書き記してご覧入れましょう。さらさらさらっと。はい出来ましたー!

 〈今年は二回以上あたりますように 成孔〉 (中継)

 さて。それでは・・・えー? えー? さとう珠諸似の巫女さんどうしたの? そんな。ええ? 好きだなんて。ああ。ああ。だめですってこんなところで。僕には妻が。ああ。ああああ。その。赤い袴の下は……タブー凄すぎ……

 菊地さま

 ちぇ。せっかく人が忙しくて全然外に出れず、マックの前に40時間も座りっぱなしでいる鬱屈をせめて楽しくも陵辱的な妄想で晴らそうとしていたというのに。今年も変わらず良いところで腰を折りながら登場。じゃないかHくん。

 新年明けましておめでとう御座います。
 今年も宜しく御願い致します。

 お。年賀状バージョンか。いいね。 

昨年はいろいろとありがとうございました。おかげさまで年末特集も補完ヴァージョンも好評です。今年も単行本化も含めて多々お世話になることがあるかと思います。なにとぞよろしくおねがいいたします。

 そうかー。本になるのかー。ふふふそしたら印税で宮司さんの衣装をドンキで買って、あのさとう珠緒似の巫女さ

早速ですが答え合わせに入らせていただきます。

 ちぇ。どうせ今年も最初から全ハズレでしょ。いいよもう。聞きたくない。耳塞いでるから勝手にやってやって。


■織田裕二 “ラストクリスマス”
予想枚数 110,000枚 → 売り上げ枚数 74,770枚(発売4週目)

■CHEMISTRY “LONG LONG WAY”
予想枚数 190,000枚 → 売り上げ枚数 46,624枚(発売4週目)

■鬼束ちひろ “育つ雑草”
予想枚数 30,000枚 → 売り上げ枚数29,251枚(発売3週目)

4週目で100位圏内からフェード・アウト  ※オリコン調べ

織田裕二、CHEMISTRYはハズレですが鬼束ちひろはピッタリ3万枚! 実に9ヶ月ぶりの当たりであります。〈一年の計は元旦にあり〉と申しますが、CDが株券になる道もやはり1月最初の答え合わせが重要なのではないでしょうか。この調子で今年バシバシ当てていけば、〈初めてCDが株券になった年〉として2005年が多くの人々の記憶に残る年になるのではないかと思います。

 うおおおおおー! 余りの驚きに椅子ごと後ろにひっくり返った!(中継)いててててて! 確かこの回は「毒舌にチャレンジ!」の回で、余りの毒舌ぶりに鬼束ちひろさんのファンの方から恫喝のメールを貰った時じゃないか!(笑)やっぱ毒舌が良いのかしら! 今回も毒舌でいっちゃおうかしら! 新年早々! メーカーも事務所も恐れずに! 大胆に!

では今回のアーティスト紹介です

・トラジ・ハイジ
  TOKIOの国分太一とKinKi Kidsの堂本剛による新ユニットであります。2人が主演の映画「ファンタスティポ」の主題歌となっている曲がメインではありますが、“オシャベリ”と題された1曲目が2人のトークになっております。このグッズ要素の高いCDが何枚売れるのかによって、現在の彼らの人気がある程度計れるのではないでしょうか。なお、このユニットはパルコのバレンタインキャンペーンのイメージキャラクターが決定しております。

・ROSSO
  元ブランキー・ジェット・シティの照井利幸と元ミッシェル・ガン・エレファントのチバユウスケが中心となって結成されたユニットであります。なんと言いましょうか、男臭さを煮詰めたようなロックバンドです。〈男が惚れる〉タイプのバンドと言えるのではないでしょうか。昨年末にアルバムをリリースし、今年いよいよ本格的に始動するということで期待されております。

・倉木麻衣
  昨年リリースされたベスト盤が94万枚の売り上げを見せ、オリコン年間チャート7位にランクインした倉木麻衣です。約8ヶ月ぶりのシングルとなる本作は、彼女にとって19作目のシングルとなります。今年3月には大学を卒業し、これまで以上に音楽活動に専念するとのことです。ちなみに、最近は更新が滞っているようですが本人がブログをスタートしたことでも昨年話題を集めました。

以上です。それでは今月もよろしくお願いいたします!

 げー無理無理!(笑)事務所が恐い! 本人が恐い! オヤジが恐い! 毒舌不可能!(笑)というわけで、今年もハズれっぱなし決定! で早速いってみたいと思いまーす!(中継)

■トラジ・ハイジ “ファンタスティポ”

  うーん。参りました。こーれは難しいですねー(難しいも簡単もお前、いつも外れてんだから同じだろうが。等と切ないことは言う無かれ! 毎回ちゃんと真面目に譜面に起こしてやっているのです。うううう。中継)。何せ、映画の主題歌であります。

 映画がどのぐらい売れるか、主題歌がどれぐらい売れるか。どっちがリードで、どっちがフォローなのでしょうか。というメディアの問題。それに何とこの曲、ダンス振り付け用のDVDとCDのカップリング。しかもCDの一曲目は二人のお喋り。であります。

 KinKiもTOKIOもチャートゲットの王様。そこからメンバー一人ずつ出して新ユニットで映画デビュー! 全く死角の無い〈高級キャラクター・グッズ〉或いは〈汎用キャラクター・グッズ(ファンクラブ用品に非ず。という意味ですね)〉という新しいメディアを「楽曲だけ聴いて予想枚数を出す」というのは、当連載始まって以来の問題であります。映画、特に〈主題歌〉に対する〈主題ダンス〉に関する資料もあるのですが、こっちには敢えて触れずにやってみましょう。

 先ず、楽曲の構造ですが、詞/曲/編の中で、最も良い仕事をしているのは編曲のCHOKKAKU氏でありましょう。ジャニーズ・メイニアックならば知らぬ人は無し。90年代SMAP黄金期の大半のアレンジを手がけている職人にして名人です。今回は、やもすれば凡庸なディスコ・クラシカルなアレンジに陥ってしまいそうな楽曲を、ストリング・アレンジにほんの一滴隠し味程度に〈インド歌謡風〉を垂らして、この映画の所謂〈マサラ映画〉的なテイスト……おっとっと映画のことには触れられませんでした! なのですが、曲と詞が〈全く新しいキャラクターの創造(例えば、チョナン・カンとか慎吾ママの様な企画モノ)〉ではなく〈TOKIOとKinKiを足して二で割ったような〉傾向。即ち、ロックとディスコを掛け合わせたアニソンの様な〈男っぽさ〉をちゃんと押さえている。という所を〈王道を守っている〉と取るか〈斬新さに欠ける〉と取るか。でしょう。

 「せっかく映画までこしらえて新キャラを立ち上げるのだから、もっと遊びをブッ飛ばしても良かったのではないか。誰がやっているのか解らないぐらいに。藤井隆の成功例を参考にすれば良いのに」等というリクエストは、ジャニーズ帝国の国民ではない中年男性の戯言でしょう。斬新さへの刃の抑え具合がジャニーズ帝国の国境線を越えるにせよ、越えないにせよ、やっぱ確実に9万枚はいかないと困りますね。

■ROSSO “バニラ”

  うっはー。こーれも難しいです。ロック嫌いの僕ですが、新宿歌舞伎町在住。ホスト文化に幼児退行を起こす歓楽街の住人としましてはブランキーとミッシェル・ガンは大好きでしたし(イエモンもね)、何せプロデューサーぐらいの重要なクレジットとしてミックス・バイでZAKの名前が書いてあります。ダチじゃないかー。いつかこの日が来ると思ってたけどとうとう出たー(笑)な感じです。

 ダチ誉めする訳じゃありませんが、ここ数年オーガニックにオーガニックに進んできたZAKの音質感は、こうした音楽でさえも生き生きと聴かせるという素晴らしさです。さすが元ガスタンクのエンジニア! 近藤等則IMAバンド!(若い読者の皆様ごめんなさい・笑)しかもヴァイナルを切り、全国ツアーを行うという気骨と気合いは、ロックに於けるフリー・スタイル・ナンバーといって良いこのサウンドとシャウト全体に漲りまくっております。

 しかし、残念至極。何という苦しさ。チャートゲットの世界観で言えば、この音楽は、ちょっと古い。という烙印を押されるでしょう。イントロにギターの長い長いフィードバックをカマして脱構築を計るも、曲が始まってしまえばコード進行が四つぐらいのマイナー循環の曲。というのは、90年代に消費されまくり、食い尽くされたからです。そして、あな恐ろしや。僕が苦手なロック界でもルックスと声では僕好み第一位と言っても良い元ミッシェル・ガンのチバの凄絶なまでのシャウトが、現在何に最も似ているかといえば、肥満した大江千里こと、サンボマスターなのです。90年代さえ知らない昨今のティーンが「これ。サンボマスター?」と言ってしまうかも知れない可能性。というのは、音楽史に限らず、歴史全般に起こりうるちょっとした神のイタズラの類でしょう。そして前回のレビューでも書きましたとおり、サンボマスターの作・編曲は、荒々しく見えて結構緻密。〈今〉この瞬間、このスタイルのシャウトは、僕が愛する女殺しのセックス暴力ではなく、ブサイク君の(童貞ギリギリの)青春の魂。の表現ツールなのでした。ああ。ZAKうー。俺に頼んでくれれば気の利いたアレンジぐらいはタダでするのにー。と思いながら、ごめんなさい。1万8千枚だと思います。

■倉木麻衣 “LOVE NEEDING”

  うっひょー(今回、「う」で始まる出だしのバリエーションに凝っていることに注意してくださいね)。これも難しい。一番難しい。一言で言えば〈倉木麻衣イメージチェンジ(エロく)〉というなのですが、それがどう評価されるかが問題です。問題の在り方として一番近似しているのは言うまでもなく安達祐実のエロ化。ですけれども、あの件が〈どうにもこうにも評価不能〉から〈けっこうイケる〉まで粘りに粘り、本人もやる気満々で才能をぶつけてきた。という、ケレンに見えて実は正攻法。という勝利法だったのに対し、倉木さんのこの件がどう出るのかは微妙です。とにかく転向第一弾シングルであることに間違いはありません。

 当欄年末特別放談で申し上げた「宇多田のアメリカ敗走はエロさ不足」というケース・スタディに真っ向から挑んだか、〈大学卒業〉という節目に〈体格・顔相の変化期(声変わりみたいなね。肉体の変節期ですね)〉を重ねて顔や体の輪郭が変わっちゃったのをこれぞとばかりに利用したか、とにかく「別人のように大人っぽくなった倉木麻衣」は、その象徴として〈エロキャミ(エロいキャミソール。の事です。地方在住の中年紳士読者の皆様)〉を纏っております。それこそ久しぶりの正解を叩きださせて下さった鬼束ちひろさんの〈エロ転向〉も〈エロキャミ〉でした(鬼束さん。毒舌特集とはいえ、酷いことを申し上げてすみませんでした。療養中だそうで、お大事になさって下さい。でも、覚醒者や絶対者や降臨の自己イメージはお捨てになった方が健康に良いですよ。本当に)が、鬼束さんのが〈ヤバい似合い方(見ていてゾクゾクする感じ)〉であったのに対し、倉木さんは〈何か特に普通〉という感じで、超然とした感じがあります。この〈超然感〉は、彼女が当初〈宇多田ヒカルのパクリだ〉といった心ない批判を受けながらキャリアをスタートさせた。という事と無関係ではないでしょう。彼女は〈ある種の強硬で強靱なマイペース(狸系ルックス・シリーズ)〉を武器にここまで来たのです。

 発声や声の録音、化工の仕方は一貫してやりすぎなぐらい〈セクシー〉を標榜しているのですが、肝心の楽曲が、平歌の「お。良いかな」感に対しサビで「あれ。凡庸かも」という、「サビでちょっとガックリ」な感じなのが惜しまれます。今回は「大冒険。新たなスタートを謳いながら、楽曲自体は微妙に冒険していない3曲」だったなあ。と思いつつ、でも8万枚は行くでしょう。僕等の麻衣ちゃんはエロキャミとはいえ、下はジーパンだからです。

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