NEWS & COLUMN ニュース/記事

第17回 ─ 04年年末対談を終えて~iPodは生涯プロファイリングではない~

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/12/30   17:00
更新
2006/08/11   19:19
テキスト
文/菊地 成孔

04年のシングル・チャートを見ながら今年1年の音楽界を振り返る特別インタビューのさらに特別補完ヴァージョン! 今年のチャート上位に入っているアーティストについて、iPodについて、今年の売り上げの傾向について、菊地成孔がさらに分析・総括します。年間オリコンチャート(こちら)と併せてどうぞ!

 この連載では「採り上げた物しか聴かない」つまり、僕は年間(担当のヤング係長。Hくんが選んだ)36曲だけJ-POPを聴く。という、一種の批評実験的な極端さを保っているので(厳密にはこの国で生きている限り、テレビや有線、ラジオなどでやはりどうしても聴いてしまうのですが、基本的には、つまり「買って聴くのと同じように、ちゃんと家で何度も聴いて、しかもレビューの為に譜面に採ったりする」のはその36曲だけです。もし僕の生活が「日常的に大量にJ-POPを聴く」事になったら、この連載は打ち切りの憂き目にあうでしょう・笑)、年末対談の席に持ち込まれた〈93~04年のチャート大全〉は点と点が繋がるような面白さがあり、非常に盛り上がりました(実際の対談の半分ほどしか採録されていません。残念!)。

 〈今年聴いた36曲〉のうち、結局ベスト10に入ったのは2曲のみだったのですが(何と1位と2位!)、対談を終えてから今日までの間に、歳末のデパートだとか寿司屋だとか、とにかく有線放送を引いている店でトップ・チャートを何度も何度も聴いているうちにすっかり憶えてしまったので(笑)、対談の補完コメントとしてこれを書いています。

 先ず「CD全体の売り上げが低下している」という事実に関して僕等が対談中に着目したのは当然iPodだったわけです。ただiPodやCCCDや着うたに関して、真面目に論じたりしても、当連載の主旨とは違ってきてしまいますので(笑)、勢い僕等の話は「CDはピカピカしてるのでゲイはCDを手放さない」、「ピカピカした平面の物質性というのは螺鈿や鏡に端を発しているので皇室はCDを手放さない。“君が代”はCDに録音されて奉納される」だとか、無茶苦茶な方面に行きがちだったわけですが(笑)、流石に〈アルバムチャート〉の方を見直すにつけ「iPodやブログの定着によって、消費者はセルフメイド・アーカイブの発想で音楽を捉え始めた」とかいった、余りに在り来たりなことも書かざるを得ない気分になりました。何せ〈アルバムチャート〉の10位までの中で、実に5枚が〈ベスト盤〉だったからです(10枚総て見渡すと〈90年代アーカイブの完成〉という巨大なタペストリーが姿を現します)。

  後生の歴史には「04年はiPodの定着により、ベスト盤が売れた(或いは〈売れ始めた〉)年」と記されるかも知れません。宇多田ヒカルはシングルの14位に対し、ベスト盤(シングル集)が何と1位、浜崎あゆみは今年シングルを何枚出したか解りませんが、チャート・インしたのは15位以下に3枚、そしてアルバムは5位ですが、これはシングル5曲+αの内容ですので、言ってみれば〈今年のベスト〉、〈ハーフ・ベスト〉といった変形ベスト盤的な内容です(タイトルも〈メモリアル・アドレス〉)。起死回生のポルノグラフィティによるベスト盤2枚作戦も、〈倉木麻衣のベスト〉という微妙なアイテムも(しかもタイトルの意味は『あなたのベストになりますように(Wish You The Best)』)大成功しました。

  このようにして、今後〈ベスト盤〉というアイテム自体の意味が、変化~多角化してゆく事は確かでしょう。セルフメイド・アーカイブの快楽はしばらく納まりそうにもありませんが、何にせよ「攻めという意味でのベスト盤、守りという意味でのベスト盤」が明確になってゆくと思いますし、また「とてつもないタイミングで、とてつもないアーティストが、とてつもない企画のベスト盤を出す」といった新手が出てきそうな予感もします。等と、資料の精緻さに引きずられた勢いで何だかまともな事ばかり書いてしまったので(笑)、シングル各曲へのコメントをいつものように好き放題行って当連載の今年の〆とさせて頂きます(笑)。

  余り問題にされませんが“瞳をとじて”は〈閉じて〉と記さなかった点に成功の鍵がありそうです。「“瞳を閉じて”っていう名前の曲が昔あったからだろ。ありそうじゃん洋楽の邦題とかでさあ」などと言う無かれ、この曲のサウンド全体が、ましてや例えばイントロだけ聴けば〈80年代AOR(乃至ブラコン)〉そのものであることは明白なのですが、対談中にありました通り、現在80年代リヴァイバリーに聞こえる事は、セクト性とイージーさを感じさせ、トップを狙うにはむしろ不利なわけで、全国的な一般性に押し上げるには〈とじて〉と表記し、何やらフォーキーな味わい添加する事によって強い〈80年代性〉、〈ブラコン感〉を中和する必要が不可欠でしょう。平井堅チームのサクセス・センスの基本にあるのがこの感覚です。

 今やチャートゲッター優等生のオレンジレンジですが、当連載で採り上げた当時の楽曲は正に〈脱皮前〉、〈サナギ期〉という感じで、男子三日会わざれば刮目して見よ。等と申しますが、それにしても一夜にして見事に〈バケ〉ました。ルックス、楽曲、アレンジ総てが「あの危なげだった子が、ちょっと見ない間にこんなに逞しくなってねえ」といった盤石さですが、7位をゲットした“ロコローション”が持つ「大胆不敵な遊び感覚(名曲の露骨な引用)」が二段構えになっている所が周到さには頼もしさを感じます。

  即ち、表向きこれは誰が見ても明白な“ロコモーション”(50年代のアメリカの大ヒットポップスですね。念のため)の、かなり技巧的で見事な引用なのですが、同時に。というか、その裏で〈シャンプー〉という、タトゥーの(と、思わず自動的に名前を書いてドキっとしましたが・笑・今頃はロシアでストリッパーをやっている。と、根も葉もないデタラメを書いておきましょう)プロト・タイプみたいなイギリスの一発屋が放った“Trouble”という楽曲のダブル・パロディに成っているところにかなり感心しました(でっかいサングラスでロリポップ・キャンディーを舐めているギャル二人組。と言えば、ご記憶の方も多いかと思われます。ところが今ヤフーで検索したところ、シャンプーでも“トラブル”でも全くヒットしませんでした・笑・まさかそこまでリサーチ済みではあるまいなオレンジレンジ・笑)。合わせ技。というかな。「もう一個はこっちだ」、「これをこれを合わせたんだ」みたいな。

 ひょっとしたら無意識かもしれないんですが、それにしたって凄い話です。スタイルとして流行ったら面白いですね、ダブル・パロディ。シングル・パロディがみみっちい印象であるのに対し、ダブル・パロディの技巧感といったら。俳句とか詩の韻律などの様式美さえ感じさせますね。ターンテーブルが二台になった瞬間。目玉も耳も鼻の穴も手も二個。人間工学的に、二つの物を合わせる。というのはある種の〈完成〉を意味する訳です。

  ガレッジ・セールのゴリが10位に食い込んだ事が、過去のパターン。即ち直接的には〈くず〉の成功と同番組から。という意味、間接的にも、例えば“エキセントリック少年ボウイのテーマ”(97年の84位)などの流れを汲むと考えるのは確かに妥当ですけれども、やはりこれが「滑りに滑りまくったチアー・ブームへの、3年後の恩返し/リベンジ」だという点は指摘しておかねばいけません。カースティン・ダンスト主演の、かなり良くできたスポ根映画である「チアーズ!」は、資生堂のタイアップの元、01年に〈一大ブーム〉が予定されていながら、結果として「その年のトミー・フェブラリーのバックダンサーがチア・ガールだった」という小爆発(03年65位。14万枚。それだって凄いですけど、これはゴリエの“Mickey”の4分の1。です)しか起こせないまま、ゴリエの04年までくすぶり続け、やっと往生した感じですが、ここに流れた〈3年〉という年月が実にレンタルDVD時代の時間感覚と言えるでしょう。〈3年前の仇〉というのは、10年前だったら〈取れない/諦めるしかない〉仇だった筈ですが、今や〈充分取りうる仇〉に成ったのです。

 こうして見ると、音楽の構造それ自体の変化。よりも、それを流通させ、操作する、あらゆる時間感覚の変化に、テクノロジー発達の結果が出ている感じです。ポスト・プロトゥールス時代と言いましょうか。リヴァイバル周期とか、寝かせどころの頃合いとか、リバウンドの速度とか、ベスト盤の出し所とか、あらゆる〈タイミング〉が変化する面白さの04年でしたね。〈懐かしさ〉も〈新しさ〉も、〈面白さ〉や〈詰まらなさ〉さえ、結局は時間感覚に基づいた快感だからですから、こうした根本が変わるだけで表層は大きく代わって来るわけです。セルフメイド・アーカイブ感覚の浸透や、極論すれば生涯時間や生活時間感覚の変容。という事が音楽、更には経済に反映されないはずがありません。とかいってここらへん、何も今年に限ったことではなく、中世から近代にかけてずっと人類がやってることですけれども。何にせよこういった動きの中にCDが株券に成る可能性へのヒントがあると思いますので(これはまあ、ウソ・笑)、来年もbounce.com並びに当連載を宜しく御願い致します。本年中の御愛読有り難うございました。来年の36曲を楽しみに、皆様よいお年を。