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第13回 ─ RIP SLYME、後浦なつみ、SAYAKAの3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/10/08   17:00
更新
2004/10/08   18:49
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

 当欄読者の皆様こんにちは。先日、地球の裏側、彼方ブエノスアイレスの地まで仕事で行って参りました菊地成孔です。ブエノス・ディアース!パレセ・ケ・ラ・クエンタ・エスタ・マル!(こんにちは! 計算が違っているみたいですよ!)

 さてブエノスアイレスまでは、先ず成田からロス・アンゼルスまで、そしてロスからブラジルはサンパウロまで行きまして、各々5時間ぐらい時間を潰してからいよいよアルゼンチン入りするのですが、アルゼンチンと言えば数度の軍事政権などを経て、現在は俗称〈3:1政策〉という、物価が一気に3分の1に成ってしまう、実に物騒な国でありまして、株式どころか、資本主義経済自体があと一歩で「ゲロ吐きそう! 背中さすってさすって!」の国でしたので、 CDショップに行って(音楽の取材でしたので、CDショップにはかなり行ったのですが)「ブエノス・ディアース! 僕はハポンから来たんだけど、CDを株券にするっていう考えはどうだいアミーゴ?」などと聞いて回るもゲラゲラ笑われるばかり、挙げ句の果てには店長さんが店員さんにジャーメ・ア・ラ・オスピタル(「病院呼べ」)などと……

菊地さま

 うわー。編集担当のHくん。最近は読者から神の声として人気があるみたいじゃないか! ただいま無事に帰りMASITAよー!ブエノスアイレスでもCDが株券に成る日は遠そうだよ。どうしようか。

さて、早速前々回の答え合わせですが

 聞いちゃいないな。アミーゴ。

■平原綾香 “虹の予感”
  予想枚数 80,000枚 → 15,770枚(発売4週目)

■ケツメイシ “君に BUMP”
  予想枚数 150,000枚 → 売上枚数 219,940枚(発売4週目)

■LIV “THE SHOW”
  予想枚数 20,000枚 → 15,195枚(発売4週目)

  4週目で100位圏内からフェード・アウト  ※オリコン調べ

 またしても全てハズレです。しかもハズしかたも「高すぎ」「低すぎ」「高すぎ」と、バラバラであります。先月の予想で「だんだんコツが掴めてきて〈本当に当たる連載〉になっちゃったらどうしよう~」と書かれておりましたが、まだまだ〈株券への道〉は遠そうです。今回は連載1周年ということもあり、最低一つはビシッと当てておきたいところです。それでは、今月もよろしくお願いいたします。

 もーさー。この際さー。もう連載も一年にも成るんだから、2万枚を1万5千つったり、20万を15万つったりするのは「ニアピン」という事にしてさ、二つ併せて「当たり一個に相当する」とかにしようよー。ダメ?

それでは今回の予想アーティストの簡単な解説をさせていただきます。

 Hくん声これ録音テープだろ。

・RIP SLYME
  もはや説明不要かと思われます。KICK THE CAN CREWらと並んで、アルバムがミリオンを狙えるヒップホップユニットです。

・後浦なつみ
  後藤真希、松浦亜弥、安倍なつみの3人が組んだハロプロ最強ユニットであります。とはいえ、モーニング娘。自体の売上が下がっている今、彼女たちがどこまでチャートで健闘できるのか、が気になるところであります。ちなみに02年にも〈ハロプロ最強ユニット〉と称して後藤真希、松浦亜弥、藤本美貴の3人が「ごまっとう」というグループを組んだことがあります。そちらの売上は、合計で15万枚程度だった模様です。

・SAYAKA
  松田聖子の娘。であります。ドラマやCMなどには結構出演しているようですが、CDをリリースするのは1年ぶりです。この曲は、某製菓メーカーの飴のタイアップ曲です。そちらのCMでは、かつて松田聖子がサントリーのビールCMで、アニメのペンギンのアテレコをやったことがあるのですが、そのオマージュ的な内容となっており、SAYAKAの曲を〈あのペンギン〉が歌う。というものでした。80年代商法というか、30代より上がターゲットになっているということでしょうか? ちなみに、デビューシングルは合計で約12万枚の売上だった模様です。

以上であります。よろしくおねがいいたします!

 オケー!お陰様を持ちまして今回で当連載も一周年!ひとえに愛読者の皆様のご贔屓の賜です! この国の株券や債券など、総ての経済上の発券形式が(夢が広がっちゃったよ、全然当たらないから・笑)3曲入りのシングル CDに成る日がやって来るまで頑張りますので、今後ともご贔屓の程、御願い奉りMASS!!

■RIP SLYME “黄昏サラウンド”

  この国の〈ヒップホップ〉が、現状の様な商業的大繁栄を迎える事を「ピテカンでヤンさんがアディダス着てるのを見て(意味が分からない方は……えーと、塾か学校で、40歳前後の先生探して聞いてみてください)のけぞって」いた〈オールド・スクーラー目撃世代〉の僕には想像もつかな……くもない事でした。

 チャートというモノリスにソフトタッチした最初のサルである、孤高の哲学者スチャダラパーを始祖に、ナチズムの台頭を思わせたDragon Ashによる浄化運動が残した物は、じゃあその〈40近い先生〉にケツメ、リップ、キック、見分け、つきますー?と訪ねたところが果たしてその先生は、見分けが付かないながらも、彼等の総てのシングルにちょい泣きそうになってしまう。という、小泉首相の X-JAPAN好きにも似た(似てないか・笑)、かの故・ナンシー関氏の至言「日本人の血からヤンキーとファンシーは絶対に消えない。どんなにあか抜けて見せようと」の歴とした証左でありましょう。

 リップ(や、氣志團等)に典型的な〈頭の切れるヤンキー〉の魅力は、最早国民的な物として盤石であります。何せ、当年とって41歳の僕が、ライム読みながら青春時代を思いだしてキュンと成っちゃうんだから、彼等が掴んだ物はトランス・ジェネレーショナルな物であります。過去〈シティ・ポップ〉と呼ばれた、日本のサヴァービアンでもあるかの様に〈あか抜けた〉あの音楽でさえ「山下達郎だけはヤンキーのホルモンが入っていた」事の、かなり微妙な証左にもなっています。

 オネスティ過ぎたキックが倒れ、ケツメが(まだまだセールス力に衰えはないとしても)音楽性に若干の迷走を見せる中、デ・ラ・ソウルともダチ関係の「ロー・ライダー(80年代のアメリカのスラングで、要するにシャコタンに乗ったプエルトリカンの事です)」ホルモンはブッチ切りの彼等。この曲も、特に新味などないのに、ちゃっかりとがっつりとヤバいぐらいに良いよ。な感じで楽勝の25万枚

■後浦なつみ “恋愛戦隊シツレンジャー”

  今、最も、そうですねえ、人生の罰ゲームがあるとして「これからモーヲタになる(ならなければいけない)」というのは、かなりの強度でしょう。また「デビュー当時から現在に至るまでモーヲタのままでいる」という、十字軍にも似た聖戦の騎士達はこの国に10万とも15万とも言われています。

 はっきり言いってしまいましょう。僕は、zetima-UP-FRONT-ハロプロ帝国にルネサンスはある。と思います。それにはまず、既にコンセプチュアル・アートと化してきたつんく♂サウンドから、科学調味料であり、既につんく♂にとってはドラッグでさえある「トータル・コンプ(トータル・コンプレッサー。の略。音質を硬化させ、輪郭線をクッキリと立てることで、どんな再生機でも同じ音質で聴こえるようになる音質上の効果装置のこと)」と「タイム・チェンジャー(簡単に言うと、早回ししたり、遅回ししたりする装置。ここでは早回しに使っている)」の使用を止めることです(「つんく♂を(少なくとも)作詞・作曲から下ろせ」と言った方がルネサンス的には早いのですが、そんなドラマチックなことは起こる筈がないので)。つんく♂はとうとう「パラパラまでをノスタルジーとしなければいけない」ほど「過去の楽しかった記憶」を食い荒らして来てしまったわけですが、今、パラパラ・ノスタルジー。というのは「これからモーヲタ」のキツさにシンクロしています。

 しかし、元々はリップと同じ〈頭の切れるヤンキー〉だった筈のつんく♂が〈現代の没落貴族〉として、化学調味料まみれ、トータル・コンプ、タイム・チェンジャー・ジャンキーとして神経症的なコンセプチュアル・アートを定期的に量産している孤高の姿。というものは(これはあくまで僕の詩的な描写ですからね!関係者の皆様!)悪くない物があります。当連載でも過去に書いたように、もしこの国にファシズムの恐怖が訪れるので有れば、それはモーニング娘。から。などと、たった一年前は妄想していた僕の様な輩には、最早 CD再生機で聴いても何も感じない、誰が歌っているかも解らないこのシングルがせめて10万枚売れることを祈るようになっている事に、安堵と悲しみ、そして何よりも、早く本当にプロレス団体にしてしまってくれ。という気持ちで一杯です。

■SAYAKA “水色”

  編集部Hくんの解説に従えば、このタイトル・チューンである“水色”ではなく、二曲目に収録されている“FOUR HOURS”が、その曲に相当しますが、どちらにせよ、あの名作CM(Hくんの解説にある、缶ビールのコマーシャル)の CMソングとしてリリースされた“SWEET MEMORIES”にどうこうしよう。という話ではありません。

 “SWEET MEMORIES”はシンガー松田聖子の最初の到達点であり、これは倦怠期と不倫をシュガー・コーティングし、フィフティーズ・ポップスの書法で書かれたアーバン・ブルーズの名曲であり、作詞・作曲である松本隆、大村雅郎にとっても代表曲であろう名曲であって(因みに、僕はカラオケに行ったらこの曲と井上陽水の80年代しか歌いません)如何に天才の一人娘とはいえ、本人の作詞、DAY AFTER TOMORROWの北野氏の作曲。で飴のタイアップでは、悪いけどSAYAKAちゃん、映画の方が向いてるんじゃないかな。と、非常に優しいトーンで語りかけたくなってしまうのも致し方有りません。再び故・ナンシー関の至言に「北野井子(ビートたけしの娘……親父がデビュー PVの監督までして鳴り物入りでデビューしたのですが撃沈)のデビューを蹴散らしたのは宇多田ヒカルである」という物があり(これは言外に「新宿系の血統(藤圭子と北野武では、新宿という街への濃さが違う)の問題」を突いているのですが、若い読者の方には何の事やら解らないでしょうから割愛します)、この「二代目を蹴散らす力」は何とSAYAKAにまで及んでいる。と考えることは飛躍ではありますまい。どことなくシャルロット・ゲンズブールを思わせる彼女は、歌よりも演技の方が向いているように思えます。何故なら、彼女の歌は、天才である母君の歌と同じく「すばらしい歌唱力」で「あるかの如く見せないといけない」ために、全編コンピューターによる音程修正が施されていることが、現代の若いリスナーにはみえみえ(「聴こえ聴こえ」の方が適切ですね)なのです。

 現代に於ける「音痴(悪い意味で)」は、「生声で音程をちゃんと取れない」という原義よりも抽象化され「音程修正を施してあるのが解ってしまう」事の方に移っています。これは、多少の造りの悪さも自信と知性で乗りきる方が、下手くそな整形感より美しいのと同じ事であり、因みに、つんく♂は元々の美女を徹底的に整形する(元々歌唱力のある子の歌を音程修正する)。という、強迫的な行為を反復しており、これは「ハリウッド・ビューティー」の如き、人工美の歴史を汲んでいるとも「自分がこの子達を造り上げた」のだという確認強迫であるフランケンシュタイニズムとも言えます。 SAYAKAちゃんの整形ぶりは、例えば浜崎あゆみの整形技術と比べた場合、遙かに劣るのですが「元が綺麗なんだから、ちょっとでいいのよ」という名の手抜きとしか僕には思えません。“SWEET MEMORIES”に永遠に胸を射抜かれている我らが40代に、こんな安手のオマージュは通じる筈もなく〈ふざけんなよ〉というナスティな言葉がのど元まで出かかりつつ、4万枚

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