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第12回 ─ aiko、ポルノグラフィティー、KREVAの3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/09/03   18:00
更新
2004/09/03   20:14
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

 残暑(というには何だか気が違ったような気温激変の毎日、時候挨拶ではなく、本当の病院に)お見舞い申し上げ(たいほどの気分で御座い)ま(すけれども、マジで大丈夫すか?特にご老体。熱中症、クーラー病、溺死。と、凍死ぐらいしか能がない<これは「投資」にひっかけて……ございませんよへっへっへー!!>冬に比べ、症・病・死と三つ揃った大乗仏教の様な夏!にビンゴ!な気分で御座いますことこの上ありませんね。そういえば私が子供の頃は「大丈夫」というのをふざけて「大丈夫っきょう!大丈夫っきょう!(大乗仏教!大乗仏教!)とはやしたて、進歩的な日教組の教師に「なかなか含蓄のある洒落だな。子供達の無邪気さには教える側のこちらも教わることが多い」などと喜ばれたりしましたけれども、今はすっかり「大丈夫」は日常語です。「お水お代わり大乗仏教ですか?」などというウエイトレスさん、「CD株券のページ、全然予想数が当たりませんけど、連載大乗仏教ですか?」などという読者の方。が出てくることを強く望みま)す。

 えー、どうでしょう。オチが「時効の挨拶だけに、引き延ばしてみました(誤打じゃないよ!)」。えー、昭和のダメ駄洒落をお楽しみ頂きながらですね「ああ、最近はCDが株券にならないどころか、予想枚数すら全く当たらないんで、相当ヤケクソになってるんだなあこの人は。大乗仏教だろうか?」等と思われるかも知れませんが、思われても仰るなかれ!!当たらなくとも大乗仏教!とうとうこの連載が書籍化されることが、すごーく大雑把に言って決定しました!!うおー!!(ちなみに一口トリビア。「小丈夫」という言葉はちゃんと存在し「せこい奴」という意味ですが、読みは「しょうじょうふ」です!)

 というわけで、今回は書籍化決定記念!ということで、引き延ばしに延ばした時候の挨拶によって、御挨拶に代えさせて頂きたいと……

菊地さま
お世話になります、編集のHです。
今回のディスクは、既にお送りしているaiko、KREVA、ポルノグラフィティの3枚でお願いいたします。それぞれのアーティストの最近の売上枚数&近況をお知らせいたします。

 うわー! Hくん。まだ挨拶の途中だというのに、余りの時効の引き延ばし工作に焦れて割り込んで来やがったな!

・aiko
  いまや向かうところ敵なし、の女性シンガーです。昨年末にリリースされたアルバム『暁のラブレター』は50万枚超の売上を誇り、シングルもほぼ10万セールスを連続で出しております。


――aikoの近作
  03年11月発売アルバム『暁のラブレター』 515,295枚
  04年4月発売シングル“かばん” 91,580枚(発売4週目)

・ポルノグラフィティ
  7月28日にリリースしたベスト・アルバム2枚が同時に70万枚近く(9月3日現在)のセールスを記録するなど、実はかなり売れているポルノグラフィティ。本作は、バンドメンバーのTama(ベース)脱退後初のシングルとなり、今後の彼らを占うという意味でも重要な1枚になるのではないでしょうか。


――ポルノグラフィティの近作
  03年9月発売シングル “メリッサ” 135,161枚
  03年11月発売シングル “愛が呼ぶほうへ” 182,900枚
  03年12月発売シングル “ラック” 96,209枚

・KREVA
  KICK THE CAN CREWが活動を休止し、メンバーの3人がそれぞれソロ作をリリースする。というプロジェクトの一環でリリースされるアイテムです。グループでのリリースでは、ベスト・アルバムが30万枚の売上を見せているのですが、先にリリースされた他メンバーのソロ作品は、以下のとおりそこまで大きな売上を見せてはいません。


――KICK THE CAN CREW他メンバーの近作
  LITTLE
   04年7月発売シングル “I SING, I SAY” 8,562枚(発売1週目)
  MCU feat. 浜崎貴司
   04年7月発売シングル “サーフライダー” 7,513枚(発売3週目)
  ※オリコン調べ

 おおおー。 Hくん。さすがbounce.com編集者だね。まるで○リ○○の人みたいな。なるほどお。これは参考になるなあ。こういうのが毎回貰えると CDが株券に成る日も近……

続いてさっそく

 うわー!

前々回の答え合わせに入らせていただきます。

■奥田民生 “スカイウォーカー”
  予想枚数 100,000枚 → 売上枚数 22,360枚(発売4週目)

■EXILE “REAL WORLD”
  予想枚数 300,000枚 → 売上枚数 116,791枚(発売4週目)

■星井七瀬 “神様 これって恋?”
  予想枚数 70,000枚 → 売上枚数 2,132枚(発売1週目)

発売2週目で100位圏内からフェード・アウト  ※オリコン調べ

 大変遺憾です。またもや3枚とも大ハズシをしてしまいました。

 売上枚数から、ミスチル、浜崎あゆみ、平井堅などを保守派とし、大塚愛、ORANGERANGEなどを革新派とするならば、奥田民生は保守派の安定多数票を確実に見込めると思っていたのですが、思い違いだった模様です。EXILEは革新から保守への移行期ではあるのですが、まだまだ浮動票に支持されているグループだということが今回わかりました。星井七瀬に関しては……、編集部側が圧倒的に数字を読めていなかったことが原因であります。申し訳ございません。

 今回は、aiko、KREVA、ポルノグラフィティの3枚です。〈保守派〉のaikoとポルノグラフィティが10万の大台に乗るのか? KICK THE CAN CREW活動休止中のKREVAがどのような動きを見せるのか。が見どころであります。それでは、今月もよろしくおねがいいたします。

 うおおお。確かこれは僕のジャズ仲間、ベースの菊地くんと家で予想した回じゃないか!あんな遊びながら適当にやっちゃいかんなー(笑)。じゃなくてっ!! そうじゃなくてっ!! 三つ外しても大乗仏教!!

 何せこの実数。僕が内心で(このぐらいだろうなあ……)と思っていた数にぴったりなのでした。今回は全く参考資料を考えず(何だよそれ・笑)聴いて思った数を正直に書いてみましょう。だんだんコツが掴めてきて「本当に当たる連載」「本当に株価が読める相場師」になっちゃったらどうしよう~。それだけで生活、大乗仏教になっちゃう~(馬鹿)。

aiko “花風”

  天下無敵。彼女がどれほどの豪腕と強度を誇るシンガー・ラヴ・ソング・ライターであるかは、近田春夫から爆笑問題太田まで、あらゆる人々が溢れる愛と共に分析、賞賛し尽くしていますので、僕などが改めて書き加えることは何もないのですが、第一には彼女がものすごうくビョークに似ていること。第二にはミスチルの桜井氏などと並ぶ〈一度病気で長期休業した後、平然と猛然とカムバックしてきた天才〉の系譜にあること。第三には彼女がちょっと山下久美子に似ていること。そして最後に、彼女が〈レズのボスに可愛がられるタイプである〉という、もの凄い、これ書いていいのか?的な指摘をしないと気が済みません(笑)。

 彼女の存在感は(いかに天才的なシンガー・ラヴ・ソング・ライターであろうと)10年前だったらもう少し小さな規模のカリスマに押しやられていると思います(“オリビアを聴きながら”とかさ、ああいう感じの)。今日の彼女の猛爆的な強度は「レズビアニズム(という、今や立派な中マジョリティー)にも大オッケー」という画竜点睛を打つ。という意味に於いて、槇原敬之と同じ物があります。

 さて、その話題とは全く無関係に枚数は完全に自分の耳だけを頼りに84,200枚! “花風”という言葉が、佇立しきれずに“風花”や“鼻風邪”といった言葉との関係が微妙であること。歌と関係ない、繋ぎや間奏のアクロバティックな転調が「鮮やかに決まった」よりかは「ちょい無理目」に聴こえること(ソングライトの単調さをリカヴァーしたい。という欲望を感じさせてしまう)。何よりも、聴いていて「うおー。恋がしてええええええ!」という恋愛誘発フェロモンを9万枚分は感じなかった。ということでっす!

ポルノグラフィティ “シスター”

  天衣無縫。彼等がどれほどの豪腕と強度を誇るバンドであるかは、残念ながらJ-POP批評などを全く読まない僕には完全に未見なんですが、きっと無茶苦茶褒められているのでしょう。

 そしてそれは、雑食性だとか、ヴァリエだとか、多彩な音楽性だとか(結局総て同じ事ですがこれ・笑)、安定した実力だとか、誠実な完成度とかいった言葉ではないかと思われます。ですから僕が改めて書き加えることがあるとすれば第一にこのバンドのヴォーカリストである岡野昭仁氏(不勉強ながら、今初めてお名前を知りました)が〈歌のすごうく上手い中居くん〉であること。第二にして付随的にこのバンド(現在、ベースの脱退によってユニット化しておりますが)自体が、無意識的に〈演奏できるスマップ〉であったこと。そして最後に「ポルノグラフィティ。愛称ポルノ。って、本当に自分たちで名乗ったの?誰かにつけられたんじゃないの?」と思わせてしまう感じ(現実がどうなのかは知りませんよ)、そして「誰かに名前を付けられた(現実がどうなのかは知りませんよ)。というある種の負い目(繰り返しますが、僕個人のイメージの話ですよ)が、一見無根拠に見えるほどのパワフルさと雑食性を長きに渡って維持、発揮している様に聴こえる」という、もの凄い、これ書いていいのか?的な指摘をしないと気が済みません(笑)。

 さて、その話題とは全く無関係に枚数は完全に自分の耳だけを頼りに84,200枚!(しょうがないじゃないか!本当にそう感じたんだもん!)。切ないフォルクローレ調の曲(今やこういう曲を中南米音楽専門バンド以外でシングルカットするのは彼等ぐらいでしょう。“シスター”って、文字通り、修道女の事なのよ)が「うわあこいつら何だかしんねえけど、曲が良くて聴いちゃうよねー。え? ポルノグラフィティ? これ? へー」というパワーが今回、9万枚分には及ばないという気がすること。でっす!!

KREVA “音色(ねいろ)”

  天地無用。四方から八方から難攻不落は完全無欠最強のラヴ・ソングであります。和製ヒップ・ホップが大メジャー感と共に日本人好みのセンチメンタリズムと融合出来ることを示したKICK THE CAN CREWですが、(完全生産限定シングルを除いた)ソロ・リリース・シリーズ事実上のアンカーということは、彼がリーダーなのでしょうか(不勉強ながらにして知りません)。

 このアンカーは先発の二人の走者の若干の遅れをブッチ切りで取り戻しておつりが4万枚ぐらいくるでしょう。ワールド・スタンダードな4コード・ループという正攻法にフリースタイリッシュなソングライトは完璧。バックトラックとMCぶりも含め、リリックには一文字たりとも字数稼ぎがありません。一字一句刻むように、溢れ出るように、我々の胸にある恋愛誘発腺を突き刺してきます。今回、唯一捨てずに「これは自分で聴くためにとっとこう」と仕事場のCDラックに納めた。という、もの凄い、これ書いていいのか?的な指摘をしないと気が済みません(笑)。

 何せあの天才aikoよりも「うおおー。何でも良いから恋愛してえー!」という気分の昂進があったのですから。さて、その話題とは全く無関係に枚数は完全に自分の耳だけを頼りに84,200枚!(もう連載中止になったって良い。本当にマジでそう感じたの!!ふざけてんじゃないの!!) これがキックの新譜だったとすれば15万はたたき出しているでしょう。というわけで今回は3枚聴いて3枚とも84,200枚に聴こえた。という、博打の一点買いみたいになりましたが(笑)、心の声に忠実だから大乗仏教!(経済ページなのにー・笑)

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