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第11回 ─ 平原綾香、ケツメイシ、LIVの3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/07/29   18:00
ソース
『bounce』 999号(0/0/0)
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

 当欄読者の皆様こんにちは。暑中お見舞い申し上げます。と、この「暑中お見舞い申し上げます」といった総てのグリーティング・メールもいっそのこと全部郵送に戻してですねえ、CDにしたらどうでしょう?(なかなか株券に成らないしさ。ちぇ)。丁度シングルCD一枚入るぐらいの、和紙で出来た袋を作ってですね、音○配○で落としたのを○○-Rで焼いた物を(しー。この話題bounce.comでは御法度ですからね)お世話になったあの方へ、暑気払いの音楽を届けるのです。まあしかし、その名もずばり“暑中お見舞い申し上げます”というキャンディーズの名曲は暑中お見舞いには使えませんから注意! あれは、その名を借りた、実際はビーチサイド・ドライブ・ミュージックですから楽しくてしょうがないのです。70年代のこの国では「ビーチで遊ぼう!」という内容の歌に“暑中お見舞い申し上げます”とタイトルを付けるようなセンスが吉田拓郎という人の強い影響力によって……まあいいや。糞みたいに暑いし(笑)。

 さて、今回は、そうした〈暑中見舞いに添える音楽〉特集。と言っても良いかも知れませんね。何せドロップを7月末から8月頭に設定したシングル群ですしね。どの程度〈暑中見舞い度〉があるかも併せてコメントしてみましょう。では早速お馴染み〈前々回の答え合わせ〉より


■Mr.Children “sign”
予想枚数 300,000枚 → 売上枚数 621,848枚(発売4週目)

■小倉優子 “永遠ラブリン(∂∇<)”
予想枚数 20,000枚 → 売上枚数 9,511枚(発売2週目)

※3週目で100位圏内からフェード・アウト

■倖田來未 “LOVE & HONEY”
予想枚数 15,000枚 → 売上枚数 88,114枚(発売4週目)
  ※オリコン調べ

編集担当Hくんより
「うう……、申し訳ございません。またしても、私の予想を裏切りミスチルが予想の倍付けを叩き出してしまいました。現在売上7週で70万枚超という驚異的な売上を見せ、まんまと今年一番売れたシングルになっております(ちなみに、2位もミスチルです)。菊地さんの仰る〈復帰を果たした者の強さ〉を完全に侮っていたこちら側の不備でした。しかも、倖田來未も7万枚以上も売上が予想を上回るという結果に……」。

 ほーら。でしょう? Hくん(因みに僕は「アッシュ君」と発音しておりますが)。日本人はミスチルがすんごおい好きなんだよ。しかも病苦からの復帰なんて一番好きなんだから。抑えろ抑えろっていうから30万にしたんだけど、本当に半分に落としたんだから。久しぶりの大当たりが出るところだったのに。

 それにしてもゆうこりんと倖田來未さんのキューティーハニーには驚きました。グラヴィア・アイドルの歌は握手会やキャンペーンの為のアリバイみたいなものなんでしょうか。まあ楽曲も特に優れていたわけではないからな。9,500枚と言うことは僕のCDとそんなに変わらないぞ(笑)。そしてまさか……あの映画がヒヒヒヒヒヒットしまうので……は? ……それだけは(自粛)。まそれはともかく、ゆうこりん一人の強度よりも「キューティーハニー」のイコン効果の強度のが遙かに強いこの国のマーケット。なのでしょうか。そんなに好きなのか、キューティーハニーが。国民諸君(笑)。

 さて、では早速気を取り直して今回の予測に入りましょう。

平原綾香 “虹の予感”

  「え、誰?」と仰る方には「ホルストの組曲『惑星』から、“木星”のサビにメロディー付けていきなし60万かっ飛ばしたあの人だよ」と言えばお解りでしょう。

 続いて放ったシングルはだんだん落ちて、最新作は3万枚に至らず、非常に冷酷に言えば(この冷酷さは、最後までお読みになって頂ければお解りの通り、彼女への好感と期待から来る物ですが)「一発屋で終わるかどうか?」が試されている彼女ですが、僕はこの曲に関しては大変な好感を持ちました。確かこの人は音大か芸大を出ているはずで、だからこその〈ホルストの曲のカヴァー〉だったと思うのですが、この曲は転調を非常に高度に(アクロバティックな使い方ではなく、ナチュラルかつ刺激的~癒し的)使った技巧的な作曲でありながら、彼女自身の声の良さも上手にアピールし、しかも〈巫女〉みたいな、ちょっと困っちゃうような自意識(確かデビュー・シングルをリリースした時に「この曲を聴き、このサビを歌うのは私しかいないと思った」といった傾向のコメントを出していた筈です)は全部取っちゃいましょうこの際。という方向転換が功を奏して(プロフィールが添えられているのですが〈特技〉犬のしつけ〈好きな言葉〉「ありがとう」「ひとはみかけによらぬもの」はいいとして、とにかく僕が「この事だけは書きたい!」と大幅に字数と締め切り時間をオーヴァーしているのは〈好きな作家〉に星新一、吉本ばなな、はいいとして、『中田英寿(サッカー)』とあるのです! 天然キャラに転向宣言か! とても好感が持てました)、携帯電話のコマーシャル・ソングになるようですが、もう映像が浮かんでくる感じ。この人は一発屋では終わりません。下手したら古内東子の座に着くポテンシャルさえ感じました。とはいえ慎重に8万枚。暑中見舞い度はシティっぽい爽風感(カフェのクーラーの感じとかね)で75点(100点満点)

ケツメイシ “君に BUMP”

  さてもう、やることなすこと大当たり、チャートゲッターとしては不動の四番打者であるケツメイシですが(こんなビッグスターになっても未だにプレスキットに〈名前の由来〉がちゃんと書いてある律儀さも素晴らしいですね。中国で古来より下剤に使われている薬草〈ケツメイシ〉なのだそうで「総てを出し尽くす」という意味と「見えない神秘的な」という意味があるそうです。初めて知った)、ケツメこの夏は無難か大胆か、ディスコクラシック路線で来ました。しかも〈バンプ〉といえばお尻をぶつけ合うダンスとして70年代に大流行した物ですから、なんだかもう若者だけじゃなく、40代までターゲットに入れないとこんなにバカスカ当たりは出せませんよー。と言わんばかり。余裕と貪欲を同時に感じさせる、スターの器ですね。

 さて、しかし、残念ながら「おおお!ケツメがダンス・クラシックで来るか!」と、スーツ着て踊る準備までしてプレイボタンを押した僕でしたが、残念ながらガラージュ~ディスコとレゲエのミクスチュアは、ありゃりゃほーんのちょっと相性が悪いようで「うっひょ~ん!」という腰のグラインド喚起力は、僕の期待が余りに大きすぎたのでしょう、ややカックン感がありました。ヒップホップ~レゲエに第三項としてフォークやシティ・ポップ、ラテン等をどんどん入れ込んで、総て大成功を納めてきた彼等が、意外と楽勝と思われた〈ガラージュ~ディスコ〉という所で、軽く足下すくわれてしまった感。でもユーモラスなパーティー・チューンに隙はなく、あまつさえライムの「BUMP BUMP GIVE ME THE NIGHT 君と越えてゆく」の〈ギミザ・ナイト〉の所が〈イビサ・ナイト〉にちょこっと聞こえる感じなどの〈楽勝感〉は流石であり、大爆発はなくとも15万枚は堅いでしょう。暑中見舞い度は、Bボーイくん達はいつでも夏(とはいえ〈Bボーイくんの春夏秋冬〉を歌ったことでケツメは現在の地位を獲得したとも言えますが)。ということで100点満点もしくは0点

 
LIV “THE SHOW”

  俳優の押尾学さんがやっているバンドです。と資料にありますが、本当にごめんなさい。僕この方、お名前以外存じ上げません。ジャケットの真ん中にいる、この悪ガキ風の格好良い人がそうなんだろうな。という程度で。その他のメンバーの皆さんも、これはもう非常にコワっちい感じです。刺青とスキンヘッドとチェーン。「人気俳優がバンドを(ソロは別ね)やる」という歴史の中でも、悪さではナンバーワンではないでしょうか。

 さて、一聴した感じでは〈日本語で歌うスネイル・ランプ〉といった感じで、まったくもって堂々たるミクスチュア・ワル振りは文句のつけようがありません。ただ歌詞がこれ、あまりにお子さま向けというか、悪いこともコワいことも、ヤバいこともひとっことも言ってませんね(NHKで歌っても全く問題有りません)。僕はこういったバンドの歌詞は洋楽の物しか知りませんから、邦楽のこういうのの平均アベレージなのかも知れませんが、デビュー曲が10万突破。そして最新アルバムが2万以下。というのは、ひょっとして、この歌詞の優等生ぶりが原因かも知れません(というか、他に弱点が見あたらないので)。押尾さんの事務所はシンクタンクを用意して「すごく危険そうに見えて、その実安全」な歌詞を至急用意すべきです。2万枚。そして暑中見舞い度は、こういう方々は年間通して半袖Tなのでケツメと似たような、しかしまったく正反対の意味でちょうど50点

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