クラスやデッド・ケネディーズに夢中だったロンドンのパンク兄弟が、エレクトロ、ヒップホップなどいくつものジャンルを聴き漁った果てにエレクトロニック・ミュージックに行き着いたのは、至極必然だったかも知れない。ロンドンの環状線〈M25〉にちなんで命名されたポール&フィル・ハートノル兄弟によるユニット〈Orbital〉はセカンド・サマー・オブ・ラブが落ち着きつつあった90年代の初め、UKレイヴ・シーンに鮮烈に登場した。
4トラックのカセットMTRで宅録したという“Chime”で90年にデビュー(この曲の素晴らしさは言うまでも無い!)。91年発表のファースト・アルバム(通称:Green Album)と93年発表のセカンド・アルバム(通称:Brown Album)の大ヒットにより〈UKテクノ・シーンの第一人者〉としての評価を得て、アンダーワールド、ケミカル・ブラザーズと共に〈テクノ御三家〉としてその名を広く知られることとなる。
94年には〈MEGADOG〉にて待望の初来日公演が実現。複数のシーケンス・パターンをリアルタイムで操り曲を構成する、当時としては先進性を持ったライヴ・スタイルでクラウドを熱狂の渦に巻き込んだ。彼らは何度か来日公演を行っているが、そのライヴは常に他のユニットには無い〈生〉へのこだわりを感じることができたと思う。
その後、サウンドにブレイクビーツを取り入れたり、映画「オクターン」のサントラに参加するなど、10年以上に渡りアーティストとしてのキャリアを着実に深化させていった。しかし2004年に届いた突然の解散の報。改めて彼らのキャリアを眺めれば、全てをやり尽くしてしまった感があるのも否めないかもしれない。
先頃リリースされたラスト・アルバム『Blue Album』は原点回帰を思わせるダンス・アルバムだ。多くの挑戦と実験を経て、オービタルは最後の最後に原点に戻ったのだ。彼らの名前は〈Orbital=環状線〉だが、彼らにはもう二度と同じ所を回る意思は無いということなのだろう……この夏、オービタルは〈WIRE 04〉でのパフォーマンスを経て長い活動の幕を閉じる。そして彼らの音は、永遠に僕らの記憶の中を回り続けるだろう。
▼ 文中で登場したオービタルの作品をご紹介