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第9回 ─ Mr.Children、小倉優子、倖田來未の3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/06/03   15:00
更新
2004/06/03   17:43
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

(土下座しながら登場)当欄読者の皆様。たいっへん申し訳御座いません。とうとう連載も9回目にして、一週間以上の遅れを出してしまいました。激動する株価と沈滞する音楽業界。賃貸する買い手なき高級マンション(代官山辺りが顕著)。一週間以上の遅れ。というのは古代人にとって悠に100年を意味する長さでありましょう。100年の遅刻。我ながら文学的であります(土下座したまま)。

 これは、僕が頭がおかしくなるほどの多忙で、本は書くわ上海までオーディションに行くは、 UAの全国ツアーに行くは、ライブは一日も休みなくいろいろあるは、ジャズのプロデュース・アルバムは作るは、東京大学の講師(本当ですよ。嘘だと思ったら毎週木曜日、4時より駒場1313教室にいらっしゃってください。どなたでもモグれますので)を始めるわ……といった事とはいっっっさい。まっっったく関係のないことでありまして(多忙なのはおぎゃあと生まれてから今日まで変わりませんので)、実を申しますと、いつまでたってもこの国の株券が CDに成らないことに業を煮やし続け「ひょっとしたら、自分の夢の国家的、制度的実現。そんな日は一生訪れないんじゃないか。修正ケインズ主義の立場から見ても……」と、鬱病的、経済学的に絶望した僕が、一時的なノイローゼ状態に陥りまして、発作的にテレクラで知り合った女の子(49歳)と小田急ロマンスカーで熱海まで心中覚悟で高飛びしていたところをbounce.com編集部の追っ手に見つかり、拿捕(だほ。と読みます)されて無理矢理連れ戻された。という経緯による物です。

 今後は心を入れ替え、モチベーションをより高め、我が国の株券がCDに成る日まで、こういった愚かなマネは一切しない。とbounce.com編集部に署名捺印させて頂きましたので、愛読者の皆様どうか今回だけはご勘弁下を頂けますよう。それにしても楽しかったなあ。熱海。温泉の湯気。絶望。そして訳ありの、年の割に若く見えるオバさん。彼女との予め偽物と分かっていた恋も……痛て!今、木刀で編集担当のHくんが土下座している僕の頭を思いっきり叩きました。 Hくん。頭を垂れている者をだまし討ち。それは武士道にもとる卑劣な……痛て!わあかったよ。わあかったって。書けばいいんでしょ。書けば。痛てて!わかったわかった。ごめん。

 はーいそれでは(完全にブーたれ顔のまま)早速前々回の答え合わせから行ってみましょう。プハー(下あごを突き出しながら煙草の煙を吐き出す音)

BUMP OF CHICKEN “アルエ”
予想枚数 224,052枚 → 売上枚数 126,494枚(発売4週目)

■MINMI“アイの実”
予想枚数 70,000枚 → 売上枚数 12,140枚(発売3週目)

※4週目で100位圏内からフェード・アウト

■浜崎あゆみ “Moments”
予想枚数 1,200,000枚 → 売上枚数 252,527枚(発売4週目)
  ※オリコン調べ

編集担当 Hくんより
「全部ハズレでした……。連載初期に見られた、〈高く見積もりすぎ〉の傾向が再発しております。特に浜崎あゆみは100万枚もはずす、という大失態です。『本当はCDは株券にはならないんじゃ……』という、当連載ファンの懸念を吹き飛ばすためにも、今回は初心に戻り予想枚数を少なめにしましょう。

 ミスチルは、4月にリリースしたアルバムがミリオンを突破し、何度目かのピークを迎えているのではないかと思われます。まずは、この1枚をジャストで当てて、読者の信頼回復を狙っていくのが得策ではないでしょうか。それでは、今月もよろしくお願いいたします!」

 ううう。Hくん。熱海に逃げたりして悪かった(涙)。全国1500万人という、この連載のファンの方々が、 株券が CDに成る日を待っているんだったね。ごめん。初心に返って頑張るよ。あのオバさんとはきっちり別れる。

Mr.Children “sign”

  小脳とはいえ若年性の梗塞。恐怖と絶望はいかばかりであったでしょう。同じ絶望(僕の方は株券がCDに成らない。という、もっと観念的な物ですが)を感じる者として、このバンドの桜井氏の心中は察するに余りあります。しかし病苦を乗り越え、復帰を果たした者の強さ。という物は、林屋三平の昔から(どんな時間感覚及び例え感覚だよ・笑)不変にして普遍。であります。かくいう僕も、1998年に壊死性リンパ結節炎。2002年には不安神経症と、身体と精神の双方から二度死にかけた経験があっての現在です。先ずは、全国の沢山のファンの方々と共に、桜井氏の、そしてミスチルの復帰を祝福しましょう。先月発売の『シフクノオト』の爆発的なセールスこそが、その歴然たる結果でありましょう。

 しかし、またしても残念ながら(何か、毎回こんな事言ってるな)僕はこの曲が、このバンドの数多のチューンの中で、突出したクオリティにあるとは思えません。こういった活動歴、ヒット曲数の多いバンドの、こういった時期の、こういった楽曲に関して、毎回毎回、新鮮さを感じられる感覚。というのが、僕には無いのでしょう。

「アルバム『シフクノオト』を1曲に凝縮したような渾身の名曲が誕生しました」と、プレスキットにはあります。この言葉に嘘はないはずです。何も考えずに頭を空っぽにして聞けば、この国の男性ヴォーカリストの中でも〈癖の強さと歌唱力の高さが両立している〉という、最も強度の高い歌の力を持つ桜井氏の歌声が聞こえてきただけで、心の中に何か灯がともったような気分にさせられるのは、条件反射的。とすら言っても良いこの国の立派な中年の反応でありましょう(中年男子にも人気がある。というのがこのバンドの初期の売りでしたし)ましてや、病苦を乗り越え、不死鳥のように蘇った人の仕事に対し「特に変わり映えのしない、何度か聞いたことがある感じだ。昔の曲のが好きだなあ」などと言えるのは、クールだとか客観性を持っているとか、或いは毒舌であるとかではなく、単なる不感症です。

「メロディーがハイノートになると、ちょっとドキドキしちゃうね」等というのは、ブラック・ユーモアですらなく、単なる無神経です。嗚呼。しかし、僕は、そういう自分自身が、こうした不感症や無神経の部分が心のどこかにある事を、正直に申し上げなければ成りません。一方で、シンシアリーに感動している自分もいるのですが、どうしても歌声の伸びに(ピーク時は、それは昇天すら感じさせる高みを持って、我々を感嘆せしめた物です)微かな陰りが、死を現前にした者が多く獲得する「世界の総てから何らかのサインが出ている。それを総て受け止めてゆこう」という崇高とも言えるポジティビティにも、リハヴィリ。という言葉が完全に消え失せてはくれません。しかし桜井氏は歌い続け、更なる高みに到達するはずです。テレビ番組の主題歌がどうの。という問題ではなく、昨今の J-POPシーンでは珍しい〈病気からの生還者〉が、ゴスペルの様な(ゴスペラーズの様な、という意味じゃないよ)生の謳歌に向かうのか、或いはそんなこと(病気からの生還)を忘れさせてくれるほどの〈ミスチル節〉の、より強い再獲得に向かうのか、どちらにチップをおいた所で15万枚は15万枚

小倉優子 “永遠ラブリン(∂∇<)”

  僕がおちまさとに何を言っても届くわけがないとはいえ、絶対止めた方が良いぞ、小倉優子の精神分析は(笑)。まあ、番組だから安全は確保された出来レースだとはいえ、精神分析経験者として言わせて頂ければ、僕はこの人の無意識ぐらいはそっとしておいてあげるべきタイプの典型だと思いますが(笑)、まあだからこそ面白そうだって事で、クライアントに選んだのでしょうから、この指摘はおちまさとの思う壷なのでしょう(笑・彼女ではなく深田恭子をクライアントに選ばなかった所が、小憎らしいほど周到ですね。「絶対止めた方が良いぞ」等といいながら、実は彼女はぎりぎりで安全だ。という事は僕にでも解ります。深田恭子は本当に絶対止めた方が良い・笑)願わくば、分析家氏が彼女に逆転移してしまい、更には陽性転移(要するにお医者様が患者である彼女に恋情を持ってしまうことですが)に至ってしまいますように。

 と、番組自体は見てないから、結果は知らないし、もう終わってるかも知れない事に憂慮しても始まりません(笑)。楽曲は、現代 MIDI歌謡曲作曲家による完全なアイドル仕事。一分の隙もなく、アイドル歌謡の過不足なきクリシェだけで出来ており、職人の余裕綽々。彼女のファンが全員購入したとしても、赤字は出ますまい。しかし、歌とは残虐なまでに何かを晒す行為であります。なんとか星(海がコーヒーゼリーだそうです)の何とか姫と交信出来る。と固く信じる〈ゆうこりん〉こと彼女、小倉優子の様な「精神分析受けさせたらいかにも面白そうな〈プロの不思議キャラ〉」のグラヴィア・アイドル。が、〈歌〉という行為に出た場合のリスクとリターンは、僕などよりも遙かに博覧強記、インテレクチュアルである、我が国の〈アイドリアン〉の皆様には先刻ご承知の通り、ド上手くてもド下手でも、中途半端に上手くても、中途半端に下手でもオール・ダメ(=オール・オッケー)という、音楽として単体で批評する事の不可能性領域に居るわけでありまして、彼女が〈意外と歌が上手い〉という事実を、僕は今初めて知ったのですが、だから何だと言われれば、特に何も言うこともなく、コンセプトは〈やまとなでしこ〉、衣装はキモノ風。というのも。やはり特に何も言うことは出来ません(笑)。と、ここまで書いたところで、妻が「あの番組って、分析たって、一人一回のセッションだけなのよ(笑)」なあんだ。ちぇ(笑・半年ぐらい経過が見れると思っていたのに)。じゃあ深田恭子でも宮沢りえでも叶姉妹でも華原朋美でも好きなだけおやんなさいよ(笑)。と拍子抜けしながら、2万枚(番組の視聴率は2.5%)。

倖田來未 “LOVE & HONEY”

  “ラヴ・アンド・ハニー”というシングルタイトルですが、要するに映画『キューティーハニー』の主題歌で、テレビオリジナル版アニソンのカヴァーです。僕が庵野秀明に何を言っても届くわけがないとはいえ、絶対に公開は止めた方が良いぞ、サトエリの『キューティー・ハニー』(笑)。林海象の『キャッツ・アイ』の惨劇を越えてしまったらどうするつもりだ(笑・絶対に越えないと思うけど。あれを越えたら、ある意味天才。でも庵野秀明は天才だからな・笑)。だって、一枚たりとも通常のサトエリのグラヴィアの訴求力を越えるプロモーション・カットが見あたらないのですから。そもそも分厚すぎるもの。コスチュームが(笑・『キャッツ・アイ』と全く同じ前兆)。中世の騎士じゃないんだから(笑)。

 と、まあ、わざわざ僕が言うまでもなく、今や会社でも学校でも取りざたされている話で字数を稼いでしまいましたが(笑)、倖田さんサイドも「まあ、軽く映画のタイアップで」という気楽な感じが伝わってきて(当初、仮題として“キューティー・ハニーep”だったものが“LOVE & HONEY”と、一見して『キューティー・ハニー』のタイアップではなく、独立したシングルである事の消極的強調に動いていると思われます)余裕というか、大人な対応ですね。

 彼女の歌声と音楽性、そして『キューティー・ハニー』の主題歌のどちらも知っている層(そんなもんどのぐらい居るのかまったく見当も付きませんが・笑)の皆様の想像を超える物は一つもありません。歌が始まるまでは非常にクールな R&B~ハード・ハウス風。歌に入ればアレンジはリ・コード(コード進行をオリジナルと変えること)無しのアニソンの構造そのままで、ハスキーかつ高い歌唱力で余裕綽々で歌われる〈あの歌〉も、さすがに「わたしのお鼻がヒクヒクしちゃうの」だの「わたしのおめめがシクシクしちゃうの」といった部分は倖田さんちょっと恥ずかしいのでしょうか、もの凄い音圧のバックトラックで、余りよく聴こえないようになっています(笑)。

 そして、原曲の、最大重要ポイントである、ラストの「変わるわよ~ん」という台詞は、サトエリの声ですら入っていません(笑・つんく♂仕事だったら、もう大喜びで誰に言わせようか。って話でしょう)。倖田さんお疲れさまでした。佐藤さんも。僕は『キューティー・ハニー』は香港映画で、北朝鮮の喜び組の一人を主演にカヴァーされるべきだと思います。1万5千枚

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