2004年4月7日には初のジャズ・リーダー・アルバム『Degustation a Jazz』を発売。DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します
当読者の皆様またしてもこんにちは。御機嫌よろしゅう。暑さ寒さも彼岸まで。とはいえ寒の戻り。しまってあったマフラーを引き出しから取り出して巻き付けながら、この国の、豊かな四季折々のある暮らし。そんなたおやかでしなやかでつつましやかでひきこもりやかな(とても読みづらいですね)日々の中、じっと空を見上げ「ああ。CDはやがて株券になるのだなあ――ぐるぐると まわれ 市場経済の 銀の皿の音……字余り」などと、一句詠んでしまいそうになりませんか?(ああもうすいません。本当にもっのすげー調子悪くて)なりませんか。そうですか。解りました(笑)。というわけで、季節の変わり目に、花粉症の鼻水一滴すらでねえ圧倒的な調子の悪さにヤラれているわたくし、菊地成孔の当コーナーですが、早速前々回の答え合わせから行ってみましょう。やだなー。
■ゴスペラーズ “街角-on the corner-”
予想枚数 5万枚 → 売上枚数 46,645枚(発売4週目)
■GLAY “時の雫”
予想枚数 8万枚 → 売上枚数 170,996枚 (発売4週目)
■スピッツ “スターゲイザー”
予想枚数 7万枚 → 売上枚数 224,052枚(発売4週目) ※オリコン調べ
編集担当 Hくんより
「ゴスペラーズはほぼ当たりと言ってよいと思いますが、他の2枚、特にスピッツの予想枚数が売上枚数を15万枚も下回っております。ここ最近のハズレの多さに読者の方から「いつまで経ってもCDが株券にならないじゃないか!」というお叱りのメールを頂くのではないかとビクビクしながら生活しております。今回はせめて2つは当てて行きましょう! それでは、よろしくお願いいたします」。
なんでえちきしょう!俺のでっ嫌れえなモンばっか売れや(H君に羽交い締め&後頭部を鈍器で殴られ気絶)……はっ。失礼しました。よし頑張ろう。今回のラインナップは……ええええええ?
うひー困りました。今回は〈苦手な物特集〉で、あります。勿論ここで言う〈苦手〉とは〈嫌い〉の意味ではありません(嫌いなのはスピ……痛てててててて! Hくんいつの間に僕の後ろに立って居るんだ)。「良く知らない、普段ほとんど聴かない物」という意味です。特に嫌いでも好きでもないけど、いや。特に好きでも嫌いでもないからこそ、余り聴かないジャンルの物ばかりですね。もう今回は全部外れでいい……痛てててててて! わあかったよわあかったって。この連載のラブコールのお陰でハルカリに会えた恩は忘れませんて(あー楽しかったなあ)。
■BUMP OF CHICKEN “アルエ”
うっひー。いきなり参った。ロックであります。えーなんというかこのー。これは誹謗でも差別でも一切ないのではっきりと書きますが「ロッキング・オン・ジャパンが一押ししそうな」といったロックであります。これはもう、ウド鈴木がジョルジュ・バタイユについて語るような物(何だよそれ・笑・面白そうじゃないか)だと思ってお読み下さい。
とはいえ、ですね。これ、とても良いです(何だよそれ・笑)。ルーディーなスピード感抜群。気骨と優しさのバランス抜群。クールさと共感性のデザイン抜群。作詞と作曲を手がける藤原基央くんについて、僕は顔すら見たことがありませんが、才覚とカリスマのアウラはびんびん伝わってきます。デビュー当時の佐野元春の片鱗さえ感じさせる彼の、作詞と作曲と歌唱が渾然一体となった(これがなかなか難しいところであります。才能とは、この三つを完璧で巨大な正三角形にする事かも知れません)楽曲に、ちょっと80年代ビート・パンクの香りを嗅いでジュンと来ながら、4分18秒はあっという間です。
僕が後25歳若かったら、生き延びるためのツール。にさえなったも知れません。何せ彼の詞は、疾走感と共にさらっと。ではありながら、リスト・カッターやコミュニュケーション不全。といった問題を直視しているからです。〈青春〉という強烈な病理を、あらゆる角度から臨床的に所見してゆくもの。それがロックなのだと僕は考えます。数万に至るかの如き所見の方法、数え切れぬほどの臨床医としての立場や派閥、そういった物を越えて〈青春〉という病理自体は、万人の物。41歳。本職ジャズメン。副業皮肉屋さん。である僕ですら、4分18秒間だけでも中学生時代を思い出したのですから、これは売れるでしょう。もう外れても良いから22万4千52枚(以上、前々回の答え合わせ参照・笑)。
■MINMI “アイの実”
ううううー。次はレゲエであります。こーれも参った。中学生の時にボブ・マーレーが日本に紹介され「レガ」だの「レガエ」だの「レゲエ」だの、外来呼称が曖昧なままノック・アウトされ、サンスプラッシュ!にスラロビ観に行って、ステージに上がっちゃった似非ラスタファイな女の客に辟易として「日本人にレゲエは無理だ。真夏なのにこの寒さは何だ」と思って冷凍睡眠に入り、解凍されたと思ってテレビつけたら「一生一緒にいてくれ YA」とかいう人が出てて、再冷凍に入ってしまった様な僕にとって、単なる女性シンガーのアルバムの中のヴァリエの一曲としてではなく、根性入ったレゲエ・オリエンテッド(ラヴァーズですら、ありませんぞ)な女の子が何枚売れるか?なんて話は、ウド鈴木が(もういいや・笑)。
現在レゲエですら、ロックに及ばないにせよ、様々なジャンルを群有し、ちゃんとこの国に定着していることは、僕でも(おそらくウド鈴木でも)知っています。そしてこのMINMIちゃんはルックスも良いしゴリゴリのラスタ・ヘアでもなく(しかも黒髪)、若干ハワイアン入った衣装とメイクのバランス感覚、畳み込むライム的な歌唱によるほのかなヒップホップ感との配合などバランス感覚も素晴らしく、何よりものびのびとした歌声は、虐待を受けていた時代のマイケル・ジャクソン少年を思わせるイノセンスかつパワフルな物で、「あああきっと良い子なんだなー。バックトラック、モータウンでもいけるんじゃないの?」という感じで、「売り上げなんてどうでも良いから、一緒に泳ぎにいかねえ? あんま俺と上手く行かなくてもいいから」という気持ちになってしまいますね。彼女に憧れる女の子達の層が、マルキューやエゴイストはおろか、もうこの際ノンノぐらいまでカヴァーしてしまう事を願いつつ、僕の20年前の寒さが、まるで夢であったかの如きレゲエ界の現状に感謝と若干の寂しさを感じながら7万枚。
■浜崎あゆみ “Moments”
いやもう倒れそうだ。御大の登場であります。もう聴く前に最初に書いちゃおう。120万枚。
浜崎あゆみさんは、宇田多ヒカルさんが幸福性、アメリカン・スクール性の肥満状態に居る現在、僕が最もその肉体を愛する女性であります。本当に、世界中のどのスーパーモデルよりも、東京中のどのグラヴィア・アイドルよりも好き。完璧なボディ。カジュアル転向して冠バラエティやコミカルなCMといった下界にお降りになっても、その肉体の質感、サイズ、デザイン、どれを取っても天上界に君臨する事は変わりません。
しかしながら、ああ。これは誹謗になるのかなあ。成らないことを祈りますが、僕は彼女の歌が、どの曲も死ぬほど聴いた(CDを買わなくても、この国で生活していれば彼女の歌は何度でも聴く事になりますから)のにもかかわらず、全く区別が付かないのです。どうかこの事が、批判や悪意と受け取られません様に。エルヴィス・プレスリーだって、初期ビートルズだって、大スターというものは、多かれ少なかれそういう物でしょう。この曲も例に漏れず、この連載に忠誠を誓う僕は、歌詞カードを凝視しながら10回リピートして聴きましたが、あるのは既視感ばかり(今回「花鳥風月」を歌詞に採り入れており、そこが新味。ということなのでしょうが、それでも。です)。もう好きも嫌いも有りません。彼女はこの、何枚目になるか解らない最新曲でも、傷を、絶望を、希望を、勇気を、強さを、そして今回ばかりは一滴の〈儚さ〉を歌います。本当にごめんなさい浜崎さん。そしてそのスタッフの皆さん。彼女の歌を聴けば聴くほど、乖離してゆくのです。この歌を真摯な意味で必要とする人々の心と、彼女の肉体をどこまでも愛してゆく僕の心と。全盛期のマドンナに匹敵するほどの〈ボディが持つメッセージ性〉を彼女が持っていることを、この歌を必要としている人々にはどれぐらい届いているのか? 未だに僕には見当も付かないまま、最後にもう一度書きます。120万枚。
※5月23日、青山CAYにて開催されるタワレコのイヴェント〈intoxicate 11〉に菊地成孔クインテット・ライヴ・ダブが出演!
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