時は20世紀末のネットバブル全盛期。IT関連株には嘘のような値が付き、いくつものシンデレラストーリーが生まれたものの、そのほとんどは程なくご破算になった。ナップスターもそんな物語のうちのひとつだったが、他と違うのは、このサービスにおける問題が最初から明らかだったことだ。

『ナップスター狂騒曲』(ジョセフ・メン著、相原弘子+ガリレオ翻訳チーム訳、ソフトバンク・パブリッシング刊)
というわけで、今回はオススメ本のご紹介。あの悪名高きファイル交換ソフトの栄枯盛衰を描いたノンフィクション『ナップスター狂騒曲』である。
ナップスターは当時17歳の少年、ショーン・ファニングが考案したソフトウェア。このソフトを使うと、他のユーザーが持っている音楽ファイルを検索できるようになる、と同時に、自分が持っている音楽ファイルも、他のユーザーから検索されるようになる。その検索したファイルを、「P2P」という仕組みを使って、ユーザー同士のパソコンを直接つなぎ、ユーザー間で音楽ファイルを送受信させるというもの。
技術的な観点からすれば、P2Pでのファイル交換というアイディアは画期的と言えるが、ここで送受信された音楽ファイルの元は、ほぼ著作権のあるCDだった。早い話、世界中のユーザーが著作権を侵害をしていたわけである。だが、ユーザーはあまり罪悪感を持たなかったらしく、最盛期のユーザー数は数千万人、送受信されるファイルの数は月に数十億にものぼった言われる。当時はまだ合法的な有料音楽配信サービスがなかったことも、ここまでユーザーを集めてしまった理由のひとつだろう。
しかしながら、こうした違法行為が見逃されるはずもなく、全米レコード協会からナップスターは提訴され、幾多の法廷論争を経た後、サービス停止へと追い込まれたわけである。
サービスが実際に稼動していたのは1999年から2001年まで。その間の法廷論争はニュースを通じて我々も知っているが、その裏で揺れ動く人間模様や、業界の内部事情は、今までほとんど明かされてこなかった。この本では、その様子が克明に描かれており、すでにIT業界関係者の間では、よく書けたネットバブル本として評判になっている。だが、音楽リスナーの視点で読んでこそ、面白く読める内容だと私は思っている。ナップスターを巡る騒動を読み解いてゆくと、ネットワークと音楽における問題とは何かが、概ね理解できるからである。
で、ことの詳細は本を買って読んでもらうとして、私はこれを読んで、やっと理解できたことがある。なぜ当時のナップスター報道に注目し、絶対勝ち目はないとわかっているのに訴訟の行方を追っていたのか。つまりナップスターとはインターネットで起きたパンクムーブメントのようなものであったのだ。類似点は3つある。
まず人間関係の構図。主人公はもちろんショーン・ファニング。TIME誌の表紙を飾るなど、ネット時代の寵児としてもてはやされるが、その黒幕には、詐欺師まがいの起業家である彼のおじがいた。これはまさにセックス・ピストルズとマルコム・マクラレンのような関係。「ニューエイジによる革命」の背後にフィクサーの野心が……というわけなのだ。
次に影響力の大きさ。ピストルズの音楽性については様々な評価があるだろうが、彼らは間違いなくパンクムーブメントの火付け役ではあった。彼らの登場によって大量のフォロワーが現れ、その後の音楽シーンに変化をもたらしたことは間違いない。
同様に、ナップスターがもたらしたネットワークシーンへの影響も絶大であった。先駆的P2Pソフトとして類似のフォロワーソフトをいくつも生み、ソフトウェア企業もP2Pの技術的可能性に着目。今ではインターネットワーキングの手法として一般的に認知されている。
最後は、このようなP2Pムーブメントに至った潜在的理由である。これにはweb中心に進んできたネットワーク利用への疑問があり、中でも若いプログラマー連中のそれは大きかったようだ。ナップスター後に現れた、あるP2Pソフトは「rewiring the internet」(インターネットの再接続)というキャッチフレーズを掲げていた。これは商用利用の進んだインターネットを再び個人の手に取り戻すという、原点回帰のようなメッセージであった。もともとインターネットは、大学や企業の研究者が「wiring」しながら作っていったものだったのだ。
パンクの出発点が、コマーシャリズムによって失われたメッセージ性を音楽に取り戻す動きであったとすれば、P2Pムーブメントもまた、そうした70年代末のパンク事情に等しい。まだネットワークが普及していない70年代末において、それは数少ない簡便な「情報発信手段」だったのである。
なお、アメリカでは「ナップスター2.0」というサービスが始まっている。これは破綻したナップスター社を買ったRoxioが新たに始めたサービス。オリジナルのナップスターから受け継いだのは名前とロゴマークのみで、実は極めてまっとうな有料音楽配信サービスである。
1曲単位で買う場合は99セントで、ネットラジオなど聴き放題の定額サービスもある。残念ながらこうした有料サービスは日本からでは使えない。しかし、今なら3日間限定で全曲フルレングスで試聴し放題で、これは日本からでも問題なく使える。50万曲以上という豊富なコンテンツを体験できる良いチャンスだろう。
帰ってきたナップスター2.0が、前世紀末のナップスター伝説を超えられるかどうか、今度はそちらの方に注目していきたいと思っている。