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第7回 ─ デバージのメロウ・グルーヴでとろける秋

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バ ウ ソ ス .com
公開
2003/10/02   12:00
更新
2003/10/02   19:19
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文/出嶌孝次

bounce編集部員がお届けするコラム・コーナー。秋も深まり、そろそろ紅葉でも堪能したいものですが、ただいま編集部の方は修羅場の様相。せめてBGMだけでもモア・ベターに……ということで、真夜中(早朝?)のデスクからブラック・ミュージック担当が定番サンプル・ネタとしてもお馴染みのブラコン・バンド、デバージのしっとり甘い名盤&関連盤をご紹介します。

 たったいま、10月3日の夜半――4時を回ったところなんだけど、夏はとっくに終わってしまったことを認めざるを得ないような、疑いようもなく深まりまくって草臥れた秋の、この文章のように、ただただ、だらだらと、長い夜。そんな夜に何が必要かといったら、それはもうスウィートなR&B、それもオールド・ファッションでアーバンなソウル・ミュージック。何でもいいけど、ゆったり甘いメロウなグルーヴで酔わせてくれるようなやつ。

 と、いささかヘロヘロな書き出しではありますけれど、そんな時に決まって手を伸ばすのが、ごく、ごくごく私的な偏愛を捧げるデバージの作品なのです。彼らの音楽が素晴らしいのは、歌と曲とアレンジ……つまりほとんど全部。カリビアンなパーカッションや恥ずかしげもなくロマンティックなシンセの響きはいつ聴いても新鮮だし、メロディの普遍的な良さは数多くのカヴァーや引用を生んでることでも証明済み。で、ひ弱なのに包容力のある、彼らのナヨナヨした線の細いヴォーカルは、汗が飛び散るようなメイク・ラヴの実況中継じゃなく、80年代の青春映画にもハマるような淡く切ない恋心を表現するものでして、何か哀しげな秋晴れとか物憂い秋の深夜帯にはこのうえなくハマるんですよ。ちなみに、デバージとは80年代初頭から半ばにかけて活躍した〈80年代のジャクソン5〉的な兄弟グループ。86年にリード・ヴォーカルのエルがソロ・デビューした後に本隊は失速し、エルも94年の大傑作『Mind, Heart & Soul』以来アルバムを出してません。ただ、昨年末には『The Debarges』『All This Love』が日本で世界初CD化されたし、今年に入ってからは末弟のチコ・デバージが久しぶりのアルバム『Free』を出したし、廃盤状態の音源を多数収めたエルのベスト・アルバムも出たし……何度となく訪れているデバージ・ファミリー再評価の波もすっかり定着したのかしら、とまで言うと贔屓目ですけど。

 で、皮肉にも全員がレコード契約を失ってからデバージ人気は盛り返していて、ジョマンダやブラックストリートやLLクールJが“I Like It”をカヴァーしたりサンプリングしたり、2パックとブラックストリートが“A Dream”(翌年にはメアリーJもカヴァー)をネタにして名曲を生み出したり……その極め付けとなったのは、やはり“I Like It”をネタにしたウォーレンG“I Want It All”の大ヒットでした。昨今ではアシャンティの“Foolish”(元はデバージの“Stay With Me”をネタにしたビギーの“One More Chance/Stay With Me”をサンプリング)でしょう。彼女はアルバム内でも“Love Me In A Special Way”をカヴァーしてます。もちろん当人たちも前線で活躍していて、エルはフォープレイやクインシー・ジョーンズの作品、敬愛するマーヴィン・ゲイのトリビュート盤に登場し、チコはロジャーを追悼カヴァーしてたり、ジェイムス(ジャネット・ジャクソンの元旦那です)も西海岸のGラップ系でボチボチ登場。特にDJクイックはデバージに何か特別な思い入れでもあるかのごとく、彼らを繰り返し起用してます。……そんな感じで、あなたも知らず知らずのうちにデバージのグルーヴに浸されてるのかも知れんよ。

 ということで、あんまり秋とは関係ないですけど、とにかくあなたの部屋がデバージのメロウ・グルーヴで満たされんことを。っていうか、冒頭からチンカスみたいな文が続いてんのは、さっきからデバージを聴いてるせいだよ……もう、溶けるって!

▼ 文中の登場したアーティストの関連盤を紹介