bounce編集部員がお届けするコラム・コーナー。今回は映画「007/ダイ・アナザー・デイ」のDVD化を記念して、編集部一の映画愛好家がスパイに憧れた麗しき(?)少年時代に思いをはせつつ、〈007〉にまつわるパロディー映画をあれこれご紹介。
昔、友だちの劇団を手伝ってたことがあります。そのときに知り合ったのがそこで役者をしてたK君。高校を卒業して早くから会社に勤め、劇団では唯一、20代にしてローンでマンションを買い、着実に地道に社会人として揺るぎない地位を持っていた彼。もちろん、役者で喰っていこう、なんて気はサラサラなく、パートタイムの役者でした。そんな彼がある時ぽつりと「ぼくはジャニーズみたいなアイドルになりたいって思ってたんや」と呟いたのを聞いて、〈なるほどここはキミの夢工場なのね〉と納得してしまいました。思えば僕も小学生時代には憧れたもんです、探偵とスパイに。親戚のオッチャンに「大きくなったら真っ白のスーツ着て、ソフト帽被りたい」と熱く語り、「そんなカッコしてるヤツ、このへんにはおらへんぞ。あー、恥ずかし」とバカにされたあの夏。そのとき哀れなチビッコの脳裏には「探偵物語」の松田優作と〈007〉のロジャー・ムーアが微笑んでいたのです。
だから〈007〉シリーズといえば、やはりロジャー・ムーア派。ショーン・コネリーの毛深さ、重役タイプの恰幅のよさは、子供ごころにトゥー・マッチでした。ピアーズ・ブロスナンに変わった時は「なんか頼りなさそうな人やねえ……」と、オカンみたいにブツブツ文句を言って、イマイチのめり込めませんでした。ところが最新作「007/ダイ・アナザー・デイ」を観てビックリ。いつの間にやら逞しいマッチョになっているではありませんか! 「いろいろ言われはったんやろねえ……」と邪推しながらも、その堂々たる〈007〉ぶりに感心しました。軽口を叩きながらやる時はやる。イイ女とは無条件に、あとくされなくヤル。そんなプレイボーイの究極が〈007〉なわけで、ブロスナン=ボンドもハル・ベリー(ゴージャス!)を偏差値高めのオシャレ会話で口説き、アッという間にベットで激しく交わる2つのシルエットに──。
〈007〉のこういった〈ありえなさ〉をコケにするパロディー映画は、「007/カジノ・ロワイヤル」「電撃フリントGO!GO作戦」「キスキス...バンバン」など60年代に多数製作されました。その総決算として〈オースティン・パワーズ〉なんて怪物が登場して、本家を凌ぐ人気を得たのはなんとも皮肉な話。でもパロディーの多さと本家への愛情は比例するわけで、〈ダイ・アナザー・デイ〉の大ヒットはそれを見事に証明してみせたのです。
さすがに今となっては白のスーツへの憧れはなくなりましたが、広川太一郎にアテレコされるような粋な男になりたいという想いは変わりません。セクシーな美女とゴニョゴニョしたい気持ちも決してエロではなく憧れ。睾丸のなかでいまなおフル稼動する夢工場なのです。
本文中でご紹介した映画作品(DVD)はこちら!
『ダイ・アナザー・デイ』
20世紀フォックスホームエンターテイメント
マドンナの主題歌が当然のようにハマッてる本作。シリーズ20作目&40周年記念ということで過去〈007〉シリーズへのオマージュもところどころに。ジョン・クリーズの出番をもっと!!
『カジノ・ロワイヤル』
20世紀フォックスホームエンターテイメント
5人の監督によって7人の〈ジェイムズ・ボンド〉が登場した異色作。デヴィッド・ニーヴンからピーター・セラーズ~ウディ・アレンまで、好みのボンドを応援しよう。そして、なんといってもバート・バカラックのサントラが文句ナシの素晴らしさ!!
『電撃フリント』
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
〈007〉パロディーの大定番。ジェイムズ・コバーンがスーパー・スパイ〈デレク・フリント〉を快演。ブルース・リー直伝の空手アクションもキマってます。本家に負けないフリント・ガールズの華やかさにも注目!!
『キスキス...バンバン』
ハピネット
こちらは珍しいイタリア産。英国風スパイ、カーク・ウォーレンを演じるのは、ウェスタン・ヒーロー、ジュリアーノ・ジェンマ。「黄金の七人」を思わせるベタなくすぐりが満載。主題歌“Love Love...Bang Bang”のゴージャスさもナイス!!
『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』
ポニーキャニオン
〈007〉パロディーというよりも、〈007〉パロディーへのパロディーの要素も濃いハリウッド式パーティー・ムーヴィー。本作での注目はオースティン眼鏡のルーツ、〈ハリー・パーマー〉=マイケル・ケインの出演。ハシャギ過ぎだって!!