CCCDのことはご存知? 近頃お店でもちょくちょく見かけるようになったこの新しいCDフォーマットだけど、いままでのCDといったいどんなところが違うんだろう? 音楽ファンならぜひ知っておきたい「CCCDの基礎知識」。必読です。
最近街のCDショップで「このCDはコピーコントロールCDです」というシールが貼ってあるCDをよく見かけるようになった。コピーコントロールCD(CCCD)とは、パソコンにおける再生や複製を防止するために作られた特殊なCDのこと。通常のCDにコピー防止信号を埋め込むことで、パソコンのCD-ROMドライブに入れても、普通のCDのようにリッピング(CDのトラックをWAVEファイルというパソコンで扱えるファイル形式に変換すること)したり、丸ごとCD-Rに複製することができない。
ただし、コピーできないのはパソコン上での複製のみ。従来のCDからMDへのデジタルコピーや、アナログ端子でのコピーは問題なく行える。そのため、レコード業界は「コピー防止」ではなく、「コピーコントロール」と名付けたのだ。
既に海外では一部のレコード会社が昨年からCCCDを導入し始めているが、日本のレコード会社では、今年の3月にエイベックスが初めてCCCDを発売した。その後、東芝EMI、ワーナーミュージックジャパン、ポニーキャニオン、ユニバーサルミュージックなどの他社も導入へ踏み切っている。
業界がCCCDの導入を急ぐのは、日本の音楽レコードの生産金額が3年連続で減少したことと、その主な原因がパソコンやCD-Rドライブを使った音楽CDの複製行為にあると業界が判断したことが背景にある。
というのも、パソコンを使った複製には一切制限がかけられていないからだ。1世代までのデジタルコピーしか認められていないMDと異なり、CD-Rドライブを使った音楽CDの複製や、パソコンによるリッピングは一切制限がない。業界はCDをCCCD化することで、不正コピーの温床となっているパソコンを締め出そうと考えているのだ。
既にエイベックスは、新譜の9割近くをCCCDとして発売しており、今後発売するCDもCD-EXTRA形式で発売するもの以外は、基本的にCCCDとして発売するスタンスをとっている。また、東芝EMIも徐々にCCCDタイトルを増やしており、今後はさらに増えていくことが予想される。
ソフト会社とハード会社の“ねじれ”
順調に導入が進んでいるようにみえるCCCDだが、一方で専門家から「再生できるCDプレーヤーが限られる」といった指摘や「CCCD化すると音質が悪くなる」といった指摘も出ている。これは、現在発売されているCCCDの方式(イスラエルのMIDBAR TECH社の「CDS200」)固有の問題のようだ。
業界側は「ほとんどのCDプレーヤーで正常に再生できる」としているが、実際のところ一部のプレーヤーで必ず音飛びが発生したり、古いカーオーディオで再生できないという問題が報告されている。また、ほとんどのオーディオ機器メーカーが、CCCDについては再生保証をしていない。ソフトを供給する側は「再生できる」といい、ソフトを再生するハード側は「再生を保証できない」という“ねじれ”状態が起きているのだ。
CCCDに対するアーティストからの反応
音質については、業界側は「普通の人が聞き分けられるレベルではない」と反論するが、宇多田ヒカルの公式サイトを見ると、最新アルバム「DEEP RIVER」は、当初レコード会社側からCCCD化を打診されたが、「制作スタッフが音質をチェックした結果、コピーガードが音質にマイナス影響を及ぼしていると判断し、導入を見送った」と書かれている。また、山下達郎は先日自分のラジオ番組で「15年間CDというのもののクオリティに対して疑問を持ちつつ、やっとここまで改善してきた。音質的に欠陥があるいかなる要素も認めないし、自分の作品も絶対に全作品CCCDにはしない」とコメントしている。
もちろん、アーティスト側の中には、CCCDを好意的に捉えている人もいる。テイ・トウワは「音質劣化はあるものの、民生機レベルのオーディオでは音質の劣化は問題ない」とし、「違法コピーのせいでCDが売れないよりも、CCCDが売り上げを活性化してくれるならうれしい」と公式サイトの掲示板でコメントした。また、吉田美奈子は公式サイトの「VOICE」というコーナーで、CCCDの音を聴きもしないで「音質劣悪」と表現する人間を批判。様々な条件でCDとCCCDを聴き比べ、最終的に新作をCCCDでリリースする決断をしたことを報告している。
音質劣化を防ぐ新技術登場!?
その一方で、CCCDにすることで起きる音質劣化を別の技術によって補正しようという動きがメーカー側から出てきた。先日発表されたビクターの「エンコードK2(ENC K2)」や、メモリーテックの「クリスタル・クリア・カッティングII」は、いずれもデジタル信号伝送系での音質劣化を低減する技術で、CCCDやCD-EXTRAのマスタリング時に起きる音質劣化を防止するものだという。ビクターの関連レコード会社であるビクターエンタテインメントは11月よりエンコードK2とCDS200を組み合わせた方式のCCCDを発売すると発表しており、今後発売するタイトルは全てCCCDにする意向だ(12月以降発売されるテイチクの新譜もエンコードK2とCDS200の組み合わせのCCCDになる)。一方、メモリーテックのクリスタル・クリア・カッティングIIは、既にエイベックスの一部新譜(MISIAのニューアルバム「KISS IN THE SKY」など)に導入済みとのことだ。音楽業界ではなく、技術メーカーが今後どうCCCDに関わっていくのか、注目されるところだろう。
レコード業界にとって違法コピーを防ぐということは、自分たちの利益を守ることだけでなく、アーティストの著作権を守るということでもある。パソコンを使えば、無制限にデジタルコピーが作れる現状が「健全」でないというのは、確かにその通りだろう。だが、既にSACD、DVD-Audioといった“安全”なコピー防止技術が組み込まれている次世代CD規格が存在するのも事実。コスト面で次世代CDに移行するのが厳しいというのは理解できるが、音質や再生機器の面で負担の少ない規格に移行することも、業界全体として考えなければならない問題なのではないだろうか。