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第5回 ─ チルアウト

第5回 ─ チルアウト(2)

連載
Discographic  
公開
2002/08/08   16:00
更新
2002/10/03   22:59
ソース
『bounce』 234号(2002/7/25)
テキスト
文/bounce編集部

electrical loversに訊く、〈私が考えるチルアウト〉

インタヴュー・文/出嶌孝次


独特のアンビエンスを根底に置いたアプローチで、凛と張り詰めた音世界を追求するelectrical loversことchihiro。ニュー・アルバム『MICRO LAND』のリリースに続いて、このたびチルアウト・コンピ『electrical lovers present chill-out lovers』を選曲した彼女に話を訊いてみました。まずはchihiro自身とチルアウトとの出会いから。そのコンピのライナーノーツに、彼女はKLFの『Chill Out』との出会いを〈衝撃的〉と綴っているのですが、具体的にはどういうところが?

「それまで自分が持っていた〈音楽〉という定義を完璧に打ち破ってくれたんです。〈こういうのもアリなんだな〉と。現在のいわゆる〈チルアウト音楽〉は、例えばBGMでかかっていても楽しめるものだけど、『Chill Out』は意識を凝らして聴かないと理解しづらいもので、そういう点では現在の〈チルアウト〉とはあまり接点がないのかもしれません。ただ、その理解しづらさは〈深さ〉でもあって、そういう〈深み〉を私も常に自分の音楽に持たせようとしてる。自分の中では繋がってるんですよ」。

 ここで重要なのが〈自分の中では〉という部分。人それぞれで具体像が異なったり、その像を結びにくかったりするのが〈チルアウト〉のおもしろいところですからね。それを考えるのは無為なことですけれども、何がしかの共通項があるはず。

「環境は大事ですよね。ただ〈イビザのビーチ! サンセット!〉のような環境が必要っていうわけじゃなくて、自分がリラックス、チルアウトしている環境で、そこにフィットする音楽をかければ、それは〈チルアウト・ミュージック〉なわけで。一方で、どんな状況下でも必ずチルできる音楽というのもあるんだけど、それは人それぞれでしょうし。とにかく、普段のペースを〈落とす〉というか、テンションを〈抜く〉というか、そういう必要な時間や空間をもたらしてくれる音楽、ということでいいんじゃないでしょうか?」。

 なるほど。ただ、そういうカテゴリー(?)として言葉が一人歩きしてしまった〈癒し系〉とかと混同されそうなムードの言葉でもありますよね。

「うーん……でも、私のアルバムにしても、コンピにしても、〈癒し系〉のコンピには入らなそうな曲ばかりでしょ? なんとなく(笑)。しいていえば……すでに疲れてしまっている人を励ますのが〈癒し〉なら、〈チルアウト〉はテンションが上がりすぎたり、刺激を受けすぎた状態から、平熱に戻るための音楽なんじゃないかな?」。

 なるほどなるほど。じゃあ、『MICRO LAND』も〈チルアウト〉というタームを考慮に入れたものなんでしょうか。

「私の場合、〈人生チルアウト〉がテーマなんで(笑)。例えば、曲の構想も、自分の部屋で自然体でいるときにしか沸いてこないし、自分がいちばん心地良い音を選びながら作っているので、自分にとっては最良のチルアウト・ミュージックになっているのかも。逆にいえば〈人をチルアウトさせる音楽〉をつくっている意識はないわけで、『MICRO LAND』が聴く人すべてをチルさせられるかどうかはわかりません。そうなってくれたら嬉しいけど。まぁ、そうはならないだろうから(笑)、コンピのほうも出してみようということになったんですよ」。

 ということで、話は戻って……コンピ『electrical lovers present chill-out lovers』にはエールやマッシヴ・アタック、ブラー、ケミカル・ブラザーズ……と幅広いアーティストたちの楽曲が共通の質感をモチーフに並べられています。

「初めてこういう音楽に触れる人が入りやすいように、ということは意識しました。音的にも、アーティストの名前にしてもね。私がデジタルな音が好きなんで、そういうもの中心になってますが、ただ無機的なんじゃなくて、いずれも音に〈温もり〉を感じる曲たちですね。あと、世界的にチルアウトはクラブ・ミュージックという範疇からすでに脱しているんで、東京という街で聴いても、あるいは部屋で聴いても、フィットするものにしようとはしました」。

 そう、何でもアリなチルアウトの世界を窺うには最適の一枚ですよ。

「『MICRO LAND』が必ずしも〈チルアウト・ミュージック〉を作ろうと意識したものではない一方で、〈チルアウト〉という概念や行為をもっと多くの人に伝えたいという気持ちが強くあって、それがコンピになったわけですが、聴いた人には自分にいちばんフィットするチルアウト・ミュージックを見つけてもらえれば、と思っています」。