INTERVIEW(2)――音の洪水のなかに歌の居場所を見つける
音の洪水のなかに歌の居場所を見つける
つまるところ、ダンス・ミュージックという快楽主義を選び取るのに理屈なし、ということか。そんな彼らの志向を象徴するのが、先行シングルとしてアナログ12インチでリリースされた“ローカルサーファー”だ。イーヴン・キックに乗せてメランコリックなメロディーを炸裂させるこの曲は、くるり以降のダンス・ロックや、DE DE MOUSE~CHERRYBOY FUNCTIONといった面々に通じるキャッチーな魅力を備えている。
「この曲は、トラックとタイトルがまずあったのですが、まずデモを聴かせてもらったときの第一印象が絵本の〈スイミー〉でした。そこからイメージを膨らませて、いくつかのステップを経て、いまのかたちになりました。自分としては、それまで書いた類のないポジティヴな歌詞だったので、当初は恥ずかしかったのですが、いまは歌うたびに自分が励まされている気がして、やっぱりもう一回り恥ずかしいです」(ゆーきゃん)。
また、アルバムにはギター・バンド的なアンサンブルが多分に織り込まれており、時に荒々しいギター・ノイズがすべてを飲み込むような展開を見せることに驚かされる。ギターの轟音とゆーきゃんの囁くような声……シューゲイザーを彷彿とさせる、そのダイナミックな音の対比が美しい。
「トラックはただの伴奏ではなく、ダンス・ミュージックのなかに歌がある、音の洪水のなかに自分の居場所を見つける。シグナレスでは、その関係がとても楽しいんです」(ゆーきゃん)。
『NO SIGNAL』は、ダンス・ミュージックに対する彼らなりの回答、と言って差し支えないだろう。しかし、例えば音圧たっぷりのビートで、すべてをグルーヴに還元するような類の音楽でもない。ダンスを標榜しつつも、叙情的なメロディーや甘美なノイズのほうが前面に出てしまう……それこそが彼らの持つ最大の魅力なのかもしれない。
「音数が多いので必然的にダンス・ミュージック的な音圧にはなりませんでした。また、ヒットチャート狙いの音楽でもないので、音圧で勝負しなくてもいいんです。いや、ヒットチャートには入りたいですが、音圧を上げたところで入れてもらえるわけではないですしね。音圧を稼ぐということは音の粒を潰すので、音楽的に良くない。グチャってなって音楽からどんどん離れていくと思ってます」(池永)。
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