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スピルバーグから小津安二郎まで!巨匠監督の“クセ”で名作を読み解く「名作映画解剖図鑑」

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サブスクで映画を観るのが当たり前となり、往年の名作もワンクリックで楽しめる時代となった。もちろん普通に視聴するだけでも十分に面白いが、“監督らしさ”を感じさせる演出のクセを知ると、作品の見え方はぐっと変わってくる。

紹介する書籍「監督のクセから読み解く 名作映画解剖図鑑」は、名匠たちが作品ごとに繰り返す“独特の演出方法=クセ”を切り口に、映画の世界を読み解く一冊だ。作品の“解像度”を高め、観る人に新しい映画の楽しみ方を教えてくれるだろう。

●スティーヴン・スピルバーグが「同じものを反復する」意味は?

最初に登場するのは、ハリウッドを代表する監督スティーヴン・スピルバーグ。著者が彼の演出のクセとして挙げるのは、「同じものを反復する」こと。過剰なまでに繰り返される映像や言葉が、作品に独特の力を宿すのだ。

“反復”のほとんどの要素が出揃うのが、映画『未知との遭遇』。人間が宇宙人への挨拶としてシンセサイザーで音を奏でる場面では、「ピロリロリ」という“音”に合わせて電光パネルの“光”が連動する。それも一度では終わらず、何度も、しかも高速で繰り返されていく。さらに作中では“言語”の反復も多用。フランス語から英語へと翻訳されたセリフが字幕では二重に表示される、というユニークな仕掛けも見られる。

映画『ターミナル』は、まさに“言語”を主軸とした物語。英語を話せない主人公が少しずつ習得していく過程では、同じやりとりの繰り返しが効果的に描かれていく。「bite to eat」を高速で繰り返すシーンは「ピロリロリ」のようにリズミカルに反復され、観客に強烈な印象を残した。

著者は「同じものを反復」する理由を、こう読み解いている。

同じものが何個も集まるときに、ものはすごい力、物の塊としての力を持つ。そういう物質的な力を、スピルバーグは信じています。 (※注)

繰り返しの中にこそ、彼の映画を貫く“説得力”の源泉があるのだろう。

●ウェス・アンダーソンの「平面性」の美学

ウェス・アンダーソン映画といえば、一貫した独特のビジュアルスタイルが特徴だが、そのクセを著者は「平面性」と呼ぶ。真正面や真横といった直線的な構図に加え、明暗を排した照明によって空間の奥行きを排除。この徹底した平面性は、2作目『天才マックスの世界』から顕著に現れている。

画面内には窓枠や家具、小道具を巧みに配置して水平線や垂直線が強調されることも多く、その結果平面性が一層際立つ。さらに『グランド・ブダペスト・ホテル』では、山を上るケーブルカーを用いることで“斜めの直線”が導入された。

著者は、この徹底ぶりを「ものを斜めから見る」という現代的な感覚への批判ではないかと分析。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が高く評価された時代には、真正面から描かれる構図にこそリアリティがあった。アンダーソンは、失われた“真正面からのリアル”を映画で取り戻そうとしているのかもしれない。

●小津安二郎の「同じものの反復」は意味を持たない?

スピルバーグと同じく、小津安二郎も「反復」を特徴とする監督だ。しかし決定的に異なるのは、スピルバーグが“意味ある要素”を強調するのに対し、小津は言葉や映像などを“意味を欠いた同じもの”として反復させる点にある。

映像面でいうと、小津のカメラはほとんど動かず、捉え続けるのは同じ位置・同じアングルからの人物や風景。無関心な監視カメラのように、ドラマの有無を問わず空間を等しく扱っている。その象徴が映画『お早よう』のラストシーン。念願のテレビが届き、他の監督なら家族全員が画面を囲む場面で締めるはず。ところが小津は、テレビを箱から出すことすらせず、ただ“届いた”という事実だけを映し出した。

さらに小津が好んだのは、“形”の反復。会話する2人や横に並んだ登場人物が、“同じ姿勢”や“同じ動き”をとる。ここで重要なのは人物が何を見ているかではなく、“同じ形かどうか”という点にある。

なぜ小津には、そんなことができたのか。それは、「眼差し」に囚われていないからです。 (※注)

登場人物を同じように置き並べるという徹底した姿勢が、小津映画を唯一無二のものにしているのだろう。

有名監督たちのクセを解剖すれば、見慣れた名作もまったく違う視点から味わえるはず。本書を手に取り、新しい映画の世界に浸ってみてほしい。

▶注)「監督のクセから読み解く 名作映画解剖図鑑」より引用

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年09月23日 12:00