鈴木慶一の新バンド、コントロヴァーシャル･スパーク初アルバム『セクション・ワン』発売記念インタビュー掲載中

ムーンライダーズの活動休止後、動向が注目されていた鈴木慶一が新バンド、コントロヴァーシャル・スパーク（以下、コンスパ）を結成してポップ愛好家を驚かせたのは、2013年のこと。矢部浩志（元カーネーション）、近藤研二（栗コーダーカルテット、図書館）といった日本のポップ・ミュージック史における重要人物と、岩崎なおみ（The Uranus）、konore(the rooms)という新進気鋭の女性アーティストを擁するバンドは、ライブや作品のリリースを重ねるごとに新鮮な驚きを与えてきた。それは、海外の若きインディーズ・バンドが短期間で次々と新たな表情を見せてくれるのと同質のワクワク感であった。

そしていよいよ発表となった、初のフル・アルバム『セクション・ワン』。聴いた人は誰もが驚き、大いに戸惑うに違いない。これはなんというポップなのだ。この音楽はリスナーをどこに連れて行こうとしているのか、と。でもそれでいいのだ。その、行き先の予想もつかない音楽ドライブこそが、コンスパの醍醐味。では、鈴木慶一のナビのもと、さっそくドライブをスタートさせることにしよう。

――ムーンライダーズはアルバムを作る時に各メンバーがデモを持ち寄り、そこからやる曲を決めるという民主主義的な方法がとられていました。コンスパの場合はどうなんですか？

「同じだね（笑）。ようするに誰かが命令を出すというタイプではないんだよ。ライダーズもそうだし、このバンドも。時々出すけど、デモテープを集めてそれから選んでいくと。バランスを考えつつ。だから変わらないね。実感したよ（笑）。バンド活動停止してさ、新しく違うメンバーと始めたバンドなんで違う作り方になるかと思ったら、同じだ（笑）。ワンマン・バンドにならない限り同じだよ」

――デモテープを集めるに際して、アルバムのキーワードとなるようなものをメンバーに投げたりとかは？

「何もない。その人の持ってる曲作りに対するアプローチを、どうやって一つのバンドのサウンドにしていくかだけだね。全員コンポーザーだってことは同じだよね、ライダーズと」

――メンバーを選ぶ時に、コンポーザーでもある人ってのは決めていたんですか？

「とくには決めてないけど、結果的にはそうなって。ベースの岩崎さんは作曲するのか分からなかったけど、事前に送ってきた資料には作った曲が何曲か並んでたりしたから、作れんだろうなと思って。でも（コンスパでは）作る気全然なかったようなので、メンバーが5人いて4人まで曲作るんで、あなたもやりなさいよということで。これは命令だね（笑）」

――今回、3曲も書いているkonoreさんにしても、限定E.P.や1stミニ・アルバムの『コントロヴァーシャル・ミュージック・スパーク』では、まだ作詞だけで。

「konoreの曲は最初はないよね。作詞から関わってみてっていう。かなり手さぐりだから。昔からの知り合いではないし、やってみないと分からない。まず面白い歌詞を書くので、矢部君の曲に歌詞をのっけてみたら面白いんじゃないかというようなことだね。その組み合わせで何曲か作って、フル・アルバムになって、konoreの曲をちゃんと取り上げようと」

――アルバム・タイトルにもなっている“セクション・ワン”という曲の詞は岩崎さんと慶一さんの共作ですね。これはどういう意図のもとに？

「作詞だけっていうのは（岩崎さんは）初めてなんじゃないの。私の曲に誰か違う人が歌詞を書くというのも面白いかなということで。でもkonoreはいっぱい作詞してるんで時間もないだろうし、岩崎さんどうでしょう？と。それを私が足したり引いたりして共作にはなっているけど、ベーシックは岩崎さん。で、曲のタイトルもいいので、アルバムのタイトルにもなった」

――曲のヴァリエーションがさらに広がっているのも、意図的に？

「そうだね。ようするに、可能性をものすごく広げておいて、こういうバンドだぞというような固定をしないんだよ。だから次も変化するだろうし、変化するのが2010年代っぽいんじゃないかな」

――konoreさんの曲が顕著なんですが、キャラクターの振り幅の広さが出た曲が選ばれていますよね。

「わざとそうしたんだよ。konoreの曲はもうちょっといっぱいあったんだけど、ポップな曲が多くて。その中で“Jigoku No Hamabe”だけアンダーグラウンドな曲だったんで、あえてこっちにしたほうがいいんじゃないかと思ったの。でも出来上がり聴くと、思い描いていたイメージよりもポップ度が高いね。それは悪いことじゃないんだけど」

――やっぱり女性ヴォーカルが入ると、そうなるんですかね。筋肉質なハンマービート・サウンドに女性ヴォーカルが入ると、ポップに中和されていく。

「それは大きいかもね。歌い方とか。バカバカしい歌い方だったり」

――ジャケットには女性メンバーがフロントで男性陣が後ろにいる写真が使用されています。この配置は？

「せっかく女性が二人いるんだから、前にいったほうがいいんじゃない？っていう（笑）」

――このジャケットや、プロデューサーの表記がコントロヴァーシャル・スパークになっているところに、バンドの性質が現れていますよね。

「だって想像がつくじゃない？アルバムが出たら、鈴木慶一率いるナントカって（紹介文が）つくでしょ？そこはサウンドを作る面においては、なるべく消していく。だから私がもしプロデューサーだったらどんどん決めていってしまうだろうけど、そこはしない。見ている。あとは作ってまだ1年足らずなんで、その人の感性がどういう風に吐露されるのかなとかさ、やっていかないと分からない。（連絡は）メーリング・リストでやってるから、言葉の伝わり方がまた違うよね。ライダーズの中での言葉の伝わり方とは。ライダーズは特殊なバンドで40年弱になるけど、初期の頃は一緒に行動していたから、さまざまなことが起きたからね（笑）。例えばアグネス・チャンのバッキングをしている時は、20日間も一緒にいるわけだよ。（このバンドでは）そういうのがないので」

――プライベートで集まったりするようなことはない？

「ないない。音楽のうえでの集まり。だから考えてみると、去年の6月11日に初めて全員揃ってセッションして。それが（今作の）最後にボーナス・トラックで入ってる。出会いがしらのセッション。それはあえて入れたんだけど、そういうのってもうちょっと3～4年したら発表するもんじゃない？普通。そういうのもアルバムに一緒に入れてしまうことによって、この1年間の流れを全部お見せするという」

――このアルバムのためのセッションじゃなかったんですか？

「じゃない。結成のためのセッション。最初は、はじめましての挨拶ばっかだよね。それでセッション始めて、ジャムからインプロになっていったりする。それで大体その人の資質が分かる。これでいけるなって、決めた日だね。そっから7インチ・シングル用のレコーディングがあって、あとはワールドハピネスのリハで会って、ライブのためのリハで会い、ライブをやり、そして新しい曲を増やしていってミニ・アルバム作っていってという流れだね。だから今回のフル・アルバムにはライブでやってない曲も入ってくる。そのへんは苦労してるよね。スタジオでもまなきゃいけないから」

――コンスパにはどこに着地するか分からないところを楽しんで作っているところがありますが、不安になったりはしないんですか？

「ライブをやる時には1個しか考えてないんだよ。演奏うまくやるのもそうだけど、曲がガーンて終わった時にお客さんがかっこいいなと思ってくれりゃいいや。それしか考えてない。でもその裏には理屈がいっぱいあるよ。みんな曲の作り方が違うんで。まあ、ムーンライダーズやってたのがいい経験となってはいるよ。経験はあまり必要ないんだけど、困った時とか何か先に進まなくなった時には経験が唯一役立つ。他はあんまりいらないと思ってる。これもすごく初体験だから、初体験のワクワク感を大事にしよう。でも作ってる時は、結局同じだよ。ムーンライダーズやってても、ソロやってても、曽我部君とやってても、作ってる最中は不安ですよ。出た時にどういう風に聴いてもらえるのかなっていうのは、常に気にしているよね。で、いいアルバムだって言われれば嬉しいし。音楽作るってのはそんなもんだよ。変わんねえなっていう。一つだけ変わんないことはそれだね。作る時は不安だ」

――不安が安心に変わる時ってあるんですか？

「安心は結局しないよね。しないから次を作る。まあ唯一安心したっていうか、やりきったなっていうのは『ciao!』かな。自作自演的なメタ活動休止アルバムだもんね。あのアルバムの中に色々なヒントが隠されていて、休止に至る。」

――ライダーズのアルバムって、一回聴いただけで分かってたまるかっていうとこがありますよね。

「分かってたまるかっていう意地で作ってるわけじゃないけど、とにかく他にないものを作るっていう意地だよね」

――それはコンスパにも通じる意地ですよね。

「だからフィジカルだけじゃない。メタフィジカルなところがたくさんあるわけだよな」

――バンドだけど、メタな肉体感があると。

「その通り。それはkonoreの作る不思議な歌詞とか、岩崎さんの作る歌詞とかにもよってるんじゃない？私の作る歌詞もそうだろうし。konoreの作る歌詞が男言葉だったりね。若いから。自分の20代を思い起こすと、1年でどんどん変わっていく。そういうもんだよ。60代もそうなんだけど。すごいスピードをもって変化していく」

――年をとるにつれて変化のスピードは遅くなっていくものと思っていましたよ。

「じゃないと思うな。人によるだろうけど、私の場合は。だから変化を楽しまないと」

――その変化がコンスパにも反映されていくと。

「うん。だから長くやってるバンドの変化よりも、始めてすぐ変化していく感じが、今らしいと思うよ。例えばブルックリン系のバンド……アニマル・コレクティヴとかさ、1枚ずつどんどん変わるじゃない？かたや北のほうだとアーケイド・ファイアとか、あのへんも1枚ずつどんどん変わる。そのスピードだな。大事なのは」

――確かに前作と本作を比べてみると、変化のスピードが激しいですよね。

「ミニ・アルバムの次の1stフル・アルバムなんで、1.5枚目というか2枚目っぽくなっていると思うな。バッファロー・スプリングフィールドでいったら『アゲイン』みたいな感じ（笑）。1枚目の一つのことしかやってないサウンドからいきなり『アゲイン』になる、あの流れ。だから今後もライブを重ねて変わっていくと思うよ」

インタビュアー：小暮秀夫