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ジャズの重力に向かって - column

掲載: 2013年11月19日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

text:原雅明



例えばこういう見解がある。「ジャズとヒップホップのコラボレーションというと硬いビートの上に難解で高尚なソロが乗るというパターンに陥りやすい。しかし、70年代育ち、テキサス出身の天才トランペッター、ロイ・ハーグローヴの新作はそうではない。確かに彼はクリフォード・ブラウンやマイルス・デイヴィス直系のミュージシャンであるが、ディアンジェロやQ・ティップ、同郷のエリカ・バドゥといった今をときめくスターたちとも親睦があり、今作では彼らが大勢参加している」

これは、ハーグローヴがRHファクター名義でリリースしたアルバム『Hard Groove』(2003年)を売る某大手通販サイトで掲載されているアメリカ人ライターのレビューだが、ジャズとヒップホップの関係性についての至極真っ当な見解を示している。より端的に言えば、その関係性はやっている当事者たちの満足以上のものはもたらしては来なかったのだ。そして、それは何故なのかという問いに最初に応えたジャズ・ミュージシャンは、ロイ・ハーグローヴだとまずは断言しよう。RHファクターを名乗る以前、 彼がディアンジェロの傑作『Voodoo』への参加を経て体得した結果が『Hard Groove』だ。『Voodoo』は、全体にスローでズレてハネているグルーヴに、ディアンジェロのヴォーカルもピノ・パラディーノのベースもクエストラヴのドラムもひたすらまとわりついていく。このタイミングこそがニューソウルとヒップホップのグルーヴの更新の本質だった。ハーグローヴが そこに関わったことは、『Hard Groove』でそのグルーヴをジャズのメソッドから捉え直すことに繋がった。

そして、この同じ年にもう一枚重要なアルバムがリリースされている。ニコラス・ペイトンの『Sonic Trance』だ。同じトランペッターであるペイトンは、ハーグローヴが豪華なゲストを招き同時代性を提示したのとは対照的に、自らドラム、ベース、 ヴォーカルからプログラミングまで手掛け、時代を溯行してジェリー・ロール・モートンやフェラ・クティまでをヒップホップのフィルターに通した。

ハーグローヴとペイトンの試み以降、ジャズの世界でこういったアプローチは途絶えてしまったかのようだった。少なくともロバート・グラスパーの活躍まで表立った動きは見えなかった。しかし、水面下で事態は進行していて、その中心を担ったのがドラマーたちだった。『Hard Groove』に参加したQ・ティップが直前にカート・ローゼンウィンケルらと制作した『Kamaal the Abstract』(お蔵入りになり2009年に日の目を見たが当時リリースされていれば間違いなく“ジャズ”としても重要なアルバムとなった)のドラム を叩いたジョナサン・ブレイク、『Sonic Trance』にサンプリングとシンセサイザーで参加する以前からドラマーとトラックメイカーの二足のわらじを履いていたカリーム・リギンズ、ペイトンのバンドを経てヴィジェイ・アイアー・トリオにヒップホップのエッセンスを注入しフライング・ロータスのカヴァーを実現したマーカス・ギルモア、そして、Q・ティップやモス・デフ以上にグラスパーにヒップホップを教えたクリス・デイヴ。

他にも、Q・ティップの『The Renaissance』に参加して先頃グラスパーと共に来日したマーク・コレンバーグや、J・ディラの《Nothing Like This》のカヴァーでクラブ・シーンでも知られたエリマージを率いるジャミア・ウイリアムズなど、若く柔軟性のあるジャズ・ドラマーの登場には目を見張るものがある。ハーグローヴは高校時代にエリカ・バドゥとラップ・グループをやっていてビートボックスを担当していたというが、ヒップホップを当然のように通過してきた世代が増えれば、こうしたドラマーの在り方はますます自然なマナーともなっていくことだろう。そして、そのドラム が今度はどうグルーヴを更新していくのか、そこに次なる関心はある。それは、一見繋がりがない縦割りのエレクトロニックなビートにも少なからず影響をもたらすはずだ。



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