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特集

ECM SCRATCH THE SILENCE

掲載: 2013年11月19日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

text:編集部



40年以上も続くミュンヘン在のジャズ/クラシックの老舗レーベル、ECMのオーナー/プロデューサー、マンフレート・アイヒャーは、”Beautiful Sound next to Silence”というコンセプトでレーベルをデザインするプロデューサーだ。毎年発行される2,000枚以上の作品を集めたカタログはまるで美術館のカタログのようだし、演奏されれば沈黙でさえ究極の精度でレコーディングし、最高に美しく再生するのだという意気込みは、どのプロダクションにも徹底され、彼はいったいどんな沈黙を美しいというのだろう、なんて疑問を抱かせるほどだ。このレーベルの音楽を愛聴する耳は、マンフレートのサウンドコンセプトを聴いてきたといっても過言ではないだろう。

ECM(=Editions of Contemporary Music)は1970年当時、音楽の可能性をジャズ/即興音楽に求めた。同じ時期にFMP(=Free Music Production)というレーベルがベルリンにあったが、彼らはもっと自由な音楽にこだわった。一方、マンフレートは自由に音楽を聴いた。彼はジャズの演奏にクラシックを聴き、クラシックの演奏にジャズ、伝統/民族音楽に未来/世界音楽を聴いた最初のプロデューサーのうちの一人だろう。だからキース・ジャレットのソロ・シリーズがここから始まり、パット・メセニーの音楽が生まれ、エグベルト・ジスモンチのギターとピアノの音楽、ディノ・サルーシのバンドネオンが沈黙に引用された。スティーヴ・ライヒは、彼の音楽スタイルの成熟をECMに記録し、ドイツの鬼才、ハイナー・ゲッベルスのシアターピースは、今も音として記録され続けられている。

そんな自由に音楽を聴く耳は、音楽の未来に耳を傾け始めた。



〈新しい兆し〉 Gradual process

この秋、ソフィア・ボロス(ギター)、イェウォン・シン(ヴォーカル)、アーロン・パークス(ピアノといった新人のリリースが、ジョン・アバークロンビー・カルテット、ラルフ・アレッシ(ジェーソン・モラン他参加)、キース・ジャレット&ミシェル・マカルスキのバッハ、カーラ・ブレイといった古参アーティストのリリースの中に交じって続く。ギタリスト、ソフィア・ボロスのアルバムはクラシックのアルバムらしいド真ん中の作曲家レオ・ブローウエルの作品を始め、ECMでは先輩格にあたるラルフ・タウナー(ギター)、最近ブエノスアイレスで注目を集める作曲家キケ・シネシ、さらにヴィセンテ・アミーゴの作品などを並べ、これまでのクラシックギターアルバムにはなかった確かな、そして甘い響きを漂わせる。また韓国出身のヴォーカリスト、イェウォン・シンのアルバム『Lua ya』は、ピアノ/アコーディオン/声という組み合わせによる非常に親密で、繊細なピアニシモの響きを堪能できる演奏を中心に、イェウォンのささやくような声の優しい空間を造り上げた。すでにジャズ界ではブラッド・メルドーにつぐ才能として注目されているピアニスト、アーロン・パークスは、ソロピアノによるアルバムをリリースする。二曲のオリジナルをのぞき、すべて即興演奏で制作したという。クラシックのレパートリーを演奏できるような素養はまったくないというのだが、だとすれば驚異的な耳の持ち主なのだろう、即興とは思えないコントロールの、素晴らしいタッチを楽しめる。彼はイェウォンのアルバムにも参加、彼女の声をその透明なタッチで伴奏した。韓国からの新人デビューに加え、日本からクラシックのピアニスト児玉桃がアルバムをリリースする。ラベル/武満徹/メシアンの作品で構成されているが、児玉はメシアンを得意とするピアニストとして本誌でもおなじみのピアニストである。ほぼ同時期に発売されるアンドラーシュ・シフのベートーヴェンの難曲『ディアベリ変奏曲』とは対照的なリリースだ。新しいアーティストの作品が並び新鮮なリリースが続くが、ジョン・アバークロンビーのカルテット、カーラ・ブレイ/ス ティーヴ・スワロウ/アンディ・シェパード、さらにラルフ・タウナーのギタートリオの新作はとても落ち着いたヴェテランらしい間違えのない内容の作品に仕上がっている。ゆったりくつろぎながら向き合えるECM作品の、もうひとつの魅力、カフェ的サウンドが満喫できる。是非、こちらも聞いていただきたい。ともあれ新しい才能の参加によって、またしても音楽ファンの心をかき乱しはじめたレーベルの思惑に、今後も注目していきたい。



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