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特集

Brazillian Method〜サンパウロとジャズ[南米]

掲載: 2013年11月19日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

text:中原仁



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9月初頭にサンパウロから初来日したダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートのライヴは、期待以上に刺激的で多くの発見があった。

今年28歳のシンガー/ソングライター、ダニ・グルジェルとピアノ・トリオ(ピアノのデボラはダニの母、ドラマーはダニの夫)という編成で、ダニはスキャットも披露し、バンド全体の即興性も高い。ただ、ジャズの手法を取り入れているが、発想の原点は60年代のジャズ・サンバではなくそれ以降の時代の音楽、すなわちMPBで、ブラジル音楽の生命線である "歌ごころ" に根ざした自由な表現を目指す姿勢が伝わり、そこに最も感銘を受けた。ちなみにダニはライヴ盤で、ブラジル音楽からも影響を受けているマリア・シュナイダーの楽曲《プリティ・ロード》に自らポルトガル語の歌詞をつけた曲《エストラーダ・ベラ》を歌っていた。

ブラジルでは90年代中盤から10年余にわたり、ブラジル音楽の多彩なスタイルやリズムとロック、ファンク、ヒップホップなどとのミクスチャーを実践する新世代の音楽家が隆盛をきわめたが、近年はブラジル音楽とジャズやクラシックなどとの融合を志向する音楽家の台頭が目立っている。その先駆者がギタリスト/コンポーザーのシコ・ピニェイロだ。

MPBやショーロを聴いて育ち、クラシックを学び、バークリー音大に留学してジャズを学んだシコは、2003年にファースト・アルバムを発表。彼のバンドには、キャリア初期のマリア・ヒタやタチアナ・パーハら、今をときめく歌手も参加していた。シコはアンソニー・ウィルソン(ダイアナ・クラールのギタリスト)との双頭アルバムを発表し、フルーリーンのアルバムに参加するなどジャズ界でも注目の存在で、ボブ・ミンツァーのビッグバンドがブラジル音楽にアプローチした『フォア・ザ・モーメント』に作曲家/ギタリスト/歌手としてフィーチャーされ、同バンドの昨年の来日公演にもゲスト参加した。

シコとの共演歴が長いファビオ・トーヘス(ピアノ)、パウロ・パウレッリ(ベース)、エドゥ・ヒベイロ(ドラムス)は、現代のブラジリアン・ジャズをリードする演奏家たちだ。3人は個々の活動の他、トリオ・コヘンチと名乗るバンドも組み、パキート・デリベラの新作『ソング・フォー・マウラ』で全編にわたって共演。ファビオとパウロは渡辺貞夫のブラジル録音の新作『オウトラ・ヴェス~ふたたび』にも参加した。

昨年、新作『ソー』が日本で発売され、8月の初来日公演も大反響だったアントニオ・ロウレイロは、作曲家でありピアノやドラムスなどを演奏するマルチ・ミュージシャン。壮大な音楽世界の中にはキース・ジャレットやブラッド・メルドーに通じる要素もある。

現在27歳の彼は、ここまでに名前を上げた人たちと同じくサンパウロ生まれだが、ミルトン・ナシメントの故郷としても知られる内陸部のミナスジェライス州で、同世代の音楽家たちと活動を始めた。アントニオがドラマーとして参加したハファエル・マルチニ(ピアノ)のリーダー作『モチーヴォ』。2人を中心とするクインテット、ハモ。2人が参加した曲もある大所帯バンド、ミストゥラーダ・オルケストラ。これらのアルバムを聴くと、ミナスジェライスの風土に根ざした独自の音楽、ジャズ、クラシック、そしてブラジルのインスト音楽界の二大巨頭、エグベルト・ジスモンチとエルメート・パスコアルの音楽などを消化した新世代の音楽が着実に育ってきていることが感じられる。

この他、作曲家/ピアニスト/プロデューサーのアンドレ・メマーリ、マリア・ヒタをデビュー以来サポートしているチアゴ・コスタ(ピアノ)をはじめ、20代から30代前半の才気あふれる音楽家が次々に登場している。もともとブラジルはミクスチャー文化の国。本稿で紹介した人たちのアルバムを入口に、新たな音楽との出会いの扉を開いていこう。



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