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特集

Manfred Eicher

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年11月07日 13:43

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日発行)

text:多田雅範(Niseko-Rossy Pi-Pikoe)




Sounds and Silence/世界を再編する静寂

稀勢の里を中心にドラマが交差したいい秋場所だった。テレビ観戦をしていて、グルジア、トビリシ出身と場内アナウンスが流れる(幕内に二力士いる)と、ECM好きのわたしの耳には暖かなオーケストラの響きと弱々しく震える老人の歌声が聴こえはじめる。現代音楽の作曲家ギヤ・カンチェリの作品を指揮するヤンスク・カヒーゼ(1936-2002)じいさんが、62歳のときに心臓疾患から奇跡的に生還した歓びを故郷グルジア、トビリシのムタツミンダ山にかかる月を想って歌ったものだ。ECMのスタジオでその私的な録音を総帥マンフレート・アイヒャーがレーベルを代表するノルウェー出身のサックス奏者ヤン・ガルバレクに聴かせると、ガルバレクは即座に感銘しそのデモ・トラックを中心に据えて自らの集大成的な2枚組大作『Rites』(1998)を描いた。

アイヒャーによって1969年に設立されたECM(Edition of Contemporary Music)レーベルは、当初からジャズや即興の枠組を拡張する視野を持ち、83年からスタートしたクラシック分野に特化したニュー・シリーズも音楽としては相互的につながるもののようであり、これまで1200枚をこえるカタログを供給している。この迷宮への手がかりは昨年上梓した『ECM Catalog』(河出書房新社)が参考になるだろう。

ジャズの帝王マイルス・デイヴィスが、奥さんに連れて行かれたコンサートで聴いたカリンバの音階をヒントにモード奏法を発明し『カインド・オブ・ブルー』(1959)を制作した。西洋音楽的な、あるいは五線譜的なコードに基づくアドリブから、フォークの音階に由来するモード旋法への転換によって獲得した自由度は、サウンドの浮遊感とフォークの遍在を可能にしたように思う。

マイルスやオーネット・コールマン、武満徹らが最も賞賛した音楽理論「リディアン・クロマティック・コンセプト」。提唱したジョージ・ラッセルのもとで研鑽したノルウェーの若手4人組(ガルバレク、テリエ・リピダル、アリルド・アンデルセン、ヨン・クリステンセン)はECMレーベルの基盤となった。電化マイルスのもとから、キース・ジャレット、チック・コリア、デイブ・ホランド、ジャック・ディジョネットが次々とECMで開花してゆく。アイヒャーという触媒との出会い。そして、まさに『Play Your Own Thing』(ヨーロッパ・ジャズの発展を描いたDVD作品名)という解放の気付き。

ジャズ史におけるアイヒャーはどう位置付けられるだろうか。アイヒャーはマイルスの仕事を通じて、プロデューサーのテオ・マセロを視ていたと思う。彼らの演奏、出来上がった音盤。アイヒャーも大切なところは隠すものだ。マセロはCBSのプロデューサーとしてサイモンとガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』(1964)をヒットさせスタジオを自在に使用できる権限を得たことが、マイルスの『イン・ア・サイレント・ウエイ』(1969)が生まれた要因にあるという。アイヒャーはECM発足時に「most beautiful sound next to silence」を標榜した。あんたらどんだけサイレンス、というわけではもちろん、ない。静寂とECMとジョン・ケージの親和性については音楽サイト「musicircus」が示唆している。


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