DAVID GUETTA
この音をさらなる高みへ押し上げる責任があると思ったんだ
およそ2年前に『One Love』がリリースされた際にも、bounceはデヴィッド・ゲッタを特集記事で紹介している。ブラック・アイド・ピーズのプロデュース・ワークが記録的な成功を収めるなか、ケリー・ローランドをフィーチャーした“When Love Takes Over”はヨーロッパ全域で異常なヒットを記録していたものの、USではその時点で火が点くこともなかった。すでに4つ打ちのビートを採用したR&Bやヒップホップのフォーマットがポップ・フィールドでも主流となっているのは明白だったが、ユーロ仕込みのDJが作る音はやはり全米市場と感覚の差異があったのだろう……とか勝手に思っていたら、その後である。エイコンをフィーチャーした『One Love』からのセカンド・シングル“Sexy Bitch”が全米5位まで浮上し、UKやドイツなどではNo.1をマーク。以降もキッド・カディとの“Memories”、LMFAOをらを招いた“Gettin' Over You”などのシングル・ヒットが続き、アルバムも各国でマルチ・プラチナを達成している。USでの成績はそこまで届かなかったものの、並行してフロウ・ライダー“Club Can't Handle Me”などの制作曲が大当たりし、マドンナのリミックスなども話題を撒いて、トップDJのみならずプロデューサーとしてもついにメインストリームの舞台でも認知されることとなった。それから2年……リパッケージ版の『One More Love』を挿んで、ようやく待望のニュー・アルバム『Nothing But The Beat』が完成した。
化ける可能性のあるプロジェクトだと思った
——前作がヒットして、新作に臨むにあたって気持ちの変化はあった?
「『One Love』の制作時は、みんなダンス・ミュージック自体がこんなにビッグになるとは思っていなかったから、本当に楽しみながらレコーディングに挑むことができたんだ。参加してくれた皆も〈ダンス・ミュージックだから自分たちの国にはどうせ響かないし、あまり深く考えず楽しもうぜ!〉ってね。だから一風変わった、特別なアルバムに仕上がった。俺もDJの間ではそれなりにビッグな曲をリリースしていたけど、『One Love』がそれ以上になるとは想像もしていなかったから、いわば普段通りのモチヴェーションで臨んだまでだよ。〈アメリカン・ポップ・ミュージックの新しいフォーマットを作らなければならない〉とかいう大きなプレッシャーを感じることなく、ただ単に、俺の音楽が好きで俺とパーティーしたいと思ってくれている世界中のファンのために、仲間と曲を作ってみただけって感じの軽いノリだった。で、新作もパーティーっぽいノリで収録に挑んだけど、今回は〈化ける可能性のある、大きなプロジェクトなんだ〉という認識が皆にあったと思う。俺もアーティストとして成長したし、ダンス・ミュージックが新しいポップ・ミュージックとしての地位を確立していたから、前回と今回ではいろんなことが違ったね」
——USでもアーバン系のエレクトロ・サウンドは定着しましたが、そうした状況を反映した部分も大きいのでしょうか?
「2年前に出したサウンドが、USでラジオのスタンダードになったことで、それを超えなきゃならないという意識が高まったね。何だか責任を感じたんだ。自分の曲があまりにもポピュラーになったからって、〈OK、じゃ今度は全然違う方向に進むよ〉とは思わなかった。もちろん人気の波も楽しみたい。でも同時に、このサウンドをさらなる高みへ押し上げる責任があるように思えてね。そういう意味で、LAで過ごした2か月は良い刺激になったよ。毎日スタジオまでの道中にラジオを聴いた。それで〈いよいよクラブ・ミュージックがポップのスタンダードになった〉って確信したんだ。アッシャーやエンリケ・イグレシアス、リアーナがクラブ・ミュージック調のシングルを普通に出しているなか、俺がそれと同じサウンドで曲を出すわけにはいかない。もっと先を行って、〈本気で枠を越えなきゃ〉って思ったよ。だって他の人がもうやってることを俺がやるのもつまんないだろ?」
——新作の先行シングル“Where Them Girls At?”ではフロウ・ライダーとニッキー・ミナージュを起用してますね。
「ニッキーと作ったこの曲とは一瞬で恋に落ちたね。〈俺のアルバムには絶対この曲が必要だ!〉と思って、相手のレーベルと何か月も交渉して今回の『Nothing But The Beat』に入れることができた。昔から俺はニッキーのファンでさ、彼女の音楽活動が気になっていて、インターネットで彼女のキャリアを2年以上も追っかけてたんだ。やっと出会えて曲を聴いてもらったら、すごく気に入ってくれたから本当に良かった。彼女は見た目もすごくクレイジーだから正直に言うと最初はちょっと怖かったんだ。でも会ってみたらそうでもなかった。何をどうしたいかハッキリした意見を持っていて、仕事するうえで刺激的な相手だったよ」
俺は挑戦してる
そうやって生まれた『Nothing But The Beat』には、前作以上に豪華なコラボレーションが詰め込まれている。ゲッタご執心のニッキーがもう1曲“Turn Me On”に登場してミッシー・エリオットばりの活躍を見せるほか、リュダクリスとタイオ・クルーズを招いたセカンド・シングル“Little Bad Girl”、クリス・ブラウン&リル・ウェインによるトランス“I Can Only Imagine”、話題のデヴ(マーティン・ソルヴェグの別掲作にも参加!)とティンバランドを迎えたエロティックな“I Just Wanna F***”、馴染みのウィル・アイ・アムやエイコンとの再合体、そしてゲッタの極太なリミックスが全仏チャートを制したスヌープ・ドッグの“Wet”も入っている。そのような越境上手な顔ぶれのみならず、ジェニファー・ハドソンやジェシーJ、シーアといったこの種の作品では珍しい名が並ぶ点も、前作以上の緩急自在さによって広がったゲッタ世界のスケール感を窺わせるものだ。
——アッシャーの歌う“Without You”がエモーショナルで特に耳を惹きますね。
「とても光栄に思っている。俺が関わってきたなかでアッシャーはもっとも素晴らしいシンガーのひとりで、スタジオでは多くのことを学ばせてもらったよ。俺はいつも他のプロデューサーやソングライターと仕事しながら〈OK、この曲に合うアーティストを選ぼう〉ってノリなんだけど、アッシャーは本当にまったく違うレヴェルまで楽曲を引き上げてくれた。〈すげえ! これがアッシャーの力か!〉って思い知らされたよ。心の底から感心したね」
——ジェニファー・ハドソンの参加も意外でした。
「彼女の音楽性は俺とまったく違うから、確かに普段なら声をかけないタイプのアーティストなんだけど、あの声は認めざるを得ないよ。“The Night Of Your Life”にはあの大きな、響き渡る声が必要だったんだ。彼女の声を聴いた時に、〈これは試してみないと〉って思ったよ。俺とのスタジオ経験は彼女にとってもやはり新鮮だったみたいだよ。こういうテンポやフロウには慣れていなかったようだからね」
——ファン層も大きく広がっていると思いますが、リスナーの期待を裏切らないように気を付けていることはありますか?
「そうだね、特にダンス・ミュージックにおいては、進化しつつもコアな部分を維持し続けることが重要とされるんだ。自滅的というか、成功が喜ばしくないという、特異な側面もあるんだよね。ビッグ・ヒットを出したら次の10曲は超アングラな曲を書いて〈魂までは売り飛ばしてないよ〉ってアピールしなきゃいけなかったりするのさ。……でも俺はそんなふうに音楽を捉えたことはない。俺はダンス・ミュージックをヒップホップやロックのようにメジャーにしたかったんだ。それに馬鹿げていると思っていたから、そんなルールなんて取っ払いたかった。俺にとってはアンダーグラウンドだとかメインストリームだなんて関係ないんだ。10分間のキックやハイハット、それにスネアとベースだけでトラックを作ってれば陳腐にはならないかもしれないけど、リスクを避けているとも言えるよ。旋律が豊かでありながらダーティーでグルーヴィーな曲を作るのって、実に難しいからね。俺は信頼できるDJたちが俺の曲をかけてくれるのと同時に、その曲がラジオからも流れて、キッズが歌って踊ってくれるようにしたいんだ。あるいは、仕事を終えた人たちが俺の曲でハイになってくれる——これが俺の挑戦さ。アーバン系やメインストリームのラジオ局でも、ゲイ・クラブでも、プレイされる俺の曲で、みんなが仲良くなれればいいね。ヒップホップDJが俺のダンス・トラックをスピンして、ハウスDJが俺の作ったラップ・ミュージックを流す……俺の情熱を多くの人に届けて、みんなをひとつにしたいんだ」
▼デヴィッド・ゲッタのアルバムを紹介。
左から、2002年作『Just A Little More Love』、2004年作『Guetta Blaster』、2007年作『Pop Life』、2009年作『One Love』(すべてVirgin)
▼『Nothing But The Beat』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ニッキー・ミナージュの2010年作『Pink Friday』(Young Money/Cash Money/Universal)、リュダクリスの2010年作『Battle Of The Sexes』(DTP/Def Jam)、タイオ・クルーズの2009年作『Rokstarr』(Island)、スヌープ・ドッグの2011年作『Doggumentary』(Doggystyle/Priority/Capitol)、リル・ウェインの2010年作『I Am Not A Human Being』(Young Money/Cash Money/Universal)
▼『Nothing But The Beat』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
ジェニファー・ハドソンの2011年作『I Remember Me』(J)、ジェシーJの2011年作『Who You Are』(Lava/Island)、シーアの2010年作『We Are Born』(Monkey Puzzle/RCA)、ウィル・アイ・アムの2007年作『Songs About Girls』(Will.I.Am/Interscope)、エイコンの2008年作『Freedom』(Konvict/SRC/Universal)、ティンバランドの2009年作『Shock Value II』(Mosley/Interscope)
▼関連盤を紹介。
デヴィッド・ゲッタのプロデュース曲を収めたケリー・ローランドのニュー・アルバム『Here I Am』(Universal Republic)
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