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坂本龍一(3)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年08月12日 17:24

更新: 2011年08月18日 13:27

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

text:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

これも一種のエコロジーとかかわるのかもしれないし、歴史意識や人類の遺産とつながってくるのだろうが、【schola】の最新巻『ロックへの道』は5月末にリリースされたばかり。

大瀧詠一が坂本龍一、北中正和とともに語る場に同席させていただき、とてもスリリングな時間を過ごすことができたのだったが、あらためてこの巻を読み、音源を聴いてわかったのはこういうことだ。つまり、ロックがロックのかたちをだんだんと成してくるさまは、アメリカ合衆国の、一時代に身をおきながらではかならずしもわかりえないということ、それが逆に、第二次世界大戦後の列島をとおしてこそみえてくるものがある、という事実だ。この列島で、合衆国からのラジオ放送、進駐軍の家族が残していったシングル盤といったところから徐々に形成されてくるロック像──これは客観的と称されるアカデミックなロックの歴史とはあきらかに異なっている。さらに、ワールドミュージック的切り口から補強される北中正和の選曲が、ロックでありながらロック未満/以前のあわあわとして広がりを提示し、〈ロック〉の世界化を浮かびあがらせる。

【schola】シリーズ、次巻はまだすこし先だけれども、「サティからケージ」が現在進行中である。

坂本龍一自身の中心となる音楽活動はどうかといえば、ヨーロッパでは5月、alva noto + ryuichi sakamoto “s” tourがおこなわれた。アルバムとしては『summvs』が控えている。

また、クリスチャン・フェネスとのアルバムもある。前号でも書いたし、わたし個人のことではあるのだが、〈3.11〉以降、音楽を聴くことはそれ以前にもまして、すっかり減ってしまった。カフカの断食芸人ではないけれど、ほしくない、のである。実際に聴きはじめても、やめることが多い。聴けるもの、聴くことができるもの、聴けないもの、がかなりはっきり分かれている……。そうしたなか、サンプルとして送られてきた、このアルバムからの4曲は、いま積極的に聴くことができる音楽、としてある。これは、誇張でも何でもなく、わたしにとって、大切な音楽だ。先に、ピアノのひびきが減衰し、というようなことを記した。そうした坂本龍一の音とともにフェネスの持続する音がある。この併存の感覚が、わたしには、いま、必要なのだ。ちなみに、フェネスと坂本龍一は、『WORLD HAPPINESS 2011』の出演(Yellow Magic Orchestraと同日!)が決定しているという。

最後に、この文章を書きながらつねにおもいうかべていたことばを、最近出版された衝撃的な本、管啓次郎×小池桂一『野生哲学 アメリカ・インディアンに学ぶ』(講談社現代新書)から引く。

きわめて民主的な政治システムを完成していたイロクォイ族では、部族の会議が開かれるたび、人々は自分たちの義務を次のような言葉で誓いあうのだった。「何事を取り決めるにあたっても、われわれの決定が以後の七世代にわたっておよぼすことになる影響をよく考えなくてはならない」と。(p.44)

本当の人間とは、身のまわりで起きているすべてのものごとに絶えず耳を傾け、音響の配置を聴きとる者のことだ。木々のざわめく音、頭上を飛ぶ鳥、部屋に吹きこむ風、誰かの息づかい、話し声、そして沈黙。(p.54-55)

『堂島リバービエンナーレ2011“ECOSOPHIA”〜アートと建築〜』
会場:堂島リバーフォーラム[大阪市福島区福島1-1-17]  日時:7/23(土)~8/21(日)会期中無休

アーティスティック・ディレクター:飯田高誉 アソシエート・ディレクター:生駒芳子 アート・ディレクター:古平正義 空間構成:JTQ 谷川じゅんじ
アーティスト:アニッシュ・カプーア 音楽:坂本龍一
主催・企画制作:堂島リバーフォーラム

●知圏:楽園の象徴─都市、森、砂漠
アート:石井七歩、新津保建秀、大庭大介、安部典子、齋藤雄介
建築:磯崎新、藤村龍至、浅子佳英
●水圏:生命体の象徴──海、川、池
アート:杉本博司、チームラボ、池田剛介、杏橋幹彦
建築:原口啓+三木慶悟、柳原照弘、永山祐子

●気圏:天地創造と精神の象徴──大気、宇宙
アート:森万里子、青山悟、マーティン・クリード
建築:隈研吾、デヴィッド・アジャイ
http://www.dojimariver.com

 

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