ももいろクローバーZ 『バトル アンド ロマンス』
強烈なパフォーマンスとクォリティーの高い楽曲群でジワジワと話題を集め、いよいよ大爆発寸前の5人組が、ついに初めてのアルバムを完成させた。いまこそ週末の奇跡を、終わりなき革命の瞬間を、Z伝説を目撃せよ!
ついにファースト・アルバム『バトル アンド ロマンス』をリリースすることになったももいろクローバーZは、いまから3年前、2008年5月に結成されたアイドル・グループだ。たしかに百田夏菜子(赤)、玉井詩織(黄)、佐々木彩夏(桃)、有安杏果(緑)、高城れに(紫)と各メンバーにイメージカラーの決められた5人組は、一目見ると〈いまどきのアイドル〉のようにも見える。しかしたぶん、〈アイドル〉という言葉だけでは、彼女たちの正確な姿をあなたに伝えられないと思う。
〈アイドル〉からの逸脱
ももクロは、結成当初から路上パフォーマンスや全国40か所近いツアーなどを積極的に行い、いわばライヴ・パフォーマンスを活動の軸にしてきた。その点では〈いま、会えるアイドル〉をキャッチフレーズにしながらも、ライヴ経験を積むごとに成長し、よりファン層を拡大していく実力主義のインディーズ・バンドなどに近いものがある。
そのライヴの内容も、やはり普通のアイドルとは一線を画している。彼女たちはひたすらハイテンションかつアッパーな楽曲の上で、体力の続く限りハードなダンスを踊り続けるのだ。しかも7曲連続で踊るとか、2時間の公演を1日に3回行うとか、そのステージはあまりにも過酷なものが多く、最年長でもわずか18歳の女の子がそれに挑むというのだ。リーダー・百田夏菜子の〈えびぞりジャンプ〉に代表されるアクロバティックな要素もふんだんに盛り込んだ衝撃的なパフォーマンスはまさに観る者を圧倒する。誰かが限界を迎えて倒れてしまってもおかしくない、とんでもないステージを彼女たちは毎日のように行っているのだ。いかにもアイドル然とした衣装も、ライブ終了後には汗でどろどろになっている。メンバーは生傷が絶えず、歯が欠けてしまったこともあるそうだ。
そうやってグループは、〈アイドル〉という言葉に僕らが抱くイメージから少しずつズレてみせようとする。メンバーに〈みんなの妹〉〈感電少女〉などのコミカルなキャッチフレーズが付けられていたり、振り付けにヒゲダンスや武藤敬司の〈プロレスLOVE〉ポーズが採り入れられるような仕掛けの数々も、そういう〈いわゆるアイドル〉からの逸脱のためにあると言っていい。
ネガティヴをポジティヴに
だがももクロの最大の魅力は、それを本気でやりきってしまうひたむきさだ。彼女たちはレパートリーである“全力少女”の曲名通りに、すべてに対して全力で取り組む自分たちの姿をさらすことで、人々に前向きな力、先に進む勇気を与えようとする。例えば今年4月にはサブリーダーだった早見あかりが脱退したばかりだが、彼女たちはその逆境すら受け入れて〈ももいろクローバー〉から〈ももいろクローバーZ〉へと改名した。通常ならメンバーの脱退はこの種のグループにとってネガティヴな要素でしかないだろうが、ももクロはそれすらも糧にして強く成長する姿を見せつけるのだ。
『バトル アンド ロマンス』は、ライヴ・パフォーマンスが主戦場だったももクロが初めて挑戦するアルバムになる。むろん過去に発売されたシングルのセールスは好調だったが、ヴォリュームのあるアルバム作品によってリスナーに評価を問うのは彼女たちにとってこれまでとまったく違った経験となるだろう。
だが結論を先に言わせてもらえば、ももクロは思った以上にアルバム・アーティストとして高い水準にあると言っていい。楽曲は特撮ヒーロー作品の主題歌を模した“Z伝説~終わりなき革命~”やオリコン3位を獲得した“行くぜっ! 怪盗少女”のように、やはり恋愛を歌う平凡なアイドル・ポップスとは違ったものが多い。プロデュース陣でまず目立っているのは前山田健一だろう。ヒャダインの名でニコニコ動画でブレイクした彼は、コミカルかつアッパー、カオティックかつどこか切ないももクロの世界をシングル曲で広げ続けており、アルバム内でもその才覚を遺憾なく発揮している。他の楽曲提供者としては“ピンキージョーンズ”“天手力男”のNARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS)もトライバルでケレン味のある音作りで耳を引く。さらに早見あかりの脱退までにリリースされていた楽曲はももクロZの編成で新たに録音されており、従来からのファンにはそれも楽しみの一つとなるだろう。
前進と成長
しかし、やはりこのアルバムで最大の魅力となるのは、5人がそれらの楽曲を全力で熱唱し、限界を越えて成長していく自分たちや、ひたむきな努力をその裏側に響かせてくれることだろう。そこにはメンバーごとにキャラの立ったヴォーカルや歌い回しなども含めて、間違いなくこれまでのパフォーマンス活動のなかで培われた強烈な個性が開花していると言っていい。そしてそれ以上に重要なのは、そもそも〈前進と成長〉というテーマ自体が、ももクロが活動を続けるなかで自分たちの個性として見い出していったものだということだ。だからこそ、このアルバムは全体としてポジティヴな成長のイメージに貫かれたトータル・アルバムとして成り立っており、同時にそのことが彼女たちにさらなる前進を促すという形で結実している。
つまり、これはいわばここまでのももクロの集大成であり、そして次のステップへと進むための道標となっているのだ。ファースト・アルバムを完成させたいま、彼女たちは先行シングル曲でもあった“D'の純情”で〈一緒に行こう/さあ会いに来てよ〉と歌うように、僕たちと共にさらなる先へと進むことを望んでいる。僕たちは、ももいろクローバーZといっしょに、いまだにまっさらな未来へと向かうことができるのだ。
▼『バトル アンド ロマンス』からの先行ワンコイン・シングル。
左から、“Z伝説 ~終わりなき革命~”“D'の純情”(共にスターチャイルド)
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