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デビュー20周年となる今年、心機一転してカタカナ表記を〈オリジナル・ラヴ〉から〈オリジナル・ラブ〉に変えた田島は、さらに新たな世界観を見せる約5年ぶりのアルバム『白熱』を完成させた。なんとこの新作は、曲作りはもちろん、楽器の演奏、ミックス、マスタリングというアルバム制作のすべてを田島ひとりで行った作品なのだ。
「20年間、音楽制作を続けてくなかで、レコーディング(の仕方)は大きく変わりました。昔はデカいスタジオで大人数で録るってところから、プロトゥールズで個人のスタジオで少人数で作る形が一般的になって、音楽自体もコンピューターのなかで作り上げちゃう時代になった。音楽を取り巻く状況も変わって、アルバムというフォーマットの存在感もだんだん薄くなってきた。そんななかで、ここは一度、ひとりで全部を作ってみようかと思ったのがこのアルバムの始まりだったんです」。
では、PC上でソフトシンセなどを使い、音楽を作り上げてしまったのかというと「まったくの逆」だという。その感じがまた彼らしい。
「みんながやってる、いいフレーズを切って貼ってってやり方は音楽自体がつまらなくなる感じがして、それは一切やらないって決めたんです。曲の頭から最後まで楽器をずーっと演奏する、それができるまで練習するっていう、昔ながらの生演奏の良さっていうのやったんですよ(笑)。なので、いちばん時間かけたのが楽器の練習(笑)。キーボードを頭から最後まで弾けるまで何時間もかかったりね」。
他の人の手が加わっているとすれば、長い付き合いでありながら“カミングスーン”で初のフィーチャリング参加となったスチャダラパーのみ。まさに新作は、カセットテープのMTRでやっていたピンポン録音をハードディスクに置き換えたような「いまのテクノロジーを使いつつ、やってることは超アナログ」な手法で作られた、究極のひとりセッション作品だ。そこで鳴るサウンドからは、50~60年代のポップスや70年代のフィリー・ソウルのテイストが。
「やっぱり、フィル・スペクターとかその頃の音楽って、いまのロックとかポップスの基本になってると思うんです。ただ、いまっていろんな音楽が広がりすぎて、細かく別々に散っていて、よくわからなくなってるとこがある。もちろんジェイムズ・ブレイクとかパーソナルなデジタル・ミュージックの良さもわかる。でも、僕がいま『白熱』で皆さんに提案したいのは〈ポップスとアートの境界〉にある〈新しいオールディーズ〉なんです」。
音数の少なさは、瑞々しいメロディーを引き立たせ、その上で歌われる歌詞は、ここ数年田島がハマっているバイクを通じて感じた、前向きな言葉が並んでいる。
「〈バイク〉って曲を書きたいと思ったんだけど、免許がないしイメージが湧かないから教習所に通って、そこからどっぷりハマっちゃったんですよ(笑)。そしたら全体がバイクのアルバムになっちゃった(笑)。それがきっかけだけど、バイクっていう20世紀のアメリカの〈自由〉を象徴するような乗り物を、歌詞を書くためのツールとして使ったんです。走れば風を感じられるし、山の緑の色や遠くの海が見えたり、旅先で知らない人と出会ったりとかね。そうした体験は、普段のルーティーンの生活のなかではなかなか得られないものばかり。それが歌詞の広がりにも繋がりましたね」。
歌詞や歌に関してさらに言えば、フラットな目線で語りかけるような優しさがある。それはやはり「震災の影響がある」と言う。
「いまこうした状況で、強い情念を語ったり暗い歌を作っても、誰も聴きたくないだろうなって。僕自身もそう感じたし。いい気分に戻っていけるような、チャリでウイリーしたくなるような歌詞を今回は書きたかったんです」。
田島貴男が、長きに渡るオリジナル・ラブの活動で表現してきた〈ポップとアートの境界線の音楽〉は、新作でも息づいていた。バイクで自由に走り続けるように、彼はまさしくオリジナルな愛に溢れた音楽の旅をこれからも続けていくことだろう。
「僕がやってきたことって、みんながおもしろがれる気分になればいいなってことなんですよね。それは今後もやっていくし、これからもみんなでいっしょに〈白熱〉しようってことですね(笑)」。