BOOKER T. JONES――EVERGREEN ONIONS
ブッカーT・ジョーンズの新たなる旅路
ヴェテラン・アクトにナチュラルで質の高い晴れ舞台を用意しているアンタイ。メンフィス・ソウルを作り上げてきたオリジネイターのひとり、ブッカーTもドライヴ・バイ・トラッカーズを従えた2008年の前作『Potato Hole』でその流れに乗ったわけだが、3年ぶりのニュー・アルバムとなる『The Road From Memphis』は本当にそれどころじゃない。ヤバい。彼の長いキャリア上で見てみても疑いなく最高傑作だろうし、今回の参謀を務めるクェストラヴ(ルーツ)にとっても指折りの仕事となるだろう。ブッカー本人は「これは私のメンフィスから始まり、メンフィスに戻る旅なんだ。自分のルーツであるメンフィスに立ち返ってみたかった」と説明する。
「でも、レコーディングはNYのスタジオで行った。このアルバムを録音したきっかけは、2008年に(ルーツがゲストのバック演奏を務める)ジミー・ファロンの番組〈Late Night With Jimmy Fallon〉でルーツとジャムったことなんだ。その時の演奏があまりにうまくいったもんだから、彼らに〈いっしょに何かやらないか?〉と持ちかけたのさ。そんな感じで1週間いっしょに演奏して、それがまた1週間伸びて……とにかくお互いのプレイが実にマッチした。彼らは物凄く良いミュージシャンだしね。そんな感じで去年の2~3月にやっといっしょにスタジオ入りできたんだ。彼らはそのTV番組に毎晩出演しなくちゃいけないから、NYを長期間離れられなくてね。でも結果的に、NYで素晴らしいミュージシャンを迎えて、メンフィスから始まった自分の音楽の旅をレプリゼントするアルバムが出来たと思っている。メンフィスから始まった私たちの音楽が、後の若い世代にも影響を与えることになったしね」。
ブッカーはクェストラヴについて、「まるでわたしの昔のドラマー、MG'sのアル・ジャクソンJrみたいだよ」と最大級の賛辞を送ってもいて、相当にお気に入りなのだろう。そんなクェストラヴとヴェテラン・アーティストのコラボレートと言えばアル・グリーンの素晴らしい『Lay It Down』(2008年)も思い出されるが、今回のチームは新しい世代をより意識して制作に取り組んでいるようだ。重鎮のブッカーにそのことを改めて意識させたのは、かつてのMG'sが冒険心を持ってスタックス流儀からの脱却を図った、まさにNY録音の名盤『Melting Pot』(71年)だったという。
「当時の私たちは何か違ったことをやってみたくて、『Melting Pot』ではリズムを変えてみたんだ。そうしたらあのレコードが後の世代……ヒップホップ・ジェネレーションに影響を与えることになったのさ。特にルーツはその影響が強くて、“Melting Pot”をサンプルしたビートでラップしていた。彼らは本物の楽器を使う唯一のヒップホップ・バンドで、実に美しいよ。だからこそ私たちは特別な絆を感じたし、私も新しい音楽、新しいリズムを演ってみたくなったんだな。新作には“Rent Party”って曲があるんだけど、まさにフィラデルフィア・ヒップホップって感じの曲で気に入っているよ。ジャジーで楽しくてファンキーでね」。
レコーディングはブッカーT(オルガン/ピアノ)自身を含む7人編成のバンドで行われている。ルーツからはクェストラヴ(ドラムス)とオーウェン・ビドル(ベース)、カーク・ダグラス(ギター)の3名。先日アルバムを発表したばかりのデニス・コフィ(ギター)が駆けつけているのも大きなトピックだろう。先述の『Lay It Down』同様、ダップトーンの首領=ガブリエル・ロス(ダップ・キングスのボスコ・マン)もサウンド構築に貢献し、それ以外にもジム・ジェイムズ(マイ・モーニング・ジャケット)やマット・バーニンガー(ナショナル)、ルー・リード(!)、そしてシャロン・ジョーンズといった強力なヴォーカリストたちが参加している。訊くまでもなくブッカーはシャロンの歌に惚れ込んだようで……。
「ブルックリンの公園でのコンサートで、ブッカーT&MG'sでシャロンとジャム・セッションする機会があったんだけど、彼女がステージに上がって歌いだした瞬間、もうみんなヤラれちまったね。彼女にはとてつもないスキルがあるし、ずっと前にMG'sと共演してたっておかしくなかった。彼女はそういうタイプのシンガーさ。スタックスで音楽を作っていてもおかしくなかったってことさ。素晴らしい人だよ」。
他にも本人の選曲でナールズ・バークレー“Crazy”やローリン・ヒル“Everything Is Everything”のカヴァーも収録。「私は今年で67歳になる。この年齢でいまも音楽的にプログレスできることを本当に幸福に感じているよ」と語る彼の、不滅のグルーヴをぜひ堪能してほしい。
▼関連盤を紹介。
左から、ブッカーTの2009年作『Potato Hole』(Anti-)、ブッカーT&ザ・MG'sの71年作『Melting Pot』(Stax)、同77年作『Universal Language』(Asylum/Wounded Bird)、ルーツの2010年作『How I Got Over』(Def Jam)、アル・グリーンの2008年作『Lay It Down』(Blue Note)、ルー・リードのベスト盤『The Best Of Lou Reed』(RCA)、ナショナルの2010年作『High Violet』(4AD)