レトロ・ソウルは流行なのか?
それまでそういう人がいなかったわけではないものの、そうした音を大きなフィールドで流行のモードとして提示したという意味で、オールド・ソウルを模倣したレトロ・ヴィンテージなサウンドの流行がエイミー・ワインハウスから始まったのはあきらかだろう。こちらの掲載盤や時代背景もうっすら繋がっているのでチェックしていただきたいが、エイミーやマーク・ロンソン周辺からサウンド面の流行がダフィやアデル、ケイ ト・ナッシュのようなUKポップ全般に波及し、その流れが作用する形でソランジュやジャック・スプラッシュらUSのR&B方面にもフィードバックされてきたのだと言える。
もちろん一口にレトロ・ソウルと括っても、その中味は多様だ。いわゆる60sマナーのなかにはノーザンもサザンも混在するし、ガールズ・グループものやフレンチ・ポップのノリを経由して、そこはかとない同時代性を感じさせる例も多い。UKではラッパーのプラ ンBまでもがヴィンテージな歌うモードに突入して驚かせてくれる一方、R・ケリーは50~70sの流儀を自在に行き交いながら格の違う〈本場〉からの回答を提示したし、昔からモータウン愛を見せていたフィル・コリンズが趣味を全開にしてきたようなケースもある。このような状況を受けて思うのは、いまやレトロな意匠や雰囲気作りもモダンな選択肢のひとつとして完全に定着したということだ。それゆえにラファエルの繰り広げた感性の旅がより野心的なものに思えるのではないか。
▼関連盤を紹介。
左から、ジェイミー・リデルの2008年作『Jim』(Warp)、ソランジュの2008年作『Sol-Angel & The Hadley St Dreams』(Geffen)、アネット・ルイザンの2009年作『Teilzeithippie』(Sony Germany)、メラニー・フィオナの2009年作『The Bridge』(SRC/Universal)、プランBの2010年作『The Defamation Of Strickland Banks』(679)、R・ケリーの2010年作『Love Letter』(Jive)