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特集

JENNIFER LOPEZ

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2011年05月18日 17:59

更新: 2011年05月23日 19:02

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

文/村上ひさし

 

ジェニファー・ロペスと聞いて何を思い浮かべるだろうか。シンガーでダンサー、女優としても成功。J.Loの愛称で親しまれるダウン・トゥ・アースな人柄の一方で、イヴェントにチラッと顔を出すだけで数十ページに渡る要求リストを突きつけてくる究極ディーヴァ。誰もが羨むカーヴィーな美尻。2000年のグラミー授賞式で彼女が纏って世界を仰天させた、あのキワドいヴェルサーチのグリーンのドレス……。

いまやパフューム――その名も〈Glow(=輝き)〉――からクロージング・ライン、映像プロダクションまでを抱えるエンタープライズを築き上げ、エンタメ界の頂点で燦然と輝き続けるJ.Lo帝国。しかも彼女ほど〈ジェニファー・ロペスというブランド〉を熟知している人は他にいない。そのブランド力、ブランドとしての魅力、ブランドのめざす方向性から使命に至るまで、あらゆる局面において常に一貫しており、まったくブレることがない。それこそ誰が歌ってもジェネリックにしか聴こえないだろうなという曲でさえ、彼女が歌えば、すぐさまそこにJ.Loの魔力が振り掛けられ、甘美でゴージャスな世界観が出現する。例えるならば幾多のトラブルを引き起こしながらも皆から愛され続けるファッション・モデル、ケイト・モスにも似た稀少な存在だろうか。

そして決して忘れてはならないのが、そのブランドの中央に鎮座している〈LOVE〉だ。私生活はもちろんのこと、表現活動の軸となり原動力となり、彼女を燃え立たせてきたのが〈LOVE〉である。それを抜きにしてジェニファー・ロペスは語れない。その事実をみずから肯定するかのように、ニュー・アルバムのタイトルは『Love?』ときた。いまやマーク・アンソニーと幸せな結婚生活を営み、母親にもなった彼女。「確かにこれまでの恋愛は波瀾万丈だったけれど、いまではとても穏やかで幸せよ」と胸の内を語っているが、波瀾万丈な恋をしてきたからこそ、こうして輝き続け、ここまで昇り詰めてこられたに違いない。

 

 

苦労人としてのキャリア

実は意外と遅咲きだったJ.Lo。69年生まれの彼女は、10代半ばからショウビズ界をめざして歌やダンスのレッスンに励み、オーディションを重ねてはいたものの、映画「セレナ」(97年)で主役を射止めたのは28歳の時だった。それまでにもTVシリーズ「In Living Color」でダンサーを務めたり、ジャネット・ジャクソン“That's The Way Love Goes”のPVで踊っていたりもしたけれど、もちろんそれらは有名になってから後付けで語られるようになったものだ。

ところが、「セレナ」で急逝した人気ラテン系シンガーの役を演じるやいなや事態は一変する。セレーナ本人の人気に追うところも確かにあったが、とにかくジェニファーの演技力や存在感が圧倒的だったのだ。セレーナがまるで蘇ったかのようにスクリーン上で元気に歌い、舞い踊る姿を観て、誰もがジェニファーと恋に落ちてしまった。日本ではほとんどスルーされているこの映画だが、音楽ファンにとっても観応えのある内容だ。結果的に彼女はゴールデングローブ賞の最優秀主演女優(ミュージカル・コメディー部門)にノミネートされている。

こうしてスターが誕生した。ちなみにこの頃の彼女の恋人はマイアミのレストランで働くウェイターで、97年には結婚に漕ぎ着けているが、1年も経たないうちに破局。いまだにこの元夫からは、暴露本を出すだの秘蔵映像があるだのと付きまとわれ、訴訟にも発展している。彼女の男運の悪さゆえか、もしくは単なる有名税というやつか。

 

 

30代に差し掛かった99年、彼女はロドニー・ジャーキンスのプロデュースによる“If You Had My Love”で鮮烈にシンガーとしてデビュー。生まれ育ったブロンクスからマンハッタンへと乗り入れる地下鉄の6番線に思いを託して、ファースト・アルバムは『On The 6』と題された。ラティーノをはじめ、有色人種が多く住むブロンクス出身であることを前面に掲げ、ラテン音楽とR&Bの融合によるダンス・ミュージックを鳴らした彼女は、音楽界でも一気に成功を収めてしまう。同時期に世界進出を果たしたリッキー・マーティン、エンリケ・イグレシアス、シャキーラらと共に、いわゆる〈ラテン・ブーム〉を巻き起こした中核のひとりだと言える。

この成功には当時所属していたソニーの社長、トミー・モトーラからの寵愛も大きく作用していた。元モトーラ夫人のマライア・キャリーとは、その頃から反りが合わなかったと言われているのも頷けよう。アルバムには現在の旦那であり、当時も短期間交際していたマーク・アンソニーとのデュエット曲が収録されている。しかし、ゴシップ誌で大々的に取り上げられたのは、プロデューサー/ラッパーのショーン“パフィ”コムズ(現ディディ)との熱愛のほうだった。富と成功、名声を手に入れたふたりは、いまで言うところのビヨンセ&ジェイ・Zを思わせるビッグ・カップルとしてもてはやされたものだ。ちょっぴり危険な匂いも魅惑的だったし、ミレニアム前夜のムードにもマッチ。とにかく派手に立ち回ってはゴージャスな話題を振りまき、〈LOVEに生きる情熱的な女=J.Lo〉というイメージが定着したのもこの頃だった。しかし、キナ臭い噂の絶えなかった当時のディディとの関係は、NYのナイトクラブを舞台にした発砲事件に巻き込まれたのを機に、一気に終息を迎えている。

 

恋から恋へ

富と名声を追い求める成り上がり女性――そんなイメージも完全には否定しきれないけれど、彼女は金持ち男性を狙ったゴールド・ディガーなのではない。そう証明する事件が起こったのは2001年のことだ。セカンド・アルバム『J.Lo』の先行シングル“Love Don't Cost A Thing”のPV撮影現場でほとんど無名のバックダンサー、クリス・ジャッドと出会った彼女は、電撃結婚を遂げてしまったのだ。この晴天の霹靂にはゴシップ誌もビックリ。暴走か?とも囁かれたが、本業での成功のスケールはそれを上回っていた。そのアルバム『J.Lo』と主演映画「ウェディング・プランナー」(マシュー・マコノヒー共演)が2001年1月、同時に全米No.1を獲得。これは音楽と映画という2媒体による前代未聞の偉業となった。同じ頃、海を渡ったUKではシングルが初のNo.1をゲット。さらに翌年リリースされたリミックス企画盤『J To Tha L–O!: The Remixes』までもが、あっさり全米No.1を仕留めてしまう。当時の絶好調ぶりからは彼女の高笑いが聞こえてくるかのようだった。

一方で、クリス・ジャッドとの結婚生活は1年足らずで破局。原因となったのは俳優のベン・アフレックとの熱愛である。そう、悪名高いカップル〈ベニファー〉の誕生だ。アルバムごとに新しい男性を紹介するのがお決まりになりつつあった彼女は、3作目『This Is Me... Then』の先行シングル“Jenny From The Block”のPVにベンを登場させ、私生活を追いかけるパパラッチを皮肉った。アルバムには“Dear Ben”などという、いまでは絶対歌ってくれそうにないスロウ・ジャムまで収録。消したいタトゥー状態というやつだろう。ご存知のようにふたりの恋愛はマスコミを巻き込んでの大騒動へと発展していき、連日のように報道される〈ベニファー動向〉に世の中は振り回される。ところが挙式の直前に、しかも当日の数時間前にドタキャンだ。そりゃ、ふたりの共演映画「ジーリ」だって大コケしないわけがない。パパラッチを翻弄しながら上手く利用しようというマスコミ操縦術の下心が見え見えで、世間の反感を買ってしまった結果がこれだった。

とはいえ、恋多き女ジェニファーのこと、こんなくらいじゃへこたれない。ベンと別れた2か月後には妻子持ちのマーク・アンソニーと早くも交際をスタート。4枚目のアルバム『Rebirth』の先行シングル“Get Right”のPVでは、流石にマーク本人の出演はなかったものの、彼の娘が少し顔を出している。アルバムにはマークのプロデュースによる共作曲も収録された。やがて彼の離婚が決定すると、その数日後、ふたりは比較的ひっそりと挙式。当初は略奪愛とも囁かれたが、それから現在に至るまでの夫妻の幸せぶりはご存知の通りだろう。双子の男女をもうけ、合同ツアーを行ない、映画「エル・カンタンテ 熱情のサルサ」では共演を果たし、妻が初挑戦したスペイン語アルバム『Como Ama Una Mujer』も夫のプロデュース。最近では南米を舞台に新たな才能を発掘するリアリティーTV番組の制作に夫婦で乗り出す、とも言われている。

常に波瀾万丈な男性遍歴と共に歩んできた彼女。だが同時に、変わらないのはラテン音楽へのこだわりだ。デビュー以来、彼女は自分のルーツであるラテン・ミュージックから一度たりとも距離を置こうとしたことはない。また彼女の音楽性の立役者であるコリー・ルーニーとはデビューから5作目『Brave』まで一貫して密な関係を築いてきた。少々意外かもしれないが、そのあたりの義理固さには恐れ入る。

今年に入ってからは人気TV番組「アメリカン・アイドル」の審査員としてスティーヴン・タイラーと同じテーブルに着き、視聴率に貢献しているジェニファー。好感度も相当アップしているうえ、People誌からはいまさらながら〈世界でもっとも美しい女性〉に選ばれ、急激にセレブ度と付加価値を上げている。そんな絶好のタイミングで登場した新作『Love?』は、アイランドと契約しての心機一転作。ラテン・フレイヴァーのR&Bという基本軸に大きく異変はないが(ピットブルとの先行シングル“On The Floor”での“Lambada”使いがジャックポット!)、レッドワンやレディ・ガガ、リル・ウェイン、タイオ・クルーズら旬の立役者を大挙して搭載するなど、移籍第1弾だけにバックアップ体制も万全だ。唯一気になるのが、夫マークの影が見当たらないことくらい。〈妻の作品だから、俺は引っ込んでおこう〉というわけか? もちろんアルバムの主題は〈LOVE〉である。安住の地を見い出したはずの彼女なのに、タイトルに〈?〉が付いているのはどうしてなのか。〈LOVE〉とは何ぞや? この永遠の命題にいまなお彼女は取り組んでいる……。

 

▼ジェニファー・ロペスのDVD。

左から、PVなどを集めた「Feelin' So Good」、ライヴを収めた「Let's Get Loud」(共にソニー)

 

▼『Love?』参加メンツの作品を一部紹介。

左から、ピットブルの2010年作『Armando』(Mr.305/Sony Latin)、レディ・ガガのニュー・アルバム『Born This Way』(KonLive/Streamline/Interscope)、リル・ウェインの2010年作『I Am Not A Human Being』(Young Money/Cash Money/Universal)

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