こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2011年05月11日 18:00

ソース: bounce 331号 (2011年4月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫

 

フレッシュでカッコ良ければ、それでいいんだ!

 

第一印象と言うのは忘れ難いもので、“こどものうた”“駱駝”あたりで高橋優を知った人は目をひん剥いてガナる怒り顔が浮かぶだろうし、“ほんとのきもち”“福笑い”から入った人は、優しく手を差し伸べるような笑顔が浮かぶだろう。それは裏を返せば、高橋優がそれだけ豊かな表情を持つソングライターであることの証明でもある。その豊かさをすべてさらけ出した等身大の作品が、高橋優のメジャー・ファースト・アルバム『リアルタイム・シンガーソングライター』だ。

「今回のアルバムは全部が推し曲で、この曲で高橋優を知ってもらおうという曲が11曲入ってるんですよ。いまの自分がカラッポになるぐらいすべてを詰め込んだと思います。たぶん今回初めて聴いてくださる人が、いままで知ってて聴いてきてくれた方と同じぐらいいると思うんですよね。そこで自分の人間性を、いつも怒ってるわけでもなければいつも笑ってるわけでもないという、どっちもこの11曲のなかに盛り込めたんじゃないかなと思ってます」。

高橋優の優れた個性は、いまの時代を生きるシンガー・ソングライターとして個人的な感性をズバリと主張しつつ、伝統的なフォーク・シンガーのように聴き手と共有できる普遍的な物語を作る力に長けているところだ。物語の主人公である一人の少年は、大人になってゆく過程のなかでさまざまなものを見、時に敵と味方が入れ替わり、善悪がひっくり返り、すべての物事が変化してゆくなかで必死に自分の存在を確かめようとしている。1曲目“終焉のディープキス”からラスト“少年であれ”に至るすべての曲で、さまざまな揺れや変化を肯定しながら前に進む少年の息遣いを間近に感じ取ることができる。

「自分のなかで気持ちのチャンネルみたいなものがあるんですよ。例えば〈大人〉と呼ばれる人たちにも何かしらの苦労があって、〈子供〉と呼ばれる子たちが犯してる罪もあるじゃないかとか、そういう考え方にしたいと思いつつも、〈いや、そうじゃない。こっちは純粋なのにあいつらには悪意がある〉と思うときもある。最後の“少年であれ”でも歌ってるんですけど、それは自分の都合のいいように考えていいと思うんですよ。時にはわざと敵を作ることで自分が安らいだり、友達と分かち合える感情があるなら、それはそれで悪いことではないと思うんで。僕の曲を聴いてくれる人たちが、少しでも気を楽に持って生きてくれたらいいなという願いがあって、アルバムのなかでもいろんなパターンでそういうことを歌ってる気もします」。

サウンド・プロデューサーの浅田信一も、高橋優の強烈な個性を活かしたままでより聴きやすく仕上げるという、難しい仕事を上手くやってのけた。基本はアコースティック・ギターによる弾き語り+バンド・サウンド、そこに叙情的な響きのピアノでアクセントを付けるというシンプルなスタイルが、時に強いトゲを持つ言葉と見事に調和している。

「詞が説教臭く聴こえたら、僕としては失敗なんですね。ズシッとくる歌詞があっても、それを強調するというよりは、あえてライトにバンド・サウンドで調和の取れた曲にしたいということは、どの曲でも心掛けました」。

2011年4月という時期に高橋優のファースト・アルバムが出ることは、偶然ではあるが、時代がこの歌を求めているという必然かもしれないとも思う。果たして、歌には人の心を癒したり助けたりする力が本当にあるのだろうか。そんな問いかけに、彼は明確に答える。

「僕は歌にそれがあると思ったからやってきたし、自分が曲を作ることやライヴをする意味は、始めた頃からずっと考えてきたことのような気がするんですよ。僕はいままでも人の闇や悲しみを歌いながら、自分が照らすことのできる闇があるという気持ちがずっとあって、明かりがあるからみんないっしょにそこに集まって楽しい気持ちになりたいという、それはどんな状況になろうと変わらないです。すべて電気が遮断されても、僕はギターと声さえあれば歌えるので。これからも、僕が照らすことのできる闇を見つけていくだけだと思ってます」。

 

▼高橋優の作品を紹介。

2009年作『僕らの平成ロックンロール』(AITSURA)

インタビュー