人間として音楽人として、著しく成長していく男
穏やかでいて情感豊かな歌声をアコースティック・ギターの麗らかな調べに乗せ、清竜人がシングル“Morning Sun”で颯爽とデビューしたのが2009年春。当時19歳だった少年は、生まれ育った大阪を離れ、東京での暮らしのなかであらゆる経験を積みながら大人になり、以後作品を重ねてきた。同月のファースト・アルバム『PHILOSOPHY』で話を訊いたときは、まだ恐る恐るコミュニケーションを図っていた印象もあったが、昨年2月に発表したセカンド・アルバム『WORLD』では、ちょっとばかり逞しく熱っぽい姿をそのサウンドからも感じさせた彼。そして、東京とロンドンでレコーディングされ、このたび届けられたニュー・アルバム『PEOPLE』では、ニューオーリンズ風情の賑やかなナンバーでDr.kyOnも参加している“ぼくらはつながってるんだな”を冒頭に、子どもたちの元気なコーラスをフィーチャーした“がきんちょのうた”や、宮川弾の愉快なホーン・アレンジをバックに女子中学生シンガーのメロディー・チューバックと微笑ましく掛け合う“おとなとこどものチャララ・ララ”などかるくセンセーショナルなサウンドを聴かせながら、愛について、人生について、喜びや悲しみについて、これまでになくシンプルかつ力強いメッセージをあちこちから放っている。デビューから2年余りの間で劇的に変化していった心情を顕著にソングライティングに映しながら、シンガー・ソングライターとして、いち人間として、清竜人はいま、非常に見どころのある男になっている。
──今回の『PEOPLE』を作り終えて、これまでとは違った手応えがあったんじゃないかと思うんですが?
「今回はすごく大衆的なものを作りたいなっていう、なんかこう、コンセプトみたいなものがあって。いわゆるポップな要素だったりとかを意識して作った部分がありましたので、そういった意味ではいままでとはまた違った達成感というか、感触を得てますね」
──ひとつのテーマを設けてアルバムを制作するというのは初めてじゃ?
「そうですね。ファーストの時もセカンドの時も、ある種無我夢中……ってほどでもないですけど、出来上がったものを収録していくっていう感覚が強かったと思います。今回の場合、デビューからしばらく経っていろいろと経験を積んだっていうところもあるし、ある種業界のようなものにもちょっとずつ慣れはじめてきたんで(笑)、そこで得た知恵だとか知識だとかっていうものを、今回は少し詰め込んでみようかなって。いままでは、ほとんど感性だけに頼って作ってきたとは思うんですけど」
──ところで、大衆的なものっていうのはどういうイメージだったんですか?
「これって決め込めないですけど、ちょっとしたBPMだったりとか、アルバム通してのマイナー・コードとメジャー・コードの比率だったりとか、っていうサウンドの構造的なところもありますけど、今回の場合で言えばメッセージがすごくポジティヴなものっていう。いままではマイノリティー・グループみたいなものを意識して作ったりだとか、自分の精神状態とかも決して朗らかだったわけではなかったので、そういうものになっていたような気がするんですけど、今回は制作期間の精神状態だとかもすごく安定していたというか、いままでよりかは断然明るかったし(笑)、社交的だったりとか、自分自身の性格の変化みたいものもあったので、それが如実に、特に歌詞には影響したなとは思います」
──『PHILOSOPHY』で話を訊いたとき、大阪から東京に越してきても意外と変わらない、いつの間にか大阪でやってたときのような感じに……というようなことを言ってましたけど、その後はどうでした?
「そうですねえ、まあ、『PHILOSOPHY』を制作してたのが18、19の頃だったんですけど、すごく頭でっかち……いまもそうだと思うんですけど、いまよりもっと頭でっかちだったし、良くも悪くも閉鎖的だったし、意固地な部分もあったし、若さゆえのっていう部分が多々あったと思うんですけど、20歳を越えて、やっぱり大きな変化はあったような気はしていて。あれからまだ数年しか経ってないですけど、ひとり暮らしをしていて、大阪の実家で暮らしているときよりもひとりの時間が増えたっていうのは大きいですし、やっぱりその、結構いろいろ見つめ直したりする時間があったりして。まわりにいる人たちから見てどうかはわからないですけど、自分からすると性格が別人のようになったぐらい思ったりするんですよ。学生時代は同級生とばかり関係を持っていたのが、仕事をしはじめるとひと回りもふた回りも上の方とも関係していかなくちゃいけなくなるし、そういうことを重ねることで、良くも悪くも影響は受けてるのかなって思います。でもやっぱり、まだ21だし、大学生だと3年の歳で、まだまだ若い部分が結構あるというか、ひと足先に社会人になってたりするんだけども、ピチピチな部分もあるなって思ったりすることもありますね(笑)」
──コミュニケーションが広がったということで、『PEOPLE』というタイトルも、付くべくして付いた感じですね。
「性格が変わってきたとは言うものの、自分の音楽的なメソッドだったりはそこまで大きな変化があったりするわけではないし、そこは陸続きというか、良い意味で不変な部分であるというか。今回のアルバムでは、そこに人間的な変化が加わって、良い化学反応が起きてると思うんですよね」
──デビュー以降、音楽的な感性よりもいち人間としての感性を磨いていった感じでしょうか。
「そのとおりですね。すごくギターを練習したとかピアノを弾き込んだとかってことではなくて、音楽に対して良い意味で頓着のない部分みたいなものはファーストの頃から変わってないかなって思います。これからどうなるかはわからないですけど、今回のサード・アルバムまでは良い意味で変わってない部分と、良い意味で変わった部分の両方を上手く表現できたかなとは思ってる次第で」
──歌詞の部分で言うと、それこそ人格的変化の表れなのかなと思うんですが、疑問を投げかけるようなものや、いままであたりまえだと思っていたことに対していま一度立ち止まって考えてみた、というようなものが多く見受けられますよね。
「5曲目の“おとなとこどものチャララ・ララ”でも歌ってるんですけど、まだ大人じゃないし、でも子供でもないんじゃないかなっていう時期に差し掛かってるからだと思うんです。そういうタイミングって一般的には20代前半だったりするのかも知れないですけど、やっぱり哲学とか価値観だったりとかが良くも悪くも変動していくような時期だったりするので、そのなかですごく……去年はその変動が良い方向に転んだというか、ポジティヴな方向に進んでいったような気がしてて、だからこそ、ジャケットが真っ黄色のアルバムが作れたのかなって」
──短期間の間にここまで成長/進化が活発だと、次はいったいどこに行くんだ?って興味も湧いてきますね。
「いままで、例えば95%を感性で作っていたとすれば、今回は70~80ぐらいに感性を減らして、残りの部分を経験値だとか知識や知恵で埋めたような感覚なんですけど、それで今回は僕的に納得のいくものができた反面、10~20減らしたぶん、押し殺してる部分がなくもないわけで、そのリバウンドみたいなものが次回作以降には出るんじゃないかと。だから、いま以上に好きなようにやってやろうかなって思ってたりもしますね」。
▼清竜人のアルバムを紹介。
左から、2009年作『PHILOSOPHY』、2010年作『WORLD』(すべてEMI Music Japan)