FAR EAST MOVEMENT
Free Wired=何でもアリなんだよ
すでにエッジーなポップ・リスナーたちを魅了しているに違いないファー・イースト・ムーヴメント(以下FM)。LAのコリアタウンで結成されたメンバー全員がアジア系アメリカ人のグループで……という前置きももう必要はないかもしれない。メジャー・デビュー作『Free Wired』から全米No.1に輝いた“Like A G6”に続き、ライアン・テダーをフィーチャーした“Rocketeer”もTOP10内に叩き込み、世界各地でのライヴも盛況だという彼らは、いまや旧来の人種的/音楽ジャンル的なセグメントを気にしない、新しいミクスチャー音楽としてのポップスを提示しているのだから。そして、以前レディ・ガガの前座として来日経験のある彼らが、そんなタイミングでプロモーションのために再来日を果たした。なお、ケヴ・ニッシュ(MC)いわく「若者のファッションや、いろんな音楽を分け隔てなく楽しむオープンさ、それにタワーレコードのお店があるってこと……それらすべてが俺たちに重要な意味があって、何度でも日本に来たいと思わせてくれるよ」とのこと。はい、ありがとう。
——『Free Wired』が出る前と後で、メンバー同士や周囲の状況は変わりましたか?
プログレス(MC)「特に変わってはいないよ。多くの人がアルバムを聴いてくれたのは嬉しいし、だからこそもっと良い音楽を作らなきゃって思っているよ。まあ、前よりも多少忙しくなったけどね」
ケヴ「下積み時代を振り返る回数が増えたくらいかな。客が5人しかいないクラブでライヴをやった時のこととか……そんな時でもお互いがいたからこそやってこられたんだ。新しいチャンスが与えられるたび、新しい可能性の扉が開かれるたび、いっしょに育った兄弟同然の親友たちと大好きなことをやって自分の夢を生きてるっていう事実を噛み締めずにはいられないよ」
J・スプリフ(MC)「凄く嬉しかったのは、自分たちがファンだった人たちが曲を評価してくれたことだよ。カニエ・ウェストが〈これからG6みたいに飛ぶぜ!〉とツイートしていたり、リアーナもリリー・アレンも“Like A G6”を引き合いに出していた。あと50セントやスリー6マフィア、T・ペインたちがリミックスしてくれたことも嬉しかったな」
——大半の楽曲を手掛けているステレオタイプスとはどうやって出会ったんですか?
プログレス「俺たちが昔インタースコープでインターンをしていた時に、ステレオタイプスのジョン(ジョナサン・イップ)はそこでデスクワークをしていたんだ。それからもずっと連絡を取り合っていて、ある日彼らをロングビーチでやる自分たちのライヴに呼んだ。当時はちょうどエレクトロにオールド・スクールなライムを乗せたり、いろいろ試していた頃でね、彼らがそのショウを凄く気に入ってくれて、〈いまから曲を作ろうぜ〉ってことになった。で、そのままみんなでスタジオ入りして、友達のブルーノ・マーズを呼び出してクレイジーに盛り上がって……気付けば“Girls On A Dance Floor”が出来上がっていたんだ。それ以来、最高のケミストリーが生まれるようになった。音楽観も似てるし、〈Free Wired〉なサウンドを理解してくれる。俺たちがどんなメチャクチャな提案をしても、それをやってのけてくれるからね」
——制作面において、4人は方向性でぶつかったりしない?
ケヴ「俺たちの関係性こそ〈Free Wired〉という表現がピッタリだね。昔の作品では各々でアイデアや自分のヴァースをまとめてからそれを持ち寄ってたんだけど、『Free Wired』ではまったく違うやり方を採った。音楽的アイデアを全部スタジオに持ち込んで、プロデューサーたちに要求をすべて伝えてから全員でいっしょにヴァースを考えて作っていくんだ。だから、言葉一つにしても全員で考え抜いて選んだものなんだ。さらに、ステレオタイプスは素晴らしいし、ブルーノも4曲を共作している。突発的な思いつきを大切にする〈Free Wired〉な姿勢を貫いたからこそ、本当に楽しくアルバムを作れたし、俺たちのライフスタイルを的確に表現できたと思うよ」
——前作『Animal』よりも、もっとボトムがハウスやトランスなどのEDM寄りになっていますね。
ケヴ「音楽ファンとして、アーティストとして、そしてLAのダウンタウンで育った者として、俺たちのライフスタイルを表現したかった。そうするには、〈Free Wired〉なアプローチ、つまり、自分たちがこれまで接してきた多種多様な音楽やカルチャーをマッシュアップするのがいちばんだと思った。それに、ここ数年は海外にも行くようになって、そこで出会った音楽も積極的に採り入れている。だから確かにテクノやダーティー・ダッチ、EDMの要素は多くあるよね。一方で“Rocketeer”は、ヒップホップのビートにエレクトロのシンセを重ね、オルタナっぽいメロディーを付けている曲だ。“So What”はもっとも敬愛するビースティ・ボーイズへのオマージュでもある。そのようにして幅広い影響をすべて見せることがFMを表現するうえで重要だったし、それは今回やっと達成できたと思っている。だから、あえてアルバムをコラボで埋め尽くしたんだ。誰が何を持ち込んでも自分たちのサウンドにできるって示したかったからね。スヌープは俺たちが聴いて育ったクラシックな西海岸ヒップホップの象徴だし、ライアン・テダーはオルタナ・ロックの、ケリ・ヒルソンはポップR&Bの、ロジャー・サンチェスはダンスの象徴だ。同時に参加した全員がこのアルバムでは〈何でもアリ〉を象徴しているんだ」
——クリス・ブラウンの新曲“Beautiful People”がベニー・ベナッシのプロデュースでした。FMは早い段階でベナッシやダフト・パンクをマッシュアップしたり、BEP的な音を先にミックステープで実践していたと思うんですが、世間の動きを先取りしていたという自負はありますか?
ケヴ「クリスといえば、最近ライヴでいっしょになった時、自分のセットに“Like A G6”を入れてステージからFMの名を呼んでくれたんだ。凄く嬉しかったよ。で、FMは昔から実験的だったし、いろいろ試みてはいたよ。幸いにもアムステルダムに行って早い段階でダーティー・ダッチを知ることができた。他にもブラジルに行って現地のダンス・シーンに出会ったりね。そうやってスポンジのように吸収してきただけで、先取りをしているとは思わないな。自分の知らない何かを先にやってる人というのは必ずいるからね。俺たちはただ自分たちが好きだと思ったものを採り入れて、ピンと来たことをやってるだけさ」
▼ファー・イースト・ムーヴメントの作品を紹介。
ファー・イースト・ムーヴメントの2006年作『Folk Music』の日本盤『Round Round』(Catch/avex trax)
▼『Free Wired』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ワンリパブリックの2009年作『Waking Up』(Mosley/Interscope)、ブルーノ・マースの2010年作『Doo-Wops & Hooligans』(Elektra)、モホンビの2011年作『MoveMeant』(2101/Island)、フランクミュージックの2009年作『Complete Me』(Island)、ケリ・ヒルソンの2010年作『No Boys Allowed』(Zone4/Mosley/Interscope)
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