フレッシュでカッコ良ければ、それでいいんだ!
m-floやTERIYAKI BOYZの一員としての活動はもちろん、近年ではDJ活動やジュエリー・ブランドのAMBUSH、多数のクリエイターが所属するエージェンシーのKOZMを主宰するなど、いちミュージシャンとしての枠には収まらない活動を展開しているVERBALだが、そんな彼がある意味〈原点〉であるラップに立ち返り(とはいえ、いわゆるラップ的な表現からかなり離れたアプローチも多数見受けられるが)、完成させた初のソロ・アルバムが『VISIONAIR』。豪華絢爛な海外アーティストが名を連ねるクレジットから、典型的なヒップホップ・サウンドを予想して聴きはじめると確実にその予想を裏切られるであろう刺激的な内容だが、タイトル通り、今作はVERBALにとってのヒップホップ観を目一杯パッケージした、実に彼らしいとんがった作品だと言えるだろう。
突拍子もないものを作ろうと
——初のソロ・アルバムをこのタイミングで制作した理由は?
「TERIYAKI BOYZの制作をやっていた頃、基本的に海外勢とのやり取りは僕がやっていたんですけど、ジャーメイン・デュプリやファレルから〈なんでソロやらないの?〉ってずっと言われてて。海外勢のなかでも特にジャーメインとはよくやり取りしてて、〈じゃあこんな曲でラップ書けるか?〉みたいに、実際に曲を送ってくるようになって。そんなやり取りをしている時に、彼から〈ちなみにいま隣のスタジオにリル・ウェインが来てるんだけど、すごくねぇ?〉ってメールが来て(笑)。訊くのはタダだから〈彼といっしょに曲作れたりするかな?〉って伝えたら彼がウェイン本人に訊いてくれて。そしたら翌日にラップが乗って返ってきて、それが“BLACK OUT”になったんです。〈こんな曲が出来たらもうソロ作るしかないな〉って思ったのがソロ・アルバムを作ることになったきっかけかもしれないですね」
——アルバム・タイトル『VISIONAIR』に込めた意味は?
「僕はいつも自分のラップで〈理想と現実のギャップから生じるフラストレーション〉について歌っているんです。今作を作るにあたっても、〈売れるアルバムを作らなくちゃ〉っていう自分と〈売れなくても何か一石を投じるようなアルバムにしなくちゃ〉っていう自分との葛藤があって。だけど、〈フレッシュでカッコ良ければそれでいいんだ!〉っていう考えが最終的に出てきて。ポップか否かとか、リアルかフェイクかとか、そういう判断ができないくらい突拍子のないものを作ろう、って思うようになったんです。僕が見てる〈ヴィジョン〉があるうえで現実がこうなら、僕の〈ヴィジョン〉をいま実現することによってもっと(現実を)楽しくしていきたい……そういう思いを込めて『VISIONAIR』っていうタイトルにしました」
自分の普段の動きっぽい音
——最初にアルバムの情報が告知されたとき、やはりいちばん目を惹いたのは豪華な海外勢の参加という点だと思いますけど、起用のポイントは?
「ホントにみんな流れで決まっていった感じで。このアルバムに入ってる人で狙って起用した人は誰もいないですね。リル・ウェインだってたまたまジャーメイン・デュプリの作業している隣のスタジオにいたから実現した話だし。ニッキーも曲を作ったときはまだブレイクする前ですからね。だから、いまの彼女のラップと比べるとちょっと違う感じに聴こえるかもしれないですけど、僕はこの頃のハードな感じのニッキーが好きだから、逆にオイシイかな、って。ジャーメインは、ギャル並みにメル友なんですよ(笑)。普段から〈こんな曲作ったんだけど、日本人が反応するか確かめたいからDJでかけてくれない?〉って音源を送ってくれたり、すごいマメな人なんですよね」
——あまりに豪華な海外勢にどうしても目が行きがちになってしまいますが、制作陣の多くはVERBALさんが主宰するKOZM所属のトラックメイカーですよね。
「実は、海外勢とのトラックだけでもアルバム一枚できるくらい曲数はあったんですけど、いまの僕のフィーリングをいちばん表現してくれたのがKOZMの人たちだったんです。そもそも、僕がカッコ良いと思う人たちだからKOZMで契約したわけですしね。海外のトラックだから良いってわけじゃないですし、僕のそのときの気持ちをいちばんよく引き出してくれる曲っていう基準で選んでいったのが彼らの曲だったんです」
——今作はいわゆるJ-Pop的なサウンドとは距離を置いた、かなり攻めた音楽性になっていると感じました。
「自分のなかで何がフレッシュかという〈フレッシュ・バロメーター〉っていうのがあって、例えばm-floは☆Taku(Takahashi)としかできない音楽だからそれをマネするのはフレッシュじゃないし、TERIYAKI BOYZはあのメンバーでワイワイしてるなかで生まれる空間をそのまま音楽に表していて、それをソロでやるのもフレッシュじゃない。〈対自分〉ってなった時にもっともフレッシュだと感じたのがこの音だったんです。セルフ・カスタムというか、自分の普段の動きっぽい音を作りたかったんです」
▼『VISIONAIR』に参加したアーティストの作品。
左から、リル・ウェインの2010年作『I Am Not Human Being』、ニッキー・ミナージュの2010年作『Pink Friday』(共にYoung Money/Cash Money/Universal)、大沢伸一の2010年作『SO2』(rhythm zone)、スウィズ・ビーツの2007年作『One Man Band Man』(Full Surface/Universal)、安室奈美恵のニュー・アルバム『checkmate!』(avex trax)
▼VERBALがラップやプロデュースで参加した近作を一部紹介。
左から、クルッカーズの2009年作『Tons Of Friends』(Southern Fried)、DJ Deckstreamの2009年作『SOUNDTRACK 2』(Manhattan/LEXINGTON)、BoAの2010年作『IDENTITY』(avex trax)、L-VOKALの2010年作『Lovin'』(MATENRO)、HALCALIの2010年作『TOKYO GROOVE』(エピック)、Dragon Ashの2010年作『MIXTURE』(ビクター)、Soweluの2010年作『Love & I. ~恋愛遍歴~』(rhythm zone)、小室哲哉の2011年作『Digitalian is eating breakfast 2』(avex trax)
