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東京 春 音楽散歩──音楽のある〈場所〉(3)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年03月22日 16:18

更新: 2011年03月22日 17:28

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

text:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

さてもうひとつ、こちらは音楽祭ではないが、やはり音楽のある〈場所〉に注目できるコンサートを紹介したい。わたし自身がかかわっているので、いささか口幅ったいのだが、お許しいただこう。『平河町ミュージックス(略称HMS)』である。

東京メトロでいえば、半蔵門、麹町、永田町の中間地点といったらいいだろうか。オフィスが中心のこの一角にROGOBAという北欧家具とキリムを扱う、ガラス張りの店がある(そう、ROGOBAの設計は、先の国立博物館・平成館を担当した安井建築設計事務所だ)。ここで、半年に3回、コンサートをおこなっている。昨2010年の春からはじめたから、ちょうど1年、1クールを終えたところ。これまでに登場したのは、箏の沢井一恵、ヴァイオリンの漆原啓子、戸島さや野、クラリネットの草刈麻紀、ギターの笹久保伸といった人たち。

もともと音楽演奏を想定していない場所である。おなじ椅子がステージにむかって整然と配置されているのがコンサートだとするなら、これはコンサートではない。そもそもピアノはないし、ステージもない。特別な音響装置もない。かわりにあるのは、高価で、それぞれが異なったデザイン、座り心地の良い椅子である。ふつうなら排除されるべき、視覚的なノイズも満載。建物そのものから敷き詰められたキリム、ガラスをとおしてみえる街路、インテリアとしておかれている大きな木。演奏者も、演奏する楽曲によって、位置を変える。前回は奥で弾いていたのに、今回は入り口のあたり、とか、1曲終わったら、中二階で、姿が見えないのに音がしてくる、とか。

だから、楽音中心主義、近代コンサートホール主義、ノイズ徹底排除主義者にはおすすめできない。外をとおってゆくくるまの音や雨や風の音をも、楽音とともに、空間とともに楽しめるかどうか、だ。そして、終演後、短いあいだではあるけれど、演奏家と話しをすることができるのも、100名強の会場だからこそできる。

大きなコンサートホールで演奏する場合、やはり集客が目的となる。当然、多くのひとが親しめる楽曲でプログラミングされる。だが、演奏家の弾きたいものとはかならずしも一致しない。やりたいものはなかなかやる機会が持てない。HMSでは、演奏家に好きなことをやっていただくのが主旨だ。先にも記したようにピアノもないし、さまざまな制限もある。演奏家自身、ノイズが気になったり、平土間で、お客さんのすぐそばで弾くのはいやだというひともいるだろう。そうした制限のうえで、演奏家自身も楽しんでいただけるひとがコンサートをやっている。あたりまえのことだが、うちあわせの最初にあるのは、ふつうに営業しているROBOBAを訪れていただくこと。場所をおもしろがってくれるかどうかがポイントだ。

2011年春季に予定されているのは、3月にアコーディオンの御喜美江「アコーディオン-この場所の、この空気を、ともに呼吸する楽器と」、4月にパーカッションの稲野珠緒「打つ"うた"、叩く"うた"」、6月にカントゥス「かさなる声、"ガーリー"な声」である。この3回は、それぞれソロではなく、複数の人たちが登場。詳しいプログラムはホームページをご覧いただきたいが、そこには、各コンサートについてのかんたんな方向性も示されている。(註:3/18に予定されていた第7回公演は開催中止)

日本におけるアコーディオンのパイオニア、御喜美江は、柴崎和圭と高橋悠治の新しい《雪、風、ラジオ》(2010)を演奏。タン・ドゥンの作品で、水や紙を世界中で「演奏」している稲野珠緒は、ギターやパーカッション・アンサンブルと、ライヒ、ハリソン、ケージ、高橋悠治といったプログラム。中島ノブユキ、阿部海太郎らによるCFの音楽を担当したり、古い宗教音楽をうたったりする女性コーラス、カントゥスは、手慣れた楽曲いがいに、一ノ瀬響がエミリ・ディキンソンの詩につけた規模の大きな作品をハイライトにもってくる。

すこし先のことで、まだ情報解禁にはなっていないが、11年秋季には、いわゆる「クラシック」にくくられないアーティストも登場を予定。ご注目のほど。

うちでステレオを前にする、歩きながらiPodをつけているのとはおのずと異なってくるコンサート体験。1970年代終わりに発売されたウォークマンから始まった音楽のポータブル化は、音楽を身近にしてくれたかわりに、音楽からはなれていること、ぶらぶらと音楽なしに歩く状態を、ひとによるにしても、「自然」でなくしてしまった、と考えることもできる。他方、いまCDでの売上がさがっていながら、ライヴ/コンサートに行くひとの数は年々増えているともいう。音楽そのもののみならず、そのありようや場所の多様さもみなおされつつあるにちがいない。

東京・春・音楽祭─東京のオペラの森2011─

http://www.tokyo-harusai.com/

平河町ミュージックス

http://sites.google.com/site/hirakawachomusics/

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