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特集

複数形のジャズ史(2)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年02月14日 13:20

更新: 2011年02月14日 18:09

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

text:大谷能生(批評家・音楽家)

そんなナイトクラブのステージが実際にはどのようなものであったのか、ぼくたちはこれまで、それを映画や文献を通してしか想像することが出来なかった訳だ が、なんと、このニューラテンクォーターのステージを記録したオープンリールのテープが47本も残されており、そのライブ記録の抜粋が「ニューラテン クォーター・レーベル」として最近リリースされるに至っていたのだった。いたのだった、というのは、このレーベルはアメリカのプロダクションを通した仕事らしく、今回編集部からその情報を教えてもらうまでこのCDの存在にまったく気が付かなかったからだが、まさしく1963年のパティ・ペイジのステージなどを収めたこの『New Latin Quarter Presents The Jazz & Blues Collection Vol. 1』は、演奏・音質ともに極上のものが揃えられており、このライブ録音と、たとえばコロムビアから出ている『昭和ジャズ大全~幻の名盤・秘蔵盤』をあわせて聴くことによって、これが昭和30年代の第一級の芸能界のサウンドか、と、ぼくたちはまた自身の耳をあらためることが出来るだろう。

ぼくが編集部からこの原稿を書くために貸していただいたCD-Rは、同封されたクレジットより何故か曲が少なく、曲順なども異なっていたので、一曲ずつ立ち止まってこのステージの内容を記述することはまたの機会にしたい。ところで、パティ・ペイジやサッチモが豪奢なステージを展開していたそのちょうど同じ年、銀座のシャンソン喫茶ではギタリスト・高柳昌行とベーシスト金井英人が主宰する「新世紀音楽研究所」による発表会が定期的におこなわれており、その記録は『銀巴里セッション』として現在でも聴くことが出来るのだった。

ドラマー・富樫雅彦の現場復帰と、高柳昌行のシーンからの一時離脱が交錯したこの歴史的演奏の詳細については、その録音者である〈Dr.JAZZ〉こと内田修の『ジャズが若かったころ』(晶文社)などに当られたい。山下洋輔、日野皓正、菊地雅章らの最初期のライブ演奏を記録したこのCDには、『New Latin Quarter Presents The Jazz & Blues Collection Vol. 1』とも『昭和ジャズ大全~幻の名盤・秘蔵盤』とも異なった「ジャズ」が、すでにはっきりと刻み込まれている。それにしても、『銀巴里セッション』のジャケットに映されているミュージシャンたちの写真を見て欲しい。誰も彼もみな若く、熱心で、狭い場所にぎゅうぎゅう詰めで集まり、今から見ればほとんど仮設のようなステージで演奏を行っている。ニューラテンクォーターのステージのきらめくばかりの豪華さが、いわば植民地を統治する側の輝きを反射したものであるとするならば、ここに映されているのは、被占領民に与えられた焼跡の生々しさであり、彼らの強烈な反骨の息吹である。

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