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特集

WHAT'S "MICHAEL"?

 


Remember The Time - Courtesy of MJJ Productions

 

まず、こんなに早くリリースされるとは思っていなかった、というのが正直なところです。11月に登場した初出映像も含むDVD「Michael Jackson's Vision」から1か月と置かず、マイケル・ジャクソンのニュー・アルバム『Michael』がリリースされました。もちろん本人は亡くなっているのでどう思っているのかはわかりませんが、資産の管理者であるジョン・ブランカとジョン・マクレイン(マイケル・ジャクソン・エステート)が主導した公式な作品であることは間違いありません。

 

つまらないこと

作品リリースのニュースが流れると同時に、その是非を問うファンや関係者の声が世界中を飛び交いました。マイケルと録った音源を所有しているウィル・アイ・アムは、〈本人〉の了解なしにその音源を世に出さないことを表明していますし、そのようにマイケルがゴーサインを出していないものを素直には受け入れがたいという意見自体はよく理解できます。

ただ、案の定というかヴォーカルが本当にマイケルのものかどうかという真贋を問う声まで出てきました。これはリリースの是非を問う声とはまったく似て非なるもので、そんな偽物をオフィシャルのレーベルや財団が出す意味があるとは思えませんが、常識で判断しようとせずにグレーなもの(マイケル本人が証言しない限り、グレーは永遠にグレーなのでしょうが)を疑ってみるというのはつまらないことですね。しかし、ジャクソン・ファミリーのなかからもそういう声が出てくるというのが、マイケルを何十年も取り巻いていた歪みを感じさせて少し悲しくなってしまいます。

しかしながら、今回のプロジェクトに関わったテディ・ライリーらはもちろん、旧知の盟友であるブルース・スウェディエンやグレッグ・フィリンゲインズといった人たちは〈疑惑のトラック〉の元の録音を聴いて、それがマイケルの声であることを断言していますし、つまらない話をダラダラ続ける必要はないでしょう。いずれにせよ『Michael』は無事にリリースされたのです。

 

アップデートされた楽曲たち

このアルバムから最初に公表された楽曲は、そうした世間の無責任な声に投げかけるかのような“Breaking News”でした。テディ・ライリーによる少し古めかしい(けれどもテディ×マイケルの組み合わせでは最高に相性の良い)流れるようなニュー・ジャック・スウィング調のビートに乗せて、マイケルはレポーターや記者、メディアに向けて〈マイケル・ジャクソンのことなら何でもいいからネタを探してる〉〈僕の死亡記事を書きたがってる〉と皮肉に歌いかけます。

その“Breaking News”の録音は2007年だそうで、アルバム収録曲それぞれのレコーディング時期はバラバラです。ただ、先ほど〈元の録音〉と書いたように、細かな部分までマイケルがOKを出した状態の完成型のトラックが揃っているわけではなく、ほぼすべての楽曲に何かしらのアップデートが施されているのでしょう。それゆえに、80年代から2000年代の終わり頃まで多岐に渡る録音であっても、予備知識がなければさほどの違和感を抱くこともないでしょう。実際、マイケルは曲を途中まで仕上げにかかっては何年も放置したり、時々ストックから取り出しては歌い直したり、トラックを加工したり、納得がいくまでは時間をいくらかけても延々とスクラップ&ビルドを繰り返していたようなので、〈完成〉がどの状態のものをさすのか、それはマイケルでなければわからない部分であります。

いや、もしかしたらマイケルですらどうなれば自分で納得できるのかがわかっていなかったのかもしれませんし、非常に語弊のある表現をすれば、マイケルが不在だからこそ完成を見た楽曲たちだという言い方もできるかもしれません。正式なファースト・シングル“Hold My Hand”(2008年録音)を手掛けたエイコン&ジョルジオ・トゥインフォートをはじめ、トリッキー・スチュワートやロン・フィームスターなど、現代のR&Bシーンには欠かせない顔ぶれが主役の美声を的確にサポートしています。

その“Hold My Hand”は情熱的で大陸的なストリングスが感動を誘う大曲であり、アルバムでも冒頭を飾っています。それに続くのは、テディによる速めのビートにメロディアスかつスムースなフックが絡んだ“Hollywood Tonight”。まるで往年の“In The Closet”をハードでソリッドにしたようなダンス・トラックです。この路線は50セントをフィーチャーしてよりダイナミックに仕上げられた“Monster”も同様。“Hollywood Tonight”がスターを夢見て誘惑や罠の潜むハリウッドへ向かう女の子を描いたものだとしたら、“Monster”はそこに潜む魔を歌ったような感じでしょうか。

鬼気迫るスリリングさがマイケルの真骨頂なら、優雅な温かみに満ちたソウルも彼の重要な一側面です。多重コーラスが心地良い“(I Like)The Way You Love Me”は一度ボックスセットの『The Ultimate Collection』(2004年)においてデモ・ヴァージョンが公開されていた曲ですが、その後もマイケルがいろいろ試行錯誤していたと思しきお気に入りの曲だったよう。印象的なピアノが加えられたことで、ドゥワップ調のハーモニーに懐かしい風情が生まれ、リッチなメロディーはスモーキー・ロビンソンが書いたテンプテーションズの“My Girl”を想起させます(スモーキーもテンプスも今回のアートワークに描かれていますね)。そんな優しい歌唱は“Best Of Joy”にも顕著。ロン・フィームスターがマイケルの生前から共同作業していたこれらが、どうやら彼の取り組んでいたもっとも新しい楽曲群ということになりそうです。

“Give Into Me”を“Always On The Run”と足したようなレニー・クラヴィッツ作の静動自在なハード・ロックを挿み、終盤はジョン・マクレインが最終ケアした『Thriller』前後の2曲——お蔵入りしていたYMOのカヴァーを「トロン」な雰囲気のフューチャー・ポップに仕立てた“Behind The Mask”と、はかない美しさで満たされたアコースティックな“Much Too Soon”——実にバランス良く練られた全10曲。聴き終わる頃には冒頭でダラダラ書いたようなことが本当に些末に思えてきます。マイケルから何を受け取るのかはあなた次第です。

 

▼2010年にリイシューされたマイケル・ジャクソンの作品。

左から、79年作『Off The Wall』、82年作『Thriller』、87年作『Bad』、91年作『Dangerous』、95年作『HIStory』、2001年作『Invincible』、同名映画のイメージ・アルバム『Michael Jackson: This Is It』(すべてEpic/ソニー)

 

▼2010年にリイシューされたジャクソンズの作品。

左から、76年作『The Jacksons』、77年作『Goin' Places』(共にPhiladelphia International/Epic)、78年作『Destiny』、80年作『Triumph』、81年のライヴ盤『Live』、84年作『Victory』、89年作『2300 Jackson Street』(すべてEpic)

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2011年02月10日 15:22

更新: 2011年02月10日 15:22

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

文/出嶌孝次

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