BEHIND THE SCENE――ゆら帝サウンドを支えた雑食性を紐解く
これまで、さまざまなアーティストのライヴ会場で坂本慎太郎を見かけたことがある。例えば、Ghostのライヴは想像に難くないとしても、ブラジル新世代アーティストであるモレーノ+ドメニコ+カシンの来日公演にもあくまでいちリスナーとしてやってきているのを見かけた時には、彼の音楽指向がいかに貪欲で柔軟であるかを思い知ったものだった。それこそが、あくまで演奏上はロック・バンドのスタイルにこだわりながら、感覚と発想は必ずしもその限りではなかったゆらゆら帝国というバンドの、圧倒的に洗練された音楽的なバックボーンとなっているのだと。
とはいえ、幅広い要素を外にはダイレクトに見せない、言わば〈隠れエクレクティック〉の彼らも、その混淆とした音楽性の根幹はやはりサイケにあると言って良いだろう。13thフロア・エレヴェーターズやシルヴァー・アップルズ、ロッキー・エリクソンといったUS産サイケはもちろん、日本のモップスのようなグループ・サウンズ、交流のあるマリア観音や先述のGhostといった日本勢、あるいは60年代のカエターノ・ヴェローゾやムタンチスあたりまで——それはまるで世界中のサイケ・コレクター的な感覚。もちろん、そこから派生したようなアシッド・フォーク~カンタベリー系も好物で、特にピーター・アイヴァースやロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズあたりの異端系はその詞世界にも影を落としていると言える。
また、ドラマー・柴田一郎のテクニックが高く評価されている〈しびれ〉〈めまい〉以降のミニマルな音作りからはカンやノイ!といったクラウト・ロックの影響が見られるが、彼らはそこに留まらず、自身と同時代に活躍しているUKのフジヤ&ミヤギ、マウンテン・オブ・ワンの作品とも共振するような、現代的な目線を持っていた。さらにはガラージ、ハウス、ディスコ、パンクなどを混在させた80年代初頭のZE周辺、ヘラクレス&ラヴ・アフェアらを送り出しているDFA周辺といったNYアンダーグラウンドのミュータントな感覚も秘めていたように思える。
一方で、ゆらゆら帝国には驚くほど愛らしい曲も多く、例えばママギタァのメンバーや小さな子供にリード・ヴォーカルを取らせたようなポップなナンバーからは、フランス・ギャルやジェーン・バーキンを手掛けたセルジュ・ゲンスブールの仕事が思い出されるほど。マニアックな音楽趣味でありつつも、あくまで大衆的なポップソングメイカーであろうとした坂本の才能の裾野は広かったのだ。
▼文中で登場したアーティストを一部紹介。
左から、Ghostの99年作『Snuffbox Immanence』(Drag City)、13thフロア・エレヴェーターズの66年作『The Psychedelic Sounds Of The 13th Floor Elevators』(International/Charly)、シルヴァー・アップルズの68年作『Silver Apples』(Kapp/Phoenix)、モップスのベスト盤『〈COLEZO!〉ザ・モップスVINTAGE COLLECTION』(ビクター)、カエターノ・ヴェローゾの68年作『Caetano Veloso』(Philips/Polygram)、ピーター・アイヴァースの74年作『Terminal Love』(Warner Bros.)、フジヤ&ミヤギの2008年作『Lightbulbs』(Full Time Hobby)、マウンテン・オブ・ワンの2009年作『Institute Of Joy』(Ten Worlds)、フランス・ギャルのベスト盤『The Best Of France Gall』(Polydor)
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