こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年12月09日 23:11

更新: 2010年12月09日 23:18

ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)

構成・文/高橋芳朗

 

ニッキー・ミナージュはどこから来た?

 

「いまのフィメール・ラッパーの多くは、セックスについて言及しすぎていると思う。私は意識的にセクシャルな表現を抑えようとしているわ。というのも、人生においてセックス・アピールに基づくものなんて何もないってことを若い女の子たちに知ってほしいから。あなたたちに必要とされているのは、もっと他の何かなのよ」——ニッキー・ミナージュが一般的なフィメール・ラッパー像からちょっと距離を置いたところに立っていることは、まずはこのコメントを紹介すれば何となくでも理解してもらえるだろうか。ニッキーはセクシャルな表現に対するスタンスの取り方が実にユニークで、90年代半ばにリル・キムが築き上げたフィメール・ラッパーのパブリック・イメージを刷新しようとしているだけに留まらず、ヒップホップ・アーティストとしては珍しくゲイ・カルチャーにも寛容な姿勢を見せているのがおもしろい。

「世の中はもっとゲイ・フレンドリーになるべきね。もちろん、ヒップホップも含めて。ゲイの男性ラッパーが人気者になるなんていまはまだイメージできないかもしれないけど、きっと近い将来そういう存在が出てくるはずよ」とは、ニッキーの弁だ。

もっとも、ニッキーもシーンに出てきた当初はわりと定型的なフィメール・ラッパーのイメージを纏っていた。そのあたりは『Playtime Is Over』や『Sucka Free』といったミックステープのジャケット、そしてもろにリル・キムを連想させるM字開脚をきめたアーティスト写真など、キャリア初期のヴィジュアルにわかりやすく表れているが、そんな彼女が一気にスワッグを発揮しはじめるのが〈ハラジュク・バービー〉なるペルソナを生み出した昨夏以降のことだ。これを契機にドラッグクイーン風のスタイリングにシフトしてある種マンガ的ともいえるキャラクター・イメージを強調するようになったニッキーは、直後にリリースされたヨー・ゴッティ“5 Star Remi”やヤング・マネー“Bedrock”での好演でその存在感を強烈にアピール。一躍人気アーティストの仲間入りを果たすことになる。こうしてみずからのブランディングに成功した彼女は自身のファンをも〈バービー〉と呼びはじめ、それはやがてニッキーのファッションを真似た女の子たちによる〈バービー・ムーヴメント〉へと発展。この関係性は自分のファンを〈リトル・モンスター〉と名付けてその連帯感を強めていったレディ・ガガのブレイクの過程を彷彿とさせるものがあった。

この〈ハラジュク・バービー〉の由来に関して「原宿のカルチャーが大好き。彼女たちの自由なスピリットや女の子らしい快活さからは私の音楽と共通するものを感じるの」と語るニッキーは、彼女よりもひと足先に原宿にスポットを当てたグウェン・ステファニーからの影響については肯定も否定もしていないが、実はそれが〈ニッキー・ミナージュ〉よりも先に誕生していたオルターエゴであることははっきりと主張している。

子供の頃、家庭に問題を抱えて両親との喧嘩が絶えなかったというニッキーは、その現実逃避としてさまざまなオルターエゴを生み出して遊んでいたそうだが、〈ハラジュク・バービー〉はそんななかで生まれた〈クッキー〉に続く2番目のキャラクターだというのだ。このへんの経緯は恐らくデビュー・アルバム『Pink Friday』収録の“Dear Old Nicki”であきらかにされていると思うが、「ファンタジーこそが私にとっての現実だった」と当時を回想するニッキーはまるで映画「プレシャス」の主人公クレアリース“プレシャス”ジョーンズのようでもあり、こうした生い立ちがまた彼女が同性からの共感を集めることに繋がっているのは間違いないだろう。

そして、そんなニッキーが生み出した最新のペルソナがトレイ・ソングズ“Bottoms Up”で初登場した〈ロマン・ゾランスキー〉(言うまでもなく元ネタは映画監督のロマン・ポランスキー)だ。このサイコティックなキャラクターは『Pink Friday』収録の“Roman's Revenge”にふたたび出現して共演相手のエミネム(=スリム・シェイディ)を喰わんばかりの怪演を披露しているのだが、こうしてラッパーとしての確かな力量を示す一方、人気サイト〈Complex.com〉で〈A Guide To Nicki Minaj's Facial Expressions〉(ニッキーの変顔集といったところか)なんて企画を成立させてしまうあたりに、ニッキーのポップスターとしてのポテンシャルを垣間見る思いがする。決して気の利いたキャッチフレーズとは言い難いものの、ビルボード誌がニッキーのカヴァー・ストーリーに掲げた〈The First Lady(Gaga)Of Hip-Hop〉なる文句は(これまで検証してきた彼女のバックグラウンドを踏まえてみても)あながち的外れでもないのである。

 

▼関連作を紹介。

左から、レディ・ガガの2009年作『The Fame Monster』(KonLive/Streamline/Cherrytree/Interscope)、“Harajuku Girls”を収めたグウェン・ステファニーの2004年作『Love. Angel. Music. Baby.』(Interscope)

インタビュー