OKAMOTO'S
ここまで進化したよってことを伝えるには、このタイミングしかない
例えばローリング・ストーンズ、例えばキンクス。60年代初頭にデビューしたこれらブリティッシュ・ビート・バンドの多くは、デビュー作をリリースしてからすぐさま立て続けに作品を発表している。そして、そのほとんどにリズム&ブルースなどのカヴァーを収録し、自分たちのルーツとしっかり向き合っていた。OKAMOTO'Sの怒濤劇を見ていると、まさにそうした時代のバンドたちが重なってくるが、本人たちは自覚しているのだろうか。
「そこはわりと意識していますね。半年ですぐ次のアルバムを出すなんて、こんなこと最近誰もやってないだろうって」(オカモトレイジ、ドラムス)。
「短いスパンだとバンドの変化がグラデーションになってわかりやすく伝わると思うんですよね。いまは思ったことを赤裸々に出していきたいなと思っていて」(オカモトコウキ、ギター)。
激動の2010年
若手バンドのなかでも今年もっとも飛躍的な活躍を繰り広げたOKAMOTO'Sが、今年5月に発表したアルバム『10'S』からわずか半年ほどのスパンで、早くもニュー・アルバム『オカモトズに夢中』を発表する。もちろんこれだけでも十分タフだ。だが彼らはここ半年ほどの間、2年分……いや5年分ほどにもあたる濃密な時間を過ごしてきた。春先にUSはオースティンで毎年行われている〈SXSW〉に参加し、そのまま全米6都市を回るツアーに乗り出す。そして帰国してすぐに前作を発表。その後日本国内のイヴェントに多数出演しながら、7月にはオーストラリアのバンドであるサースティ・マークに招かれて豪州でツアーを敢行、日本の夏フェスにも多数出演した。しかも自分たちのライヴ・サーキットをこなしながら、だ。その合間にこうして新作を作っていたのだから驚かされてしまう。
「それは自分たちでも思いますね。ただこの夏まで含めて、短期間にここまで進化したよってことを伝えるにはこのタイミングしかないと思ったんです。だからって勢いで一気に作ったという自覚もなくて、結構練って時間をかけて作った実感もあるんですよ」(ハマ・オカモト、ベース)。
「勝手に出てきたものをまとめたっていうより、〈こういうのを作りたい〉って気持ちが先にあって、それに近付けるような感じになってきているんです。少しづつ作曲の作業をするようになったんですよ。ただ吐き出すだけじゃなくてね」(オカモトショウ、ヴォーカル)。
今回もスピード感と機動力に溢れた仕上がりではある。ただ一方で、“Telephone Telephone”“キモチとキモチ”といったポップな曲が象徴するように、彼らが本質的に持っているチャーミングな部分、人懐っこい部分がかなりデフォルメされた曲も多い。言ってみれば、最初はシンプルなビート・チューンばかりだったラモーンズが、やがてフィル・スペクターと組んでみたりするようになった進化にも似ているわけで、それをたった半年ほどで形にしてしまったOKAMOTO'Sは恐ろしいスピードで時代を駆け抜けているということになる。しかも、〈ポップ〉というキーワードを掲げながら。
「OKAMOTO'Sのこれまでの空気的に、〈こんなのやっていいの?〉みたいな曲でもいまなら全然できるっていうか、やれちゃうんだってことがわかってきて。自分たちの受け皿が大きくなってきている実感があったんです。だから今回は抵抗なくやれたんですよね。カヴァーで“One More Time”を取り上げてみたのも、いままであまり出していなかったポップな感覚が出た結果だと思いますね」(レイジ)。
「それに伴って曲の作り方も変わってきました。“誘惑ブギ”なんかは2つの曲が合体して出来たりしたんです」(コウキ)。
わかりやすく、ダイレクトに伝えたい
また、〈毎度お楽しみ〉のカヴァー曲も3曲用意。エアロスミス(というより、ランDMCを意識したそう)“Walk This Way”、ジョー・ジャクソン“One More Time”、そしてゆらゆら帝国“美しい”という振れ幅のあるセレクトは、彼らが持ち札を増やそうとした結果だったと言えるだろうし、「最近になってエルヴィス・コステロの良さがわかるようになってきた」とショウも話しているように、彼らの考える音楽観に広がりが出てきた結果とも言える。若さを全開にしながらも、彼らは自分たちの、そして音楽のプログレスをしっかりと見据えているということなのだろう。そして、その自覚はグッと骨太になった演奏にもしっかりと表れている。この腰の据わった頼もしさは、もはや10代の暴走では片付けられない。
「僕らがやっていかなきゃという思いはあります。僕自身、昔の歌謡曲を聴いていたというのもあったんですけど、今回はやっぱりもっとわかりやすくダイレクトに伝えたいという気持ちもあって。僕自身、作業中の音を聴いたりしながら、〈これだと音と歌がぶつかるな〉とか〈こっちのほうがシンプルでいいな〉とかってことを考えていたんです。そうしたらショウもわかりやすい歌詞を書いてきたし、コウキもポップなリフとかを考えてきた。メンバーみんなが自然とわかりやすくポップなほうにフィットしていったんじゃないかなって思いますね」(ハマ)。
ところで、メジャーからの2作目ということで、過去のさまざまなセカンド・アルバムで印象に残っている、好きなアルバムは?と訊ねたところ、レイジなどはウンウンと唸りながら手元のパソコンを開いたりしつつ、こう答えてくれた。
「はっぴいえんど『風街ろまん』」(コウキ)。
「ゴールデン・カップス『第2集』」(ハマ)。
「ザ・フー『A Quick One』」(ショウ)。
「(エルヴィス・)コステロ『This Year's Model』」(レイジ)。
ファンのみなさん、ディグってくださいよ!
▼OKAMOTO'Sの作品を紹介。
左から、2009年作『Here are OKAMOTO'S』(redrec)、2010年作『10'S』(ARIOLA JAPAN)
▼OKAMOTO'Sのメンバーがピックアップした作品を紹介。
左から、はっぴいえんどの71年作『風街ろまん』(URC/ポニーキャニオン)、ザ・ゴールデン・カップスの68年作『ザ・ゴールデン・カップス・アルバム第2集』(EMI Music Japan)、ザ・フーの66年作『A Quick One』(MCA/ユニバーサル)、エルヴィス・コステロの78年作『This Year's Model』(Radar/ユニバーサル)
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