ヤン富田とペーター・フィッシュリ、ダヴィッド・ヴァイス(2)
しかし、このファースト・アルバムは、リリースされて20年弱経つのに、あまり時代感を感じさせない不思議な作品だ。時代を超えても〈古くさい〉感じがしないもの、それはクラシックやジャズなどがそうであろう。ジャズ界の異端児にして巨匠=Sun Raの《We Travel The Spaceways》をこのアルバムの中でカヴァーすることにより、また、50-60年代のエレクトロニクス、テープ・コラージュ作品のような作品がポップなトラックの合間に散りばめられていることにより、聴き手の音楽時代的な感性を大きく揺さぶり、全体の雰囲気が〈時代感〉から解き放たれ、ヤン富田が 目指した(と思う)ある種の宇宙的な感覚をうまく実現している。また、シンプルなレゲエビートにディレイでのダブ処理を施した17分を超す大作《Dub Invader》などではDub特有の空間音響効果を演出し、クラブミュージックの匂いもアルバム中、十分に漂わせている。所々で、トリニダード&トバコでのフィールド・ レコーディング音を聞くこともでき、何となく開放的な風通しの良いエキゾチック感をもエッセンスの一つとして取り込んでいる。このアルバムは、一見バラバラな要素を組み合わせたようにも思えるが、実はエッセンス一つ一つが根底でつながり合っていることにより、全体として統一感のとれた〈力強い〉表現となっている。しかし、決して肩肘に力の入ったところは見せず、うまく音楽を楽しませながらも、聴き手の耳を開いてくれる。
©グレート・ザ・歌舞伎町
現代美術の世界ではどうであろうか? ちょうどいいお手本になる興味深い展覧会が2010年9月18日から12月25日まで、金沢21世紀美術館で開催されている。『ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス』。ペーター・フィッシュリ(1952年生)とダヴィッド・ヴァイス(1946年生)は、ともにスイス・チューリッヒ出身の現代美術アーティスト。1979年、部屋の中の日常生活空間(冷蔵庫の中、洗面所、ベッド、バスタブなど)で、ソーセージやハム、吸いかけのタバコ等を用いて、火事、山の一場面、交通事故、歴史的事件を一つのジオラマとして表現しそれを写真に収めた作品「ソーセージ・シリーズ」を発表、共同制作をスタートした。この作品を具体的に説明すると、例えばピンク色の洗面所にある鏡の前の狭い棚の上に、洋服のようなものを貼付けて立たせた数本のソーセージを写真に収めた作品《ファッション・ショー》、重ねられた (柄のある)薄切りハムが何種類か床の上に置かれた《絨毯屋にて》、ベッドの上で枕を立たせて山々を作り、その凹地に青いお盆で湖を表現した《山の中》、バスタブにて発泡スチロールで作った氷河の間で沈みかけたボトルで表現した《タイタニック》など、どれもごく普通の部屋の中で日用品を使って作られたジオラマ写真だ。
カテゴリ : Exotic Grammar
掲載: 2010年11月19日 18:30
更新: 2010年11月19日 21:47
ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
text:町田良夫(音楽家/美術家)