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In My Own Words

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年09月22日 17:59

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

文/池谷昌之

 

オランダから現れた期待の新星、イーシャン

 

 

2000年代後半からのR&Bシーンのある流れは、ざっくり〈ニーヨ以前/以降〉と分けてしまえるのでは。USメインストリームの中心でメロディーの復権を掲げた彼の歌声は世界各地への波及を見せ、エレクトロの潮流やアーバン・ミュージックのクロスオーヴァー志向も合わさったことで新たなる可能性を生んだのも事実だろう。2010年にUKのR&Bアクトが全米制覇を成し遂げたのも、その〈波〉の揺り戻しと考えることはできないだろうか。

翻って、ここ日本。ニーヨ的なるものはメロディアスな音楽を好むリスナーに広く受け入れられ、国内のレーベルが主導してCD化を実現させたアーティストも数多く、しかもUSに限らず世界各地からそれらを〈発見〉している。これは日本のリスナーとレーベル群が作り上げた独自の〈R&Bシーン〉による、誇るべき業績と言っていい。そのなかでも、特にここ数か月で頻繁にリリースを重ね、目覚ましく躍進しているレーベルがSTAR BASEだ。レイザー、タニア・クリストファー、マット・キャブ……これらに共通するのはまさしく、R&Bとポップとの垣根を軽快に跨ぐ現行シーンど真ん中のテイストだろう。

そしてそのSTAR BASEが送り出す新たなアーティストこそ、このイーシャンだ。イラン生まれオランダ育ちの22歳であり、結成したヴォーカル・グループが本国の人気オーディション番組で見事に優勝してデビュー。シングルはオランダだけで5万枚の売り上げを記録したが……1年後、イーシャンの学業優先などのためグループは解散したという。その後、みずからソングライトの腕を磨きながらソロ・デビューの道を探っていた彼はSTAR BASEに〈発見〉されることとなる。

耳の早いリスナーなら、昨年の初春あたりからニーヨ“Because Of You”直系のスムース・ダンサーである“On Our Own”という曲名を目にしていただろう。にわかに話題になったこの曲のシンガーこそイーシャンであり、T・タウンなるオランダのプロデュース・チームが手掛けたものだった。今回登場するアルバム『Genuine』もそのテイストを基調とする爽快な美メロ曲が詰まった内容となり、制作にあたってはすべてSTAR BASE側からのリクエストで進行したという。アッシャー“Twork It Out”のカヴァーはイーシャンからの〈2000年前後の曲をカヴァーしたい〉という提案もあって決定したそうで、原曲をさらに爽快にしたトラックとさらりとした歌い口とが生む甘酸っぱい聴き心地はまさしく選曲の妙だろう。前述のT・タウンが以前、エリーシャ・ラヴァーンのために作ったもののお蔵入りしていた音源“On Your Side”を、そのエリーシャとのデュエット仕立てでこのアルバムのために復活させたという逸話も興味深い。また、タニア・クリストファーのアルバムを全面プロデュースして注目度を上げているティアース“キッゾ”キーズとリル・エディが共作した“Dance Our Way(Into Love)”も、日本で好まれる曲調を意識してプロデュースにあたらせたそうだ。

もちろんイーシャンという実力あるシンガーの存在ありきだが、本作をはじめとするSTAR BASE関連作のように、日本国内のマーケットで好まれるテイストを正確に把握し、トレンドも踏まえたR&Bに仕上げるセンスと手腕は並大抵ではない。日本でしか通用しない〈ガラパゴスR&B〉? いや、日本主導のR&B作品が世界の他のどこにもないものを生み出していることは間違いないだろう。日本にも確実に届いた潮流を新たなうねりにして世界へ向け返す、その〈波〉がどこへ向かうのか、目が離せない。

 

▼関連盤を紹介。

左から、“Twork It Out”のオリジナルを収めたアッシャーの2001年作『8701』(LaFace/Arista)、エリーシャ・ラヴァーンの96年作『Her Name Is...』(cutting edge)、リル・エディの2009年作『City Of My Heart』(Manhattan/LEXINGTON)

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